【長文注意・ネタバレ有り】声を出してまで号泣したのは初めて・・・。健速氏のシナリオって本当に凄い・・・
何が秀逸かって、感情の揺れ動きをここまで見事に表現し、文章に落とし込む才能がすごい。
「世界が終わる」この言葉からスタートし「世界の終焉」という名のゴールに向かうにつれて
わき起こる次々の問題。
問題が起こるたびに揺れ動き、傷つく昴(ガンちゃん)、そしてヒロイン達。
一つの問題をクリアするとまるでそのタイミングを見計らったように起こる次のステップ(問題)。
そして落ち着いたはずの彼らの心はまた大きく揺れ動く。
そんなの時にそっと助けてくれる”大人”達。
その大人達の弱い部分も見せつつ展開する心理描写はもはや、圧巻です。
なんで、なんで・・・こんなにプレイヤーの心を揺れ動かす事が出来るんでしょうね。
生の、と言うと大げさすぎるのかもしれないですが、昴の揺れ動く心情・感情。
そして、ヒロインの揺れ動く心情・感情を見事に描ききったからこそ、プレイヤーの心に直接
響いてくるのでしょう。
泣きゲー好きにはたまらない作品だと思います。
また「Amazing Grace」が素晴らしすぎます、あの名曲を物語にうまく取り込むことで、この物語を
ワンランク上の名作へと引き上げているような気がします。
個人的には合唱大会、でみんなが一緒に歌ったというAmazing Graceを用意して欲しかった気がしました。
勿論、御波も一緒に歌っているVersionです。
クリアの順番は
夕陽→朝陽→青葉→御波→ノーマル→AFTER
以下、ネタバレあります、ご注意を。
■夕陽ルート※最初にクリアしてるので多少共通ルートの感想も混ざっています。
最初はちょっとロリっ娘っぽい感じでちょっと苦手なヒロインと思っていましたが安玖深音さんの熱演が
本当に素晴らしく、非常に好きなヒロインになりました。
とくに「あい」「あいあい」が非常にゲーム自体の場の雰囲気を良くしていて、このセリフだけ何度も
何度も聞き直しました。
とにもかくにも安玖深音さんの熱演は本当に素晴らしかったです。
彼女の代表作、と言っても過言じゃないんじゃないでしょうか?
シナリオもヒロインだけではなく全ての登場人物が何かしらの出来事が起こるたびに揺れ動く心理状況が
よく描かれていて、二転三転する心理描写の妙は流石”健速”と唸らされる出来だと思います。
皆さんの評価ではそれほどの評価を得ていないようですがこのシナリオ、まじで号泣しました。
「シェルターに行かない」と両親に告げたときの両親の返した言葉。
いや、冷静に考えればそこまで泣くほどでも無いのかもしれない所なのかもしれませんが、ダメです。
「やっぱり、私たちの息子なのよね」の言葉を聞いた瞬間、ぶわっと涙が・・・。
”理解してくれてる”そして”愛してくれてる”両親の思いがすごく、本当にすごく伝わってきたんです。
少し前の夜に両親の昴に対する思いを灯台で聞いた事が、この昴の決断をとても意味のある決心として
表現されていると思います。
そして反則な程に効果的だったのが最後の「Amazing Grace」やばいくらいに余韻が残りました。
長くなるのでどうかなあ、と思いましたが感想の最後に歌詞を転記してみました。
ちょっと大げさかもとは思いますが昴の心境として健速氏が書きたかった物が分かる気がします。
■朝陽ルート
日向家の隙間を埋めるシナリオになっており、夕陽のような盛り上がるイベントに欠けるのは
致し方ないかなあ、と思いました。
残念ではありますが・・・。
星が落ちてくる事をキーに「初恋の人が戻ってきた」という昴のうれしさは読み手である私に非常に
よく伝わってきました。
そして朝陽の心情の変化の過程も「頼りになるお姉ちゃん」→「好きな人に甘えたい一人の女性」と
変わっていく姿、そして夕陽への深い愛情ゆえの葛藤、がよく描かれていたと思います。
シェルター発覚後のスーパー?での朝陽ぶち切れイベントはこのシナリオで一番の見せ場だったのかな?と。
その後の海岸でのやり取りで昴が怒っている朝陽を諭す場面での昴の大人な対応は素晴らしいなあと
ひたすら感心したものです。
このシナリオで心に残ったのは「無駄でもやってみる尊さ」という所でしょうか。
朝陽は無駄でも植物の種を植え、無駄でも授業をやり続け、未来が無いと分かっていても昴との
子供を欲しました。
