ErogameScape -エロゲー批評空間-

shiratoriさんの美少女万華鏡 -神が造りたもうた少女たち-の長文感想

ユーザー
shiratori
ゲーム
美少女万華鏡 -神が造りたもうた少女たち-
ブランド
ωstar
得点
79
参照数
34206

一言コメント

一言でいうと『沙耶の唄』の180度正反対のテイストの作品です。どう正反対かというと……。(2015.4.13,15,19:テーマと世界観について加筆修正。2015.4.18,19:演出面について加筆修正。2015.5.5:番外編「長文コメント参照回数の異常について」を最後に追記)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まさか、メーカー自ら「オカルティック官能AVG」と銘打つ『美少女万華鏡』シリーズで、SF作品がプレイできるとは、夢にも思っていませんでした。そのため、内容など全くリサーチもしないでやり始めたので、あれ? あれ? あれれ~!?!、みたいな。この作品の直前にプレイした『紙の上の魔法使い』の方が、よっぽどオカルトですよね。

さて、私はSF作品は大好きなのですが、『沙耶の唄』をプレイした時は、海外SFに比肩しうる作品が、ついに日本にも現れたでした。それくらい衝撃的でしたね。そんな作品を比較対象とするなど、全くもっておこがましいのですが、現在では同じ価格帯なので、まぁ、分かりやすいので、良いかなっと。

では、早速、比較すると、私の大雑把な主観では、次のとおりです。
     「沙耶」「少女」
  萌え: ×   ○(◎?)
  エロ: ×   ○(◎?)
  グロ: ◎   ×
  感覚: ◎   ◎ ← 同じ◎評価でも、受ける印象や性質は正反対
  物語: ◎   ○
  衝撃: ◎   ○
  時間: 短   中
  価格: 低   低
 ※感覚:ここでは視覚、聴覚、雰囲気を指す
 ※衝撃:作品から受けるいろいろなインパクトの度合。コスパも含む
     私の場合、90点以上を付けるかどうかの評価項目

人によって、どこに重きを置くかで評価が変わると思いますが、価格と内容(萌え、エロ、グロ、感覚、物語、衝撃)と時間を、他のフルプライス作品と比較した上で、点数をつけている人が多い様に感じています。

もし「他のフルプライス作品と比較」なら、コストパフォーマンスは抜群といっても良いので、高得点になるのではないでしょうか。しかし、純粋に作品内容だけで評価するとなると、この程度の出来のお話はSF作品にはごまんとあるし、シナリオも『沙耶の唄』と比較してしまうと、やっぱり普通だよなぁと思ってしまいます。グラフィックは素晴らしいのですが、さりとて、今やどこの作品でも、それなりに素晴らしいですしね。

そもそもタイトルに書いたとおり、『沙耶の唄』の180度正反対のテイストの作品ですからね。つまり、海外SFに比肩しえない作品なわけで……。

そのため、何点つけるかで、けっこう悩みました。70点未満は有り得ない。しかし、80点以上は殿堂入りだから、私の心に訴えかける何かが必要。その何かがコスパというのは、何か評価軸的に違うのではないかと。例えば、割引や中古品で安く手に入れたからといって、評価が異なって良いのだろうかとか。などなど考えて、自分のSFに対する思い入れ補正も考慮すると、70点台後半は確実かなと。しかし殿堂入りには、やはりスパイス不足なのは否めない。で、殿堂入り一歩手前、79点としました。ただ、悩むだけの価値がある作品であることは間違いありません。普通に良い作品だと思います。


以下は、作品内容について、思うことを記します。

○テーマについて
私は昔、CLAMPの『ちょびっツ(Chobits)』に入れ込んでいた時期があって、ウィキには「機械と人間は恋をすることができるのかというSFの古典的なテーマを真正面から描いたラブストーリー」とか書いてありますが、当時の私は、どちらかというと『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のテーマを追い求めていました。つまり、人間とロボットの違い、ひいては心の本質についてですね。

翻って本作品。ロボットには心があるという設定なのに、主人公はといえば、ロボットには心がないので物として扱うというスタンスなわけです。そして、それ以上、その問題について深掘りしないので、話として読みごたえが全くありません。正しく、上記で挙げた「機械と人間は恋をすることができるのか」の上っ面を追っているだけで、なぜできるのか(又は、できないのか)について、ぜんぜん迫ってくれないので、葛藤も悩みも喚起しないのです。これでは、肩透かしです。少しは考えさせろよって思ってしまいました。80点以上つけられない理由の本質は、これですかね。
(補足事項:以下の「○ライターについて」の例4を参照)

