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senya13さんのHyper→Highspeed→Geniusの長文感想

ユーザー
senya13
ゲーム
Hyper→Highspeed→Genius
ブランド
ういんどみる
得点
90
参照数
411

一言コメント

至高のキャラゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 ギフトと呼ばれる異能力を持つ少年少女が世界を変える学園もの。主人公は、守護者(能力者)を育成する学園に通う非能力者。努力の末に手に入れた高速思考を武器に暗躍していく、というお話。
 正直、お話はもう少し面白く出来たのではないかな、と思いました。せっかく面白い設定と世界観なのですから、異能をもっとシナリオに絡めることができていたら、シナリオゲーとしても評価できていたでしょう。例えばパティの異能である唯我独尊が原因で主人公が非能力者バレする、みたいな展開があれば面白かったのですが、姫乃の正体を隠すための都合のいい隠れ蓑としか使われなかったのが残念です。サクラルートのかくれんぼも、皐月学園組の異能を考えると、もっと複雑でハラハラした展開を作れたのではないか、と感じました。全体的に、一つ一つのお話の膨らませ方が足りないように感じられ、すごくもったいないです。
 サブヒロインのボリュームの薄さも気になりました。2時間かからずに終わってしまうほどに短く、もう少しじっくりやれていたらなぁ、と感じるルートがいくつかありました。特にパティルート。クーデター全カットであっさり成功していたのは失笑ものだった...。
 と、ネガティブな意見をいくつか書き散らしましたが、ここまではシナリオゲーとしてみた場合の評価です。個人的には、キャラゲーとして満点近い点数をあげられると感じました。
 10人もヒロインがいて苦手に感じたヒロインが一人もいませんでした。今までプレイしてきたキャラゲーでは、一人か二人は興味を持てない、魅力を感じないヒロインがいたのですが、この作品のヒロインは違う。全員が個性的かつ魅力的で、最高に可愛かったです。特色の異なる学園を3つに分け、それぞれ3人ずつヒロインを据えるという構成も、学園ごとにガラッと空気が変わって新鮮でした。キャラ萌えチックな雰囲気の皐月学園、気品あふれる聖ジュライ学園、主従のはっきりした実力主義の水無月学園としっかり住み分けができていました。個人的には水無月学園組と皐月学園組の雰囲気が好きでした。
 特にお気に入りのヒロインが姫乃とアイリスと翠名。主人公と同じ立場で精一杯戦っている姫乃は応援したいヒロインナンバーワンでしたし、好感度最低から徐々に軟化していったアイリスも可愛らしかったし、主人公を健気に支える翠名さんの一途さに悶えました。その他のヒロインも皆可愛らしく、大変萌えさせていただいた。ちょっとキモイこと言ってるなぁ俺。
 さんざんけなしたシナリオも、キャラゲーとしてはかなり面白い部類でした。特にタイムリープの使い方が上手い。各学園の聖女候補を聖女にした結果間違った方向に進んだ未来を、あくまで「可能性の一つ」として見せたのが上手いなぁと思いました。確定したバッドエンドではなく、「バッドエンドの可能性」を主人公に見せたことで回避する可能性を孕ませる。暗い未来が待っている世界線で生きることを決めた主人公たちのその後はプレイヤーたちの創造にゆだねる、という終わり方が凄く好きでした。「可能性」はこの作品のテーマの一つだと思っています。
 皐月学園のシナリオはキャラ萌えという点で7兆点あげられる出来でしたし、聖ジュライ学園の誇りと愛情を感じさせるシナリオを温かくて良かった。水無月学園のシナリオは今作随一の出来で、姫乃ルートの最後の姫乃と主人公の演説は心に響くものがありました。
 グランドルートも良く出来ていました。主人公がノアを使う、みたいなベタな展開でなく、あくまで人の可能性に希望を見出すという展開は感動しました。主人公の覚悟も垣間見えて、とても格好良かった。そりゃモテるわけだ。
 長々と書きましたが、キャラゲーとして100点、シナリオゲーとして70点。そんな感じの作品でした。プレイし終わった後、とてつもない喪失感に襲われたのでこの作品は間違いなく良い作品です。点数は90点としましたが、これはサブヒロインルートのボリューム不足による減点です。
 そういえば一つ気になったのですが、大人になると確実に消えてしまう異能を育成する学校とは、どういうことなのでしょうか...。少し矛盾しているような気がするのですが。あと数年で消えてしまう異能を育てて何をするつもりなんですかね...。