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shaneさんのアトリの空と真鍮の月の長文感想

ユーザー
shane
ゲーム
アトリの空と真鍮の月
ブランド
TOPCAT
得点
78
参照数
226

一言コメント

主人公の思考回路が受け付けない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

淡い温かな水彩画を彷彿とさせる背景、優しいタッチのCGやまったりとした田舎の世界観は素晴らしかったです。
ただしそれは表面的なもので、田舎特有の差別やヤクザとの癒着、不気味な信仰等、裏の顔があります。
終盤は地球外生命体、遠き神々と古き神々との争いがメインなのですが、急にテーマが壮大になって収拾がつかなくなり、説明不足なまま終わってしまった印象があります。
文乃ENDは、結局文乃と月乃が目指した場所詳細が伏せられたままのブツ切りラストで、
明らかに続編を出す事を示唆する演出だったんだろうなと。
メーカーがギャラ問題等でやらかしてしまっているようなので、もう続編は世に出なさそうですが。
最終ルート以外は、毎回同じような展開や説明が繰り返され、無駄に長く感じたので、
もっと端的にまとめて主人公をどうにかしてくれたら、もう少し評価は上がったのに。本当に惜しい。
あとせっかく山奥の田舎を舞台にして、春夏秋冬の季節ごとに章を分けているのだから、もっと桜や紅葉といった草花や食材等、四季折々を感じさせてくれたらなあ。

月乃文乃ルート以外の主人公の思考が致命的に合いませんでした。
主人公の輩人は村の中で唯一の同年代の男子設定のせいか、無意味にモテます。
しかしあまりに頼りなく、主人公の器ではなかったです。
砌と二人でいる時に襲撃者に攻め込まれ、砌が襲われている所を見ても、自分だけ我先にと逃げて部屋の隅に隠れて様子見。
砌と恋仲になってるのに、欲望に負けて立花をレイプし、翌朝冷静になってびくびくしながら「もしかして俺やっちゃった?」と立花に訊ねたり。
暴行されてボロボロになっても尚主人公を思い「何もできなくてごめんね」と泣いて謝っている義母を見ても、適当に一声かけてそそくさ別室に逃げたり。
朝ルートでも、目の前で自分の義母や先生が凌辱されているのに(本気で嫌がって助けを求めている)、助けるどころか興奮してその場で朝とおっぱじめる。
抜きゲーならともかく、一応純愛?ゲーの主人公ですよね。
その後ご機嫌伺いに義母に電話し、白々しく「疲れてるみたいだけど大丈夫?」って。
完全にサイコパス思考。
感情移入なんて土台無理ですし、人としての心が欠落し過ぎてて、あまりのダメ主人公っぷりに涙が出そうでした。
そのくせ、CGにはヒロインと同じくらいの割合で、主人公の顔や身体がしっかり描かれており微妙な気分に。
(外見はお世辞にもイケメンでもなく、まさにイモっぽい田舎少年)
同じライターが手がけた「手毬花」や前作の「果て青」でも、ヒロインが前に出て戦って、主人公は後ろで傍観して何もしない、できないのに無意味にモテる設定だったなあ。
そもそも初Hも、ヒロインに誘われて断り切れず、好奇心が勝って、というものばかり。
(文乃とのHはムードもへったくれもない)
そしてなし崩し的にそのままズルズル関係が続いていく流れです。
ヒロインが「私達恋人同士だね」的な言葉を投げかけても、「うーん、そうなのかなー」「もしかしてこのまま結婚したりするのかなー」と他人事。
その上、他の各ヒロインに対して「この子を選んであげてたら、また違った展開になったのかな」と謎の上から目線。

特に残念なのは、義母の神那との関係が大して改善しないまま終わってしまった事。
あれだけ見えない所では、輩人の為にと身を粉にして尽くしているのに、輩人はそれに気付こうともしない。
後で気付いても「そうなんだ」と無感動な反応。
(一例として挙げると、神那は一緒に暮らしていた頃丹精込めて手料理を作っていたのに、輩人は気付かず、店屋物で手抜きと思ってた。)
堀田、三葉父やカヤマ君などの脇役はとても男気があって情に厚いのに、どうして主人公はこうなんだろうと不思議でしょうがない。
あと脇役と言えば、曽々木先生も助かって欲しかった。

ヒロイン達はキャラが立っていて本当に可愛かったです。
特に立花の健気さと芯の強さが素敵。
他のヒロインのルートでも、諦めつつも希望を捨てきれず、一貫して輩人を想い続ける様が切なかった。