生きる活力、と言う意味では正しい行動だと思うのですが、物語の終末、そして世界の終末への向けての
なんともやりきれない思いが画面の向こうから感じられ、それを眺めている自分には堪らない気持ちに
なってしまいます。
エンディングは実に彼女らしい、、というかあれでいいのか?と思わないでもない結末ですが
あるべきところに落ち着いた、そんな所でしょうか。
ラストでの朝陽と夕陽との会話、ガンちゃんに抱いてもらったんだよね?の下りは女性の強さを
感じさせずにはいられないシーンでたわいないシーンなんでしょうが、私の心には残りました。
※このシナリオの夕陽の行動が一番、夕陽ルート外では”夕陽”らしく感じることが出来、個人的には
大満足でした。
■青葉ルート
日向姉妹以外のルートではイベントの挟むタイミング、”間”が計算され尽くされている印象を持ちました。
このイベント(事件)を挟むタイミングはまさに神技と思います。
青葉ルートでは”幼馴染みの親友の青葉”を無くした昴が精神的に不安定になっていき激しく落ち込んだ
タイミングにシェルターの話が挟まれて、昴の葛藤をより重く深い物へと演出していきます。
この時の昴の心理状況の揺れ動きは、まさに計り知れない物で”壊れる”一歩手前だったんだと思います。
だからこそ彼は逃げた。
全シナリオ中で唯一、逃げてしまうこのシナリオは昴がいかに青葉に依存していたかを見事に表現しています。
また、青葉ルートは時間が無さ、運命という言葉を一番感じるシナリオかもしれません。
昴が全てを捨て去る決心をし、仲間達と距離を置き始める下りからはどうしようもない時間の無さや
昴のなんともやりきれない気持ちが画面の向こうからヒシヒシとこちらに伝わってきました。
このどうにもならない状態からハッピー(昴の心的には)エンドに持って行くお手並みは流石は健速、と
唸らさせられずにはいられない出来だと思います。
青葉の心からの笑顔を見ていると本当に良かったと思えるシナリオだったと思います。
■御波ルート
個別ヒロインルートでは一番、”泣き”要素がつまったシナリオだったと思います。
このシナリオの一番の見所は教室での昴の抱えた不安、思いの独白。
これにつきると思います。
本当に自分だけ生き残っていいのか?
仲間達を置いて行った世界で自分は生きていけるのか?
他のルートでも問題として提起されてはいますが、御波では昴のヒロインへの独白という他ルートとは
異なる形で表現されています(ノーマルエンドでも同じ描写がされてはいますが)
そして、対になるイベントとして御波が”大事な物を失ってしまう怖さ”を覚える事も見所の一つと
言えると思います。
”大事な物が今までの生涯で1つも無かった”御波。
昴という、かけがえのない宝物を手に入れた彼女の人間的な成長、、、というとすごい語弊があるかも
しれませんが、その成長していく姿があったからこそ、多くのプレイヤーの心を捉えて離さなかったのでしょう。
また、個人的に良かったのは他ヒロインルートでは語られなかった「昴」の名前の由来、意味。
もっとも、これが本当の理由なのかは作中では語られていなかったですが、健速氏はきっとそんな思いで昴と
名付けたのでしょう。
とにかく全体的に見所が多く、ヒロインの個別ルートとしては一番の完成度だったと思います。
エンドでの夜空を掴もうと手を伸ばす御波の姿は本当に素晴らしかったと思います。
■ノーマルエンド
どのヒロインとも結ばれなかった、エロゲー的にはBADルート。
しかし、健速氏が描きたかった真実はこのルートにこそあるのだと心の底から思います。
他のルートでは中途半端な形でしか描かれなかった住民の”心情描写”をきちんと描いており
それにより「終末の世界なんだ、ここは」と言う事を嫌が応でも我々プレイヤーにすり込んで行きます。
ヒロインルートを読んでいたときにも住民の感情、という部分は軽く触れられていましたが
正直、こんなもんじゃないだろう・・・。
例え、田舎の離島でも先生の自殺辺りから暴動やレイプ等が起こってもおかしくないだろ、これ。と
思っていたのでノーマルエンドでの住民の反応は、「ああ、ちゃんと考えているんだな」と思いました。
お医者様から”直接”殺意を語られる等はこの作品を真面目に書き上げる上で本当に必要な事だったと
思います。
まあ、教室に乱入してきたチンピラをおまわりさんに引き渡したときに、あれ?おまわりさんはまともなの?