○世界観について
「荒廃した世界と旧文明の残滓」や「道徳と退廃」といった対立を横軸("舞台")に、「人間と非人間との葛藤」を縦軸("俳優")とした作品構成は、嫌いじゃないですが(どちらかというと好きかも)、この場合、"演劇"としてきちんと昇華できているのかどうかが、評価の分かれ目になると思います。その実現のためには、"脚本"(シナリオ)と"演出"(<視覚=グラフィック>や<聴覚=BGM+声+効果音>)の"共演"による相乗効果が求められるでしょう。

それでは、本作はどうかというと、その志はすばらしいのですが、まぁ、はっきり言って、シナリオは凡作だと思います。上記でも書きましたが、この程度の出来のお話は、SF作品にはごまんとあるのです。しかも、もう書き尽くされているテーマといっても過言ではありません。しかし、グラフィックやBGMなどの演出面がそれを補って余りあるので、良い雰囲気を醸し出してくれています。それは素直に認めなければいけません。そして、燈露椎(ドロシー)は、この世界観に合っていると思います。しかし、亜璃子(アリス)は、残念ながら合っていないと思います。ある意味、ぶち壊しているのではないかと。とはいっても、皆が皆世界観に合った存在だと、作品のメリハリ的にどうなのよってことにも……。難しい問題ですよね。

さて、ここで問題です。作品の最初あたりで、村の青年が、一頭立ての馬車に乗っている場面があります。私は思いました。いったい馬の食料はどうしているのだろうかと。過酷な砂漠環境で、村は貧しい筈なのに。村の設定とかを考えると、とても、馬を維持できるとは思えないのです。どこかに牧草地とかオアシスでもあるのでしょうか。これが、ずっと気になって気になって仕方がありません、私(わたくし)。

○演出面1:<グラフィック>関係について
全体的に、質は高いと感じました。オープニングの塔の背景画とか、けっこうゾクゾクしちゃいます。なのに、それをストーリーに全く生かしていないのが、残念でなりません。SF作品なら、空想の世界描写を存分に見せてナンボでしょうと、私は常々思っています。だから、映画の『エイリアン』なんか、惑星に降り立って異世界の宇宙船を探索して、さぁこれからって時に、さっさと自分達の宇宙船に引き返すストーリー展開が、全くもって許せませんでした(私だけかな、こんなこと思っているの)。

話がそれたので本題に戻って、全体的には良い感じなんだけれども、次の二点の描写が気になりました。
一点目:チェシャ猫のようなニヤニヤ笑いを浮かべて、あれほど待っていた蓮華が、僕の目の前にちょこんと座っていた。
 ⇒「チェシャ猫のようなニヤニヤ笑い」に、蓮華の顔の表情がなっていないと思いました。
  そもそも、チェシャ猫の笑いって、歯を見せた「耳から耳まで届くような」ニヤニヤ笑いな訳ですよね。
  いくらなんでも、蓮華には合わない表現ではないでしょうか。単なるニヤニヤ笑いで良かったのでは……。
  だから、実際のおちょぼ口をちょっと開けた演出は、ニヤニヤ感は少し足りていませんが、合っていると思います。

  そのためライターには、チェシャ猫の笑いの意図を訊いてみたい気もしますが、私の想像では次のとおりです。
    理由1:チェシャ猫も蓮華も、消えたり現れたりする共通点がある
    理由2:チェシャ猫のように、消えた後も、ニヤニヤ笑いが脳裏に残るニュアンスを残したかった

  だとすると、①「チェシャ猫のような」ではなく、②「チェシャ猫のように」とするべきだったと思います。
  私の日本語解釈(とても怪しい)では、①は名詞にかかり、②は動詞にかかるので、
    ①ではチェシャ猫と同じ笑い方(歯を見せた「耳から耳まで届くような」ニヤニヤ笑い)を示す
    ②では「笑いを浮かべる」行動に力点があり、その行動には、
    チェシャ猫の笑いの性質(消えた後の笑いの残り香)は含まれるが、
    ニヤニヤの笑い方が、チェシャ猫と同じかどうかは定かでない
  となります。

二点目:馬車のシーンで、馬の足捌き描写が、八の字に。
 ⇒昔のヨーロッパの絵の中の馬みたいで、思わず笑っちゃいました。

○演出面2:<BGM>関係について
正しく、本来の目的どおりの「控え目な主役にはならない演出のための背景音楽」って感じで、どの曲も耳に心地よいです。物憂げな、愁いを帯びた、物悲しいアレンジの曲が多いので、本作の世界観に、どれもピッタリだと思いました。なので自分の好みも何もないのですが、この世界の風景、風土やテーマのイメージを喚起させるという観点で「異国の出来事」「塔の上の思索者」「悲しき玩具」を、敢えて私は挙げたいです。

