めちゃくちゃ面白い。が、未完故にこれ以上の点数はつけられない名作
俺つばもそうですが、このライターさんの書く共通ルートの面白さは業界の中でもずば抜けています。これほど笑えるテキストを書く人を私は見たことがありません。豊富な語彙と秀逸なユーモアセンスから繰り出される質の高いコメディは正に外れなし。ずっと笑いっぱなしでした。声を出して笑えるエロゲーはこれと俺つばしか知らないです。
有名な話ですが、それ散るは未完成品です。どうやらグランドルートがないままに発売してしまい、しかもそれが原因でスタッフが会社を辞め、Basilは倒産。続編になる予定だった作品もなくなってしまったみたいです。
桜井舞人は何者なのか?
桜香、朝陽は何者なのか?
なぜ舞人は過去の記憶を忘れているのか?
なぜ付き合ったヒロイン達は記憶を失ってしまうのか?
その他諸々
なんとなく予想はできるものの、結局作中ではこれらの伏線が語られることなく終わってしまいます。なので、消化不良な部分は結構あります。それを承知の上でプレイしてください。展開がおおむね同じなので感想は省略させていただきます。
俺つばもそうでしたが、この人の作品は「人は一人では生きられない」というメッセージが根底に流れているように感じます。それ散るは、このテーマを前提としたうえで、「恋愛」という形の人と人との関わり方を描いているように思いました。
つばさも言っていたように、きっと恋愛は錯覚であり、一時の魔法なのでしょう。あいにく経験のない私にはわかりかねる感覚ではありますが。だから魔法が覚めてしまえば恋愛は終わってしまう。でも、人は一人では生きられないから、その魔法を求めてしまう。そして、いつかはきっとその恋愛は覚めてしまう。覚めないかもしれないけれど、覚めるかもしれないという不安は消えない。そして、別れは非常に辛い思いを残す。期待は常に失望を二乗させると朝陽が言っていたように、幸せな時間が続いたからこそ、その時間が消えた悲しみはきっと大きい。
しかし、だからといって恋愛は無意味なものではない。いつか別れが待ち受けているとしても、愛し合っていた幸福な時間は心に刻まれる。その思いがあれば、どんな苦しみを前にしても人は立ち上がれる。
そんなメッセージが込められているのかな。と思いました。まぁ、未完なのでなんとも言えないですけど。
コメディの質は間違いなく一級品でした。笑えるエロゲをやりたい人におすすめです。