と思ったりしましたが・・・。
そういった負の部分を見せておきつつも、「世界は嫌なことだけじゃないんだ、素晴らしい事だってある」
それをこのシナリオでは我々に語りかけているんだと思います。
じいちゃんの思い、父親の思い、仲間の思い、仲間達の家族の思い・・・。
これらを見たとき、涙が止まりませんでした。
最後の授業の展開は予想すらしておらず、本当に素晴らしかったです。
私はレビューにおいて”断言”するのは正直あまり好きではないため、あくまでも主観というのを
前置いて今まで書いております。
しかし、敢えて断言します。
まさにこのシナリオこそが「そして明日の世界より」という作品の本筋だと。
そして、これほどの素晴らしい作品を世に送り出してくれたetude様、健速氏に感謝でいっぱいです。
■After
正直いって少し不満足。
言葉通りのAfterではありました・・・。
確かにね、残りましたよ、昴達の思い・生き様は。
確かに伝わったんだけど・・・。
いきなり沸いてきた第三者にやっぱ感情移入は出来ないよなあ・・・。
「くれてやる!」の辺りで確かに泣きもしましたが、個人的には蛇足感がぬぐえないおまけでは
ありました。
※※ここより蛇足的感想。
■じいちゃんからの教え
物語を味わい深いものにしている両親やじいちゃん。
じいちゃんのこの言葉に自分は目から鱗が落ちる思いを受けました。
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我々が勝手に結末を知っただけじゃ。
知らねば妻は病気に気付かず普通に暮らし、
そしてある日突然逝ったったに違いない
世界は何もしておりゃせん。
変わったのは我々の方じゃ。
そもそも病は何年も、あるいは何十年も前から
妻に忍び寄っておったのじゃからな
それを後になって勝手に我々が気付いて、
勝手に我々が変わったのじゃ。
世界は何もしとりゃせん。
同じ事を最初からずっと続けている
例の星は、恐らく地球に生命が生まれる前から
地球に当たるべく飛びつづけておるのじゃろう。
下手をすれば宇宙に誕生した頃から
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じいちゃんの言葉を一言で表すならきっと「運命」なんでしょうね。
なんというんだろう、当たり前の事なんですが考えさせられる物がこの中にはありました。
■Amazing grace
賛美歌だけに色々あれですが、どんな思いで健速氏はこの曲を採用したんでしょうね。
と思って歌詞を列挙したのですが・・・。
私には結局、夕陽ルートで昴が話していたことしか分かりませんでしたw
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Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.
アメージング グレース
何と美しい響きであろうか
私のような者までも救ってくださる
道を踏み外しさまよっていた私を
神は救い上げてくださり
今まで見えなかった神の恵みを
今は見出すことができる
'Twas grace that taught my heart to fear,
And grace my fears relieved,
How precious did that grace appear,
The hour I first believed.
神の恵みこそが 私の恐れる心を諭し
その恐れから私の心を解き放つ
信じる事を始めたその時の
神の恵みのなんと尊いことか
Through many dangers, toils and snares
I have already come.
'Tis grace hath brought me safe thus far,
And grace will lead me home.
これまで数多くの危機や苦しみ誘惑があったが
私を救い導きたもうたのは
他でもない神の恵みであった
The Lord has promised good to me,
His Word my hope secures;
He will my shield and portion be
As long as life endures.
主は私に約束された
主の御言葉は私の望みとなり
主は私の盾となり 私の一部となった
命の続く限り
Yes,when this heart and flesh shall fail,
And mortal life shall cease,
I shall possess within the vail,
A life of joy and peace.
そうだ この心と体が朽ち果て
そして限りある命が止むとき
私はベールに包まれ
喜びと安らぎの命を手に入れるのだ
The earth shall soon dissolve like snow,
The sun forbear to shine;
But God, Who called me here below,
Will be forever mine.
やがて大地が雪のように解け
太陽が輝くのをやめても
私を召された主は
永遠に私のものだ
When we've been there ten thousand years,
Bright shining as the sun,
We've no less days to sing God's praise
Than when we'd first begun.
何万年経とうとも
太陽のように光り輝き
最初に歌い始めたとき以上に
神の恵みを歌い讃え続けることだろう
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■総 括
この作品(敢えてゲームとは呼ぶまい)を一言で表すとなると「心理描写の妙」という言葉が
一番適切なんだろうか、それとももっと簡素に「人間哲学」とでも言うのか。
個別ルートでは”終末”というのっぴきならない状況で揺れ動く、登場人物の葛藤が生々しく
表現されている。
健速氏の素晴らしい所は舞台が都会では無く、田舎でかつ離島を選んだところだろう。
この作品の舞台が都会圏であったら、微妙な感情の機微など起こりえなかっただろうし
目にする物は恐らく、地獄絵図だけだっただろうから。
そして何よりも秀逸だったのは「ノーマルエンド」の存在。
どなたかの感想でも書いてありましたが、前述の通り、このルートこそ真のエンディングなんだと
私も思います。
誰かと結ばれた結末、ではありませんから、これはエロゲーとしてみたときはBADエンドなんでしょう。
けど「人間哲学:そして明日の世界より-」として見た場合の健速氏の言いたかったことはこの
ノーマルエンドにこそ、込められていると思います。
各ヒロインルートで残念だったのは個別の青葉と御波ルートでの夕陽の心情部分の扱い。
朝陽シナリオで「お姉ちゃんだけはダメ」と言っていたので「私は2号さんでいいもん」と
言い切ってしまう心情は分からないでも無いのですが、夕陽ルートを見た後だと、夕陽→昴への
思いをたったその一言で終わらせてしまっても良かったのだろうか、と感じます。
※ほんっとにどうでもいいんですが・・・
朝陽が初めて登場した時に「大丈夫よ。お客さん”一段落”してたから」
と言うんですが「いちだんらく」と発音してました、「ひとだんらく」じゃない?と思って
ネットで調べたら「いちだんらく」が正解なんですってw すっげえ勉強になったw
※完璧に蛇足だと思うのですが、出来うるなら、、、本当に出来うるなら・・・
隕石が落下しなかった、その後の彼らの生き様を見て見たかった、と思うのは私だけなんだろうか・・・。