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senya13さんのClover Day'sの長文感想

ユーザー
senya13
ゲーム
Clover Day's
ブランド
ALcot
得点
70
参照数
560

一言コメント

主人公が全ての足を引っ張っている

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 プレイ中に感想をメモしながら進めていたらだいぶ分量が多くなってしまいました。考察不足&ツッコミどころがあるかもしれませんが、ご了承ください。やや長くなります。

全体的に

 Alcot作品をプレイするのは初めてでした。キャラデザの可愛さに惹かれ、セールということで購入した次第です。
 まずプレイを始めて驚いたのは、しゃべっているキャラクターの下にテキストウィンドウが移動するシステム。キャラの表情と台詞が同時に入ってくるのでかなり没入感があり、良いシステムだなと感じました。BGMもかなりハイクオリティに感じました。OPもすごく好きです。ルートに入る時、中盤、ラストに挟まれる手紙のような独白の演出も雰囲気作りに一役買っていて良かったです。
 シナリオは大きく二部構成になっています。付き合うまでと付き合った後でガラッと話の焦点が変わるという構成です。これは良く出来ていて、話に緩急がついていてだれずに進められました。
 
 ここからはネガティブ意見なのですが、まずコメディがつまらない。そして主人公が酷い。
 コメディはまぁいいです。私に合わなかった、それだけなので。主人公が最大の問題点です。主人公の性格や言動に納得がいきません。
 10年前の回想時の主人公が今の性格になるまでの過程が一切イメージできません。どういう変遷を経たら、あの純朴な少年がセクハラクソ野郎になるのですか?口調から性格までまるで別人です。確か父親の跡を継ぐために教育を施されていますよね?その結果があのセクハラ野郎ですか?教育失敗でしょ。
 主人公以外の子たちは、皆10年前の性格をそのまま成長させたような人物になっています。ヒカルは性格が大きく変わりましたが、その理由付けも納得のいくものでした。なのに主人公だけ性格が変わりすぎです。明らかに過去の主人公と今の主人公が乖離している。こういう経験があった結果今の性格になった、という過程が存在していない。主人公に積み重ねが感じられないから、彼の行動にも積み重ねや含蓄が感じられず、記号的なものにしか見えません。ただ主人公という肩書に沿った行動をするだけ。当然そんな人に魅力を感じるわけもなく、魅力のない主人公がハーレムを築いている現状にも納得できないです。エロゲという媒体の性質上、最も出番が多いのは主人公です。当然こんな出来損ないな主人公を何十時間も見せられては苦痛以外の何物でもないです。

以下各ルート感想

泉ルート
 主人公のハイテンションギャグが特に多く、常に滑っていたもんだから見ていられなかったです。告白シーンも、つばめの告白に割り込む形になっていたのがモヤモヤしました。後半のお話は悪くなかったのですが、これ何も解決していないのでは?結局瑞穂が重責を担うのは変わっていませんし、泉が西園寺に戻って瑞穂を支えるとはいっても、重責を担う少女が二人に増えただけです。義臣曰く経営はガタガタで、謀反も起きてしまった。ハッピーエンド風に締めましたが、ここから幸せになれる未来はあまり見えませんでした。
 あ、泉は可愛かったです。ツンデレ最高。共通ルート時点では一番好きなヒロインでしたが、期待にしっかり応えてくれました。イチャラブは。

つばめルート
 主人公の下ネタが一番ひどく、不快でした。いくら気心の知れた幼馴染だからって、言っていいことと悪いことがあるでしょう。その分別すらできないのならもう黙っててくださいよ。虎吉でさえ人前での下ネタはある程度慎んでいたのに。なんで堂々と公言するかな...。
 なぜかつばめにはヒロインとしての魅力を全く感じませんでした。他の方のレビューを見るに、おかしいのは私の方みたいです。
 多分、つばめに人間味が感じられなかったからだと思います。男が勃起したところを見て「私で興奮してくれたんだ」なんて言う女の子がいるわけないでしょう。これはフィクションとかファンタジー通り越してただの妄想。つばめ以外のヒロインは程度の差はあるものの否定的な意見を口にします。そりゃそうだ。普通の倫理観していれば当たり前の否定です。つばめはなぜか全て許してしまう。ここに非現実的なものを感じてしまい、ヒロインとして見られなくなったのかな、と思いました。いわば作中作みたいな違和感。
 シナリオは良かったです。つばめの苦悩や葛藤がしっかり描かれていました。ですがまあ、やはりヒロインとしてはそこまで好きではなかったです。

