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sekilalalaさんの朝凪のアクアノーツの長文感想

ユーザー
sekilalala
ゲーム
朝凪のアクアノーツ
ブランド
Fizz
得点
89
参照数
1479

一言コメント

人畜無害な皮を被っておいて、プレイヤーをハンマーで殴ってくるような作品。丁寧に作られた部分は本当に見事。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

人魚をメインに据えた今作。
メインヒロインが王道ディ○ニー的人魚物だとするならば、裏は人魚にまつわるエトセトラ。
残る要員は、等身大の青春グラフィティ+昼ドラ。

今作の見事な点は、ストーリー展開をよくもまぁ、ここまで丁寧に仕上げたなという点。
それは、かなかルートで顕著です。
彼女のシナリオは、言ってしまえば日本に伝わる人魚伝説を題材にしたものと見ていいでしょう。
それをライター独自の視点から切り込んでいます。
かなかの悲哀・孤独を、緩和することなくダイレクトに描き上げています。
その点で見事と言っていい。
白玉かなかというキャラクターは、全くと言っていいほど社会性がありません。
共通ルートでの彼女の気まぐれに、イライラしっぱなしになるプレイヤーも多いと思います。
それを見越した上で、彼女の個別に入った瞬間、下馬評が覆るという仕組み。
本当、最後の山の連続にはしてやられました。
このシナリオに関しては、ライターの生命観が見えますし、そこに説得力があります。
彼女のシナリオでは、彼女の根幹の設定である“ある部分”が意外にあっさりと解決します。
そこがご都合主義だと仰る方もいるでしょう。
ですが、この部分はあっさりとしていて問題はないのです。
何故なら、ライターの描きたかったのは“シナリオの核となる設定を絡ませた彼女の孤独”であって、“その設定をどう解決するか”ではないからです。
もしも解決を主軸に据えていたなら、単に超展開で終わった凡作で終わっていたでしょう。
故に、最大の見せ場である“鏡の中で亜樹が体験したif”はとてつもない説得力で以って、プレイヤーをハンマーで殴るのです。
その部分があるからこそ、EDでの幸福に説得力が生まれるのだと、僕は思います。
だからこそ、かなかシナリオは本当に見事でした。

対して、深緒シナリオは、西欧の人魚伝説をモデルにしたもの。
こちらの方がより想像しやすいかと思います。
ただ、彼女のシナリオには欠点があって、それは後半の山場を、収束させることなく終わらせている点。
少なくとも、セレナに関してはやりようもあったはずで、あのエンド後の亜樹と深緒が仲良く過ごせるのかという疑問があります。
あれは単に、問題をセレナに丸投げしているだけですからね。

残りのヒロインは、友里子は近親相姦物です。
ただ、きちんと真っ向からぶつかっているので、好感が持てました。
美幸シナリオは平凡というか、普通の青春物です。
なので、美幸シナリオは箸休めにしてもいいでしょう。

また、今作はおまけ要素が親切でした。
実母・実姉・実娘のおまけシーンがあります。背徳感にゾクゾクしたい変態さんはニヤニヤできると思います。
実娘の破壊力は危険です。

ですが、サブルートのメリーだけはすばらしい。
彼女はメインに匹敵するほど、というかメインを超えているといっても過言ではないくらい愛されるキャラクターです。
ルートそのものこそおまけ扱いですが、メインに入れてもおかしくなかったと思います。
あまりの破壊力にルートを構築する時間がなかったんじゃないかと思うくらい、すばらしい出来栄え。
個人的には、友里子とメリーの友情を絡ませてドロドロの展開にもできたのだと思います……が、彼女のキャラクター的に似合わないストーリー展開なので、ばっさりやったのかな、とも思います。

問題点も色々あって、まずは男キャラクター。
いてもいなくてもぶっちゃけどうでもいい存在です。
例えばイチローは、つよきすで言うところのフカヒレポジションですが、全部メリーが美味しいところ持っていっちゃってるんですよね。
太平さんは、単純にうざい(笑)
後は、声入れるなら入れる、カットするならサブは全部カットする、ということですね。
達治・理両名は、あってもよかったんじゃないかと。
予算の問題もあったんでしょうけど。
後は、共通の長さ。

総評としては、萌えゲー期待してたらびっくりした的な作品。
楽しくもあり切なくもあり優しくもある、絶妙の展開。
少なくとも、かなかシナリオだけでもやってみてください。
壮大なテーマを、見事にまとめ上げたライターに拍手を贈りたい。