キャラゲーかと思いきやシナリオも一定以上の出来になっている、コミカルな場面では笑いシリアスな場面では胸を打つような、バランスのよい内容。キャラクターもかわいいし、それぞれ異なる世界や価値観を背景に持っているので楽しめる。理想を求めてひたすらに試行錯誤を繰り返す姿勢を見せたハルカとティアが好きです
世界はどのようにあるべきか、理想の世界とはどんなものか、という問いかけに対し、グランドエンドで示したのが誰もが夢見ることができる可能性の世界、という見方によってはふんわりしたものだったのはともかく。
理想の世界の追求、より具体的には元いた世界で過ごしていた頃に足りなかったものは何かを模索する話。
全員が別の世界から転生(厳密には違ったが)してきた者ということで、たどってきた人生や理想の世界の形と元いた世界とのギャップ、その埋め方などが各キャラクター、各ルートで特徴がみられた上で、結論には共通する部分が見られるのが面白かったです。
■ハルカ√
機械によって完全に管理され、文明の到達点ともされている世界から来た少女。
リソースと時間が無限に与えられ満たされているはずなのに、そこに居た人たちは幸せそうな顔をしておらず、そのまま終末を迎えたのは何故か。
端的にいえば、そこに居た人はコミュニティを形成しておらず、また意志や願いもなくただ与えられるがままだったからでしょう。
ここで重要なのは二人だけでは足りないとハルカが言っていることで、世界を維持するためには様々な変化に対応する必要があるので、互いに足りないところを補い合える人がいなければなりません。
ただ幸せである、精神的な充足感を得られるだけでよければ、愛し合う二人がいればいいとなりますが、それでは外的要因による世界の終末には耐えられない。
物語の中ではその外的要因として神ちゃんがちょっかいを出すわけですが、もし二人しかいなければこの困難から脱出することはできませんでした。
二人が最終的に未踏の荒野に踏み出すことができたのは、5人全員がいてあの世界で過ごした時間があったから。
ヒナギク√の言葉を借りれば、ハルカとシンの意志に同調して人々(他の3人)が集まったことで、ハルカの想いでできた世界は終わることなく次の新しい地で新しい世界として形を成すことができました。
ハルカとシンの子が3人を模しているのは、そうして集まった意志を反映したものと言えるかもしれないですね(単純にその方がきれいな締めというのもある)。
ハルカ√での理想を探求する試行錯誤の過程は好奇心をくすぐるもので読んでいてとても楽しく、またハルカの能力がめちゃくちゃ便利なので中々にやりたい放題しているのも面白かったですね。
透明化と時間停止はエロいことの定番。
最初は私は機械のように感情なんてありません、だったのが、時間を経て様々な表情を見せてくれるようになるのを嫌いな人はいない。
■ヒナギク√
戦乱の世で姫に使えた女武士の少女。
個人的にはあまり刺さらなかったキャラとストーリーでした。
プレイヤー視点だと紅蓮の正体も早い段階で察しが付く(回想時点で声が同じなので)ので、別のところでももうひと工夫ほしかったきがします。
ヒナギクが自分を許す過程についても、シンやみんなとの交流が前提としてあったとはいえ、(グランド含め)最終的には姫様の言葉でようやく許せたという感触で、物語を通して彼女が何かを獲得したわけではない印象なのが惜しいです。読み込みが足りないかもしれない。
一方で、英雄によって与えられる平和という構造が実はいびつなものである、という点は中々面白い着眼点だと思いました。
英雄は敵を必要とし、英雄が英雄たるには乱世でなければならない、という見方はよくありますがそこではなく。
英雄と守られる者、という一種の上下関係はハルカ√でいう管理された幸福と同種のものと同種のものといえます。そのため、ハルカ√同様にその関係は否定されるべきものとなります。
そして平和は与えられるものではなく、それを望む意志によって集まった人々によって成し遂げるもの、という結論にたどり着きました。これはコミュニティを重視したハルカ√と通じるものがあります。
■ティア√
愛を知らず、故にひたすら一心に愛を求め続けた少女。
共通√時点から強烈なキャラクターを発揮していた嘘の多い彼女でしたが、終わってみればある意味作中最も純粋な心の持ち主だったかもしれません(そうか?)
そんな彼女は前世では幼き為政者として、臣民からは非道な王として扱われて最後には側近に殺されてしまうという悲しい過去を持っていました。
臣下を処罰する度に言われ続けた、あなたには愛がない、という言葉に人知れず傷つき続けていたのでしょう。
自分が何を間違えたのかを知りたくて、みんなが持っているという愛を自分も知りたくて得たのが収奪の能力というがなんとも倒錯的。
個人的にはシンのダウトの能力を最も活かしたのがティア√だと考えています。
ティアの言葉は多くが嘘にまみれていましたが、その中で嘘ではなくずっと本心であった言葉が、愛を知りたいというものであり、空虚な心の中にあって確かなものの一つがその願いである、ということを強烈に描くことができています。
ずっとティアの嘘を見てきたシンだけがそのことを知ることができたため、終盤で再び愛のない為政者になろうとしていたティアの心を救うことができました。
ティアが世界を終わらせようと心から思っているわけではないこと以上に、ずっと純粋に愛を求め続けていた本心に嘘をついたこと、それが如何に悲しいことか。
みんなが楽しくやっているところに馴染めない、求めている愛も見つからない、ならばいっそ全てを諦めて無欲な為政者に戻ろうとしたティア。
ここで、ハルカ√を先にやっていて彼女の世界について知っていてよかったと思いました。ティアがなろうとしているものがハルカにとってなぜなしなのか。機械のように誰も愛さない、人を人と思わないような管理者では、ハルカの世界のように終末を迎えることがわかっているから。
こういうところでもハルカはいい仕事をしてくれる。好き。
閑話休題。ティア√の終盤はここまでやってきたハルカ、ヒナギク√とはまったく違う方向に向かっていてとてもハラハラしました。なんせここにきてもまだティアはもちろんシンですら愛は何かを掴みきれていない状態で着地点が見えなかったので。
最終的には愛はそんなに綺麗なものじゃない、ただキミが必要だって伝える言葉だという結論になり、二人がその結論に対して納得を得ることができました。
ここでのティアの「私、あなたを愛していたんだわ」という言い方、とても好き。彼女の中でずっと求めていた概念が経験を通して彼女の世界に根付いたことを印象付ける素晴らしい台詞。
嘘と空虚でできた少女は、ただ一人本心に寄り添ってくれた少年の腕の中でようやく心からの笑顔を浮かべることができました。
■ヘルミリア√
不幸にまみれた世界から逃げてきた自称魔王の少女。
個別ルート序盤になってようやく気付いたことで、与えられた能力が魔王の力であるならば前世は当然その力がなかったってことなんですよね。
全てを偽りで固めた少女の根底はやはり他の3人と異なり、前世では多くの不幸にあい自ら死を選んで逃げてきたもので、その上で元いた世界に後悔も残すというもの。
なんなら理想の世界や願いすら曖昧なもので、ただ世界への怒りや憎しみがありました。
そんなヘル子、シンと交流を続けるなかで、理不尽に溢れる世界の中で生きるための本当の力を手にしていったように思います。
最後にやった個別√でハルカ、ティア√に心を持っていかれた自分からすると、ヘル子√の味付けはよくある過去の不幸を乗り越える話という点で良くも悪くも普通、という印象になってしまいました。惜しい。
とはいえ、あのやかましいキャラクターとの掛け合いは終始読んでいて面白かったです。