○操作性について
凄く良いです(といっても最低限の機能が普通に反応するだけなのですがね)。特に、ゲーム画面の上段にマウスカーソルを持っていくと、「ゲームの終了」「タイトルへ戻る」「画面切り替え」の各ボタンが表示される仕様が良かったです。何しろ、直前にプレイしていた『紙の上の魔法使い』の操作性が最悪だったので、それに比べたら天国に感じてしまいました。

○エロについて
恐らく、これが『美少女万華鏡』シリーズの売りの一つだと思うのですが、文章がいまいちですかね。絵と動画の描写は、普通かな。高評価できるほど、エロくは感じませんでした。どちらかというと、各シーンのプロットがワンパターン化されていることが、気になりましたね。まぁ、他社のエロゲーも似たり寄ったりですけど。
全体の半分は、エロシーンって感じなので、最初、亜璃子(アリス)ルートをやっていた時には、エロシーンイベントが連続したので途中で飽きてしまって、投げ出したくなったほどです。このあたりは、今後の作品で改善を求めたいです。でも、燈露椎(ドロシー)とのお風呂でのフェラチオシーンのアニメーションは、ちょっと興奮したのを白状しちゃいます。

○ライターについて
・ライターは、理系の人? いくつかの文章表現から、そう考えたのですが……
例1:ドロシーの表情は、マイナス273度の世界で凍りついたかのように変わらなかった。
 ⇒私には、絶対零度での凍りつき状態がイメージできませんでした。たぶん、全く表情が変化しない状態を誇張したかったのだと思いますが……。"度"より"度C"と正確に書いた方が良かったのではとは思いますけどね。"度F"かと思ったと嘯く輩がいないとも限らないしネ!
例2:龍之介「信じてくれ、アリス、いつの間にか俺達には、クーロンの法則のように、正電荷と負電荷のように、互いに引き付けようとする力が働いていたんだ!」
 ⇒普通の人は、磁石のN極とS極で例えそうだけど。
例3:蜜の滴るような甘い囁き、ぴちゃぴちゃと粘着くカウパー氏線液の響き、ペニスに絡みつくような柔らかなおっぱいの摩擦……。
 ⇒先走りや我慢汁じゃなくて、カウパー氏線液。カウパーって書いている作品はときたま見るけど、フルネームは久しぶり。でも、私もフルネーム派かな。

・ライターはSF好きかも
例4:一体、彼女は、人間と何が違うのか?
      ¦
   カレル・チャペックの小説『R.U.R』にこんな場面がある。
   ロボットにはなぜ人権がないのかと抗議する女性に、ロボット会社の支配人が言う。
   『それは魂の作り方を誰も知らないからです』と……。
   だが、『魂』とは一体何なのか……?
   本当にそれは、人間にあって、ロボットにはないものなのか。
 ⇒最初に間違いを指摘しておくと、正しくは『R.U.R.』で、小説ではなくて戯曲です。
  で、『R.U.R.』を取り上げたところに、このライターのSF魂を見た気がしました。
  ロボットなだけに、<原典&原点>を押さえておくことは、大事ですよね。
  ここ、すごく重要な事が説明されています。それなのに、
    「……その答えは、俺には出せなかった。」
  って、大風呂敷を広げた後に、いきなり畳んでどうする。
  その後の主人公のスタンスもずっと、
    「その時の俺は……気づかずにいたのだ。
     AIというものが、人間と同じように、自分の意志を持っているだなんて……。
     心を、持っているだなんて……。考えもしなかったのだった。」
  って、本当になんだかなぁって感じです。
例5:アリスとドロシーがそばにいてくれれば……俺はまたきっと、頑張れる。それが俺に出来る、たったひとつの冴えたやりかたなのだと思った。
 ⇒でた~、「たったひとつの冴えたやりかた」。本当にSF好きのインテリライターは好きですよね、このタイトル。
  最近のエロゲーだと、『ハロー・レディ!』でも引用されていたよね。
   菱吾「それはもう、こういった事情で成るようになってしまったからには、冴えたやり方は、たった一つしかございませんでしょう」
  少し前のエロゲーだと、例えば『最果てのイマ』での引用(忍の場面で2箇所)かな。
    「冴えてはいないが、たった一つのやり方には違いない。」
    「貴重な、たった一つの冴えたやり方そのもので」
  引用の仕方も、ライターのランクが端的に表れていて面白いですね。
    ----------------------------------
    Cランク:そのまま引用
    Bランク:倒置して引用
    Aランク:倒置した上で反転して引用
    Sランク:???
    ----------------------------------
  さて、今回はティプトリーの作風にも相通じるものがありそうな気もするので、引用も止むなしといったところかな。