ヒカル&ヘキルルート
 かなり好きなルート。このルートは恋愛を主軸に据えていて、私がキャラゲーに求めた恋愛が描かれていました。特にヒカルの破壊力はすさまじいものがあります。
 他ルートでは主人公の理解者のような立場で、気の強いボーイッシュなキャラだったヒカル。そんな彼女が少しずつ自分の気持ちに正直になっていって、恥じらいつつも好意を主張していくようになる過程はすごく萌えるものがありました。これだよこれ。これが見たかったんです。ヘキルもしっかり可愛かった。双子設定に意味のある展開になっていたのも好印象でした。
 この子らだけハーレムですが、私は別にハーレムだとかどうとかは気にならないたちなので、普通に受け入れられました。作中でも言っていたように、本人たちが幸せならそれでいいと思います。今は多様性の時代。
 あ、主人公は変わらずにクソです。

杏璃ルート
 大人のかっこよさが光るルート。しかしシナリオはややお粗末。
 私が気になったのは選挙のシーンです。主人公が壇上に立って学校中に自分たちの関係を暴露するシーン。妹との関係を公表して大っぴらに付き合うという考えはいいです。ですが、主張の内容がいまいち響きませんでした。何が酷いって、まず最初に「俺たちは義理の兄妹だ」と言ってしまったこと。俺たちは兄妹だけれど本気で付き合っている、という本気度を伝えればよかったのに、何をとち狂ったのか言い訳から始めてしまいました。「俺たちは義理だから合法なんだよ」と。壇上にまで上がって言う事が言い訳かよ...と本気で萎えました。選挙がかかっているとはいえ。ここは本気度を伝えて、その演説に心打たれた事情を知る生徒が周囲に義理の兄妹であることを広める、という展開でよかったでしょう。言い訳から始められては何も心に響きませんでした。せっかくの決意も薄っぺらく感じられたし、それで手のひら返す生徒たちもなんだかなぁと。
 杏璃はめちゃくちゃ可愛かったです。声が良いですね。たまにキンキン響いて頭が痛くなりますが。あと節操なさすぎです。
 それとこれは重箱批判のようで申し訳ないのですが、美術部って確か全員幽霊部員でしたよね?選挙の時の美術部員の台詞に齟齬があるように思われます。複数ライターの弊害でしょうか。

杏鈴ルート
 他のルートは何だったの?レベルで完璧なルートでした。
 杏鈴がまず可愛い。桐谷華。最強。杏鈴のイチャラブも砂糖吐くほど甘くて良かったですし、前半の杏璃との衝突も納得できる展開でした。杏璃の気持ちに対する主人公の答えも納得できるもので、珍しく主人公がかっこよく見えたシーンでした。まぁ、杏鈴が付き合う前とほぼ変わらなかったので、あまり付き合ってる感はなかったかもしれません。ここは個人差。
 本気を出したのは後半。紫苑さんに焦点が当てられ、今作のテーマでもある「家族」の話になっていきます。辛いことも楽しいことも分け合いながら支えあって、前を向いて笑って進む。そこに血のつながりなどは関係ない。それが家族の在り方なんだというメッセージは純粋で綺麗事のようですが、紫苑の過去を踏まえた上で見るとすごく感動できるものになっていたのが上手いなと思いました。
 和については色々考察もできるのでしょうが、私は一種の救いかなと思いました。なくなってしまった人が生前どう思っていたかは分からない。けれど、きっと家族の幸せを願っている。親が子の幸せを願っているように、子が親の想いに報いようとするように。それをある種の反則のような手段で伝えたかったのかなと。

まとめ
 ネガティブな意見を書きすぎてしまいました。悪いのは全て主人公です。主人公を受け入れられるかどうかでこの作品の評価は大きく分かれるでしょうね。
 批判ばっかりのくせに点数は高いですが、これは杏鈴ルートとヒカヘキルートが良かったからです。この二つだけは本当に満足度が高かったです。全部がこのクオリティなら90点以上あげられる出来でした。
 キャラゲーとしては平均以上。でも主人公はゴミでシナリオの質にはばらつきあり。そんな作品です。全クリした時に喪失感があったので、これは良い作品だったんだと思います。