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senya13さんのもののあはれは彩の頃。の長文感想

ユーザー
senya13
ゲーム
もののあはれは彩の頃。
ブランド
QUINCE SOFT
得点
90
参照数
507

一言コメント

個人的デスゲーム最高傑作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 アメイジンググレイス、さくレットと名作を生み出してきた冬茜トムさんの初企画作品。普及版が出るとのことで、そちらを購入しました。
 正直、びっくりするくらい面白かったです。序盤から終盤までまんべんなく面白くて、隙の無い作品だと思いました。
 アメグレのような切れ味抜群の伏線や、さくレットのような心に残る感動なんかはあまりないですが、その分頭からしっぽまで平均以上を保っていた優等生的作品だと感じました。
 基本的に双六をするお話なのですが、これがすごく面白い。己の運と、それぞれが一つだけ持つ固有の能力を駆使して相手を出し抜き、時には協力しながらあがりを目指す。この頭脳戦がよくできていて、予想もつかない展開が二転三転して目が離せませんでした。ルートごとに弐面のルールが変わるのでだれることもなく、また活躍するキャラが異なってくるので全ルート楽しかったです。やや強引な展開も見られましたが、それでも読ませるシナリオの力強さがトムシナリオの魅力です。
 特に好きなのは琥珀ルート。琥珀の正体はバレバレというか隠す気なかったようですが、猫であるという点を活かした双六の前提を覆す展開には感心しました。黎もかなり頭が切れていて、絶望感のある展開からのあのどんでん返しは鳥肌が立つほどに驚きました。虫の正体も予想外のもので、掌で踊らされっぱなしでした。冬茜トムさんは設定の活かし方が凄く上手。
 キャラクターに関しても、全員が魅力的で、誰一人欠けても成立しないシナリオだったという点もやはりトムさんの構成の巧みさに驚くばかりです。敵も仲間も皆かっこよくて、なんなら主人公が一番好きになれなかったまである。
 お気に入りキャラは琥珀と鹿乃です。鹿乃は攻略したかったな...とは思うものの、大誠と仲良くやってほしいという思いもあるのでこれで良かったのだろうと思います。鹿乃はこの作品で特にシナリオを面白くした要素でした。絶望的な現実を前に逃げたいと思う鹿乃と、それでも向き合おうとするみさきの対比も良かったですし、そんな彼女を救ったのが大誠だったというのも面白かったです。鹿乃と大誠のシーンは彩頃屈指の名シーンでした。そのあとのデレデレ鹿乃ちゃんもすごくかわいいし。
 黒幕に関してはあからさまだったのでバレバレでしたが、その所在についてはびっくりさせられました。確かに幻日だけ一人称視点だよなぁと不思議には思っていたのですが、そういうことだったとは。
 それと、BGMもすごく良かった。印象的なBGMが多くて、お話を盛り上げてくれました。いままでプレイしたエロゲの中ではトップクラスに良かったかも。

 双六世界に入るためには臨死体験が必要→全員死にかける必要がある→戻った時に待ち受けているのは高確率で死ぬという現実
 ここが作品のテーマと絡んでいて上手いなと思いました。現実は、双六のように一マス先が決まっている、なんてことはなく、きっと絶望的な未来もある。だけど、人は一人じゃない。沢山の人との縁があり、それが人を形作っている。一人じゃどうしようもない未来でも、皆となら乗り越えられる、立ち向かる。人と人とが寄り添いあって、どんな絶望にも打ち勝てる。そんな作品でした。私も周りの人との縁を大事に生きようと思います。
 


 ここからは少し不満点というか、惜しい点です。
 まず、双六の状況が分かりにくい部分があったことです。キャラのアイコンのせいで宿命が見えなかったり、誰の陣地かが隠れて見えなくなっていたりが多々あって、状況の把握にやや苦労しました。いつでもマップを見れる機能などがあればよかったかなと思います。
 それと、主人公が頭悪すぎなこと。これは冬茜トムさんの作品の弱点なのですが、とにかく主人公が馬鹿。特にクレアルートのカラスに騙される辺りはひどかったです。小学生でもしないようなミスを犯した挙句にまんまと口車に乗せられる。そらカラスも阿呆と言うわな...。阿呆だもん。基本的に主人公が頭脳戦で優位に立つことがなく、むしろ無能が故のピンチ、という場面が結構あったのが気になりました。シナリオの都合で頭が悪くさせられたみたいに見えました。
 それと、占いの効果がやや都合良すぎかと。凶を引いても雨が降るとかその程度の不運なのに、中吉で人の命を左右する幸運を引き寄せるのはなんだかずるいような気がします。