・それとなく、パロネタが
例6:龍之介「うおおおっ……この全く違う魅力の科学反応(ケミストリー)、これこそ電荷衝突のランデヴーだっっ!!」
 ⇒なに、この誰かの口癖の物真似は……。
例7:過去の人間とロボットとの戦争の話の中で
ドロシー「そ、そうね……こればかりは博士の異常な性欲に感謝です」
 ⇒「博士の異常な性欲」、キューブリックの『博士の異常な愛情』に引っ掛けているのは、明白。
  ライターとしては、狙っていたよね、この文章。「博士の異常な性欲」にカンパイ。
例8:ドロシーとのラノベ話で
 龍之介「こ、これは……タイムマシンを作って、是非とも確かめてみたいな!」
 マッド・サイエンティストの血が騒いだ。
 ドロシー「電話レンジ(仮)ですね」
 龍之介「いや、ゼリーになるのはちょっとなぁ……」
 ドロシー「その時はお供します」
 龍之介「ははは……そうだな、もしかしてサーヴァントと戦わなきゃいけない事態に陥るかもしれないしな」
 ドロシー「私がマスターをお守りします」
⇒そのまんまじゃないですか。ライターは、この二作品を気にしているのかな。
 そもそも、キャラ設定も含めて、他にもいろいろと……ネ!

○その他
トトって、犬のメタモルフォーゼだと思うのだけれど、これをグッズ化したら売れるのだろうかと、ふと考えてしまいました。勿論、購買層は、男が~ではなく、女の子ですが……。

それにしても、この作品、いろいろな賢者の言葉の引用が多いですよね、やたらに。このライターの作風なのか、それとも、この作品だけなのか。二作目はやってないけど一作目はやったのに、ぜんぜん覚えていない。フルプライス作品を書かせたら、どの様な作品になるのか、ちょっぴり興味がわいてきました。もっと、エロじゃないシーンを、いろいろ書き込んだ作品、出して欲しいです。たぶん、予算的に体力がなさそうなので、無理っぽそうだけど。

そういえば、修正パッチが出ていたのですね。適用しないで、そのままやってしまいました。11箇所くらい誤字脱字があったのですが、どれくらい直っているのかなぁ。演出の微調整ってのも、どこなのか気になります。

気になるといえば、オープニング映像での主人公達が住んでいる塔に刺さっているナイフの様な形状の物体、一体、何なのだろうか。単なるデザインなのか、何らかの機能を有しているのか、攻撃された名残なのか。話のどこかで説明とかあったのだろうか。本当に気になります。

更に気になるのが、このシリーズに限らず、年々、ユーザーの書き込み件数が減少していること。本当にエロゲーの市場規模、大丈夫なのでしょうか。有名なライターさん達は、表の世界に引っ張られ気味だし、動くお金の規模も違うし、世間体的にも後ろ指を指されなくてすむし、もう裏の世界の仕事、しなくなっちゃうかもだし。本当に悲しいです。なので、ωstarさんには、今後も頑張って欲しいなって思っています。

以上、最後まで読んでくれた人、有難うございます。お疲れ様でした。

■番外編:長文コメント参照回数の異常について(2015/5/5追記)
この件について、現時点で何もアナウンスがないので、忘れられないために、記述しておきます。

2015/5/5時点で、33000回以上参照されていることになっていますが、チートです(^^;)。ではなくて、勿論、何らかの不具合発生によるものです。一桁目か五桁目を削除すると実態の値に近いかも。本来4日分しか表示されないアクセスログに、4/11から記録が残ったままになり(ということは、4/15あたりで不具合発生か?)、消えずに溜まったアクセス分が毎日、朝方に追加カウントされ続けた結果です。しかも、他の作品の登録もです。

5/4に直ったのですが、それまでの参照回数の値は修正されず、現在にいたっています。恐らく他の人達の登録も同じ状況ではないかと推測するのですが、問題なのは、現状、参照回数が本来の値に直らずにそのままカウントされ続けているため、今や、5/3以前に登録された長文コメントの参照回数の信頼性が、全く無くなってしまったことです(一番、実態と掛け離れた値を示すのは、上記の不具合発生期間中に大量の参照があった長文コメントですが……)。

因みに、各ユーザ毎の長文コメント参照回数はリアルタイムの値を表示するのに、長文感想のコメントデータ欄の参照回数は、なぜ「だいたい」の表示しかさせないのかと、いつも思ってしまいます。
(Q&Aに「PV+Unique」と「Unique」の違いだと説明がありました。つまり「Unique」の値は既に確定しているから、もう直しようがないみたいですね)