【全√クリア】【感想修正・追記】疑問点も多少残りはしたし、文句の付け所もあるけれど概ね満足。ドタバタや起伏の大きな話を期待している方には合わない作品だと思います。
”全ては一冊のノートから始まった”
そんな、ドラマティックな場面から始まる少しだけ不思議な現代風お伽噺。
独特の雰囲気、演出を支える何気ない小粋なエフェクト、読みやすいテキスト。
開始から5分でこの作品の世界にのめり込みました。
何というか、私に取っては購入前の期待以上の作品でした。
etudeと言うブランドの偉大なる前作「そして明日の世界より――」この作品に惚れ込み、この作品があったから
こそ、ブランド買いで購入した本作。
健速氏では無い為、過度の期待はしないでも「それなりに楽しめれば儲け物」位でプレイをしたのですが
いやはや、やられました。
王道の「友情」「結束」「憎めない悪役」「涙」、これらのキーワードに反応する方は少なくとも地雷には
ならない作品じゃないかと思います。
反対に、決して派手な作品では無く、日常展開を丁寧に作り込む形を取っていますので、繰り返される日常を
楽しめない方には苦痛な作品かもしれないです。
※人によって感じ方が違いますので断定はしかねますが・・・。
今作の鍵を握るヒロイン「奏衣」
最初、奏衣を見たときは「なんだ、このヒロイン?」とまじに思いました。
会話の語尾に「なの~」と必ず付いてくるこの不思議な喋り方を個性と受け取るかうざいと受け取るかでも
作品自体のとらえ方に影響を与えそうです。
不思議ちゃん?と言うか純朴と言うか・・・、本当につかみ所の無い感じで、浮世離れしたというか・・・。
個人的には、そういった変わった部分も許容の範疇でしたので個性と認識し、私は楽しむことは出来ましたが
苦手な人もいるかもしれませんね。
そんな、彼女の正体が判明したときに「ああ、上手いな、この設定を上手に生かしているな」と素直に
感心したりしました。