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senya13さんのFlyable Heartの長文感想

ユーザー
senya13
ゲーム
Flyable Heart
ブランド
UNiSONSHIFT:Blossom
得点
80
参照数
381

一言コメント

このひと昔前のキャラゲーにありがちなクソみたいな主人公像は何なの?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 ちょっと伏線多めの普通のキャラゲーといった作品だった。
 シナリオはどの個別でも説明なく超展開が挟まれるため、最後までプレイしないと評価できなかった。良かったのは桜子、すずのルート。桜子ルートも唐突に親父が死んだりでライターの陰が見えるご都合具合&お涙頂戴だけど、桜子が好きだったので楽しめた。すずのルートはこの作品のグランドともいえる内容で普通に感動した。別れのシーンまでは。他はまぁわちゃわちゃコメディが続いたあとに誰得シリアスで感情を揺さぶられることもなく終わる、凡百のキャラゲーといった様相。ヒロインの魅力を引き出すことには成功していたので、まぁ良かったんだと思う。キャラゲーのシナリオ評価は難しい。
 ただ、あれだけ伏線を貼っていたのに回収の仕方が雑すぎるように感じた。もう少し面白くお話を展開してくれ。個別ルートの超展開は全て世界線の移動が原因です!と説明だけして、それだけ。種明かし後にその設定が使われることもなく、あっさり終わる。
 すずのルートもハッピーエンドではあるけど、大団円かと言われると微妙なところ。何故すずのがタイムスリップしてきたのかも分からない。くるりではだめだったの?結衣に関しては、この世界では会えないです、で終わり。以降触れられることはない。まさかのメイン格ヒロインがグランドルートでは存在しないという...。それと、一生会えない別離の予感を漂わせておいて、まさかの数年後には再会するというね。よく考えたら未来くるりがやってきていた時点で予測するべきだったけれど、感動返せよと思わずにはいられなかった。

 いとうのいぢ作品はこれで二作目だけど、やはりCGのクオリティは素晴らしい。システム面で言うなら、バックログで遡れる量が少なすぎることだけが気になった。 

 
 一言にも書いたけれど、主人公がゴミ。複数ライターの弊害故か、個別ごとに主人公の不快指数にばらつきがある。
 流されやすく受け身で、取り分けて優秀な才もない。けれど純粋さだけは持っている。これが全ルートで共通する主人公の性格だったと思う。これだけ見るとダメ男っぽいけれど、例えば桜子ルートの主人公はすごく良かった。不器用ながらも誠実で、桜子と、どうしようもない運命とに向き合おうとする姿勢が見られた。
 だが、天音ルートの主人公はすぐに天音に手をだす煩悩まみれのクソ男だった。めちゃくちゃ鈍感で察しも悪いし、主人公が良いとこなしのルートだったと思う。消極的で臆病なのを誠実とは言わない。やることなすこと全部裏目に出てるし、行動が短慮で浅はか。その結果に至った原因を考えようともしないで、同じ過ちを繰り返す。そして何が悪かったんだろう?とかうじうじ考えるだけで、結局ひとりで問題解決すらもできない。天音誕生日のお話にここらへんの悪いところが全て出ている。昔と同じ過ちを繰り返した挙句に会長に殴りかかろうとしてあっさり返り討ちに合い、天音と会長の間に決定的な亀裂を生じさせる原因となってしまった。最悪すぎる。
 くるりルートは更にひどい。性欲が服着て歩いてんのか?ってレベルで己の性欲に正直。自己中心的な行動ばかりとって、イライラしっぱなしだった。

 ひと昔前の主人公って、この手のタイプが多いように感じる。ちょっと時代がずれるけども、クローバーデイズなんかもこのタイプだった。あとゆずそふと全般。
 流されやすくて消極的で無個性で、けれどHシーンだけは人が変わったようにがっつく。なんでこんな主人公が量産されるんだろう?こんな欠片の魅力もない主人公像が読者に受けるとでも思っているのだろうか?それとも、読者が自己投影しやすいようにあえてこの性格にしているのだろうか?特にキャラゲーでよく見る主人公像であることを鑑みるに、どうも後者が理由として大きいように思える。「無能で不快で無個性なダメ人間だけど、性欲には正直なのが君たち読者だよね?君たちそっくりだし、自己投影しやすいでしょ?」という意図なのだろうか?私たちは馬鹿にされているのか。
   どの作品においても、最も読者の目に触れる機会が多いのは主人公だ。その主人公が不快なキャラだったとしたらどうだろう?読む気になるだろうか?特にノベルゲームは、何十時間も主人公を眺め続けるジャンルである。小説などとはその作品に触れる時間が違う。わざわざ不快で魅力のない主人公のお話を何十時間もかけて読もうだなんて、誰が思うのか。エロゲはもっと主人公を大事にしてほしい。主人公の好感度は、作品の評価にそのまま直結するということを分かってくれ。(ホワイトアルバム2のように、ダメ主人公ありきで展開されるものは除く。)

 案の定批判ばかりな感想になってしまったけれど、それなりに楽しめた...かな。多分。君の名残は静かに揺れても、もう一つのFDも500円だしやってみようかなとは思いました。
 いとうのいぢの可愛いヒロインたちが見たい人におすすめ。