堕落した現代社会に疑問を投げかける哲学的ADVの白眉。しかしヒロイン勢は微妙。
ブランドとライターの影響もあって、「熱血」「戦闘」「厨二」といった外観的基準でこの作品を測っているユーザーが多いが、この作品において最も注視すべきは「思想」であることは間違いない。
今まで100作を越えるADVをプレイしてきたが、この作品ほど強いメッセージ性を持つ作品は、かの「車輪の国、向日葵の少女」や「ハロー・レディ!」ぐらいのもの。
「哲学的」と呼ばれる作品は他にいくらでもあるが、「人はいかに生きるべきか」という、最も本質的な哲学的命題を突き詰めた作品としては明らかにトップクラス。
まず物語の冒頭からして、「男女の本質について」と、それだけで思想書が一冊書けてしまいそうな命題から始まる。
そしてこの作品に込められた思想の最たる特徴は、現代社会に対する疑問の投げかけだ。
『自慢げに謳われる平等は性の区別すら否定し始め、男たちを去勢していく。堕落した奇形の群れは権利と自由を奉じるあまり、やがて男性自身に生まれた意味を、根こそぎ伐採してしまうのだ。(本文抜粋)』
…との一文からも読み取れる、ジェンダーフリー思想への強烈な批判。
『強くなければ男じゃない。いいや、仮に弱かろうとも、大事なのはそこに恥を覚えるか否か。気概の有無、覚悟の程だ。(本文抜粋)』
…と、現代に増え続ける、女を矢面に立たせて恥とも思わない軟弱な男達への叱咤。
『たとえ善や正義で敷き詰められた道であろうと、地獄に通じることがある。(本文抜粋)』
…この一文に至っては、マルクスがその著書「資本論」で引用するほど思想色の濃い格言のオマージュだ。
どれだけ平和で安全な楽園を作ろうと、そこに乗り越えるべき苦難や逆境が存在しなければ、人間はその輝きを失い堕落してしまうだろう、というストア哲学的な思想は、まさに堕落しつつある現代社会に対するアンチテーゼと言えるだろう。
この他にも、挙げていけばきりがないほどたくさんの思想が散りばめられており、「考えながら読む」ことの出来るユーザーには、これ以上ないほど魅力的な作品となっている。
その上、当然正田卿お得意の熱血戦闘描写や(良い意味での)厨二的要素も豊富で、読者を飽きさせないシナリオ構成は流石の一言である。
しかし、一つ難点を挙げさせて頂ければ…(ファンの方々には申し訳ないが)正直ヒロイン勢に魅力を感じない。
一言で言えば、「そこらへんにいそう」なのだ。
せっかく「二次元」という理想を体現できる舞台に登場しているにも関わらず、「理想的女性像」の輪郭すら感じ取れない。(唯一、晶の秘めた女性性だけが救いである)
しかも男性陣が理想的で男らしいキャラばかりなので、相対的に彼女達の凡庸さが際立っている。
…ただし、前述のとおり、その点さえ除けば文句なしの作品なので、次作では、ヒロイン勢の女性的魅力にも十分配慮して頂けることを祈る。
長文失礼致しました。 m(_ _)m