キャラゲーの皮を被った哲学書。「知性」と「力」を高度に併せ持つ主人公の魅力はエロゲ界随一。
この作品の魅力の9割は、主人公である「成田 真理」にあると言っても過言ではない。
10年近くに渡って数多のエロゲをプレイしてきたが、ここまで完成された主人公は初めて見た。
気高く賢く逞しく、知性と力を高度に両立させ、その実力に裏打ちされた確固たる自尊心は見ていて本当に気持ちが良い。
(ヒロイン勢も決して魅力がない訳ではないのだが、主人公の存在があまりに圧倒的過ぎるため、影が薄まっている感は否めない。)
…もっとも、強く賢い主人公は、他のバトルものADVにも多数存在する。
では何故この作品の主人公が特別なのかと言うと、それは高度に洗練されたその思想にある。
ここでいくつか彼の言葉を抜粋して紹介しよう。
『君の世界を変えられるのは、君だけだ。望むなら、世界とは如何様にでも変わる。』
…どう見てもストア派の思想である…主観世界の在り方は個々人の認識によっていくらでも変化する。
この思想は、理不尽な不幸に苦しむ人々へのこれ以上ない激励であり、一つの真理でもある。
『人間の価値は、窮地にあってこそ試される。苦しいときこそ笑うものだよ。』
…「歳寒くして、然る後に松柏の彫むに後るるを知る。」という論語の一節を彷彿とさせる言葉。
平和で安全な状況で善人であることは誰にでも出来る。自分にせよ他人にせよ、その人間の真価がわかるのは、窮地を措いて他にない。誰もが知っているようで、その実大半が理解出来ていない理の一つ。
『私なら、無謬な黄金の輝きよりも、火の中で何度も打たれて生まれた鋼の煌めきにこそ、価値を見出すだろう…』
…一見ただの臭い台詞にも聞こえるが、これもまた、痛みを知る人間が、そうでない人間には決して備わらない美しさを持っている、という真実を示し、苦しみの中にこそ光明を見出すストア派的な思想が垣間見える金言。
これら以外にも、人生に役立つ実践的な箴言や金言が次々に繰り出される様は、まさに圧巻の一言である。
…正直に言って、この主人公の時点で既にキャラゲーの枠に入れるべきではないレベルなのだが、おまけとばかりに、各キャラクターの《ハロー》発動時の詠唱がシェイクスピアの一節と来ている。
愛読している人間には垂涎もののサービスである。(ジュルリ
纏めると、この作品を単なる「キャラゲー」として消化してしまうのは全く惜しい。
購入された皆様方には、是非この作品の伝えたい「真意」を熟考しながらプレイして頂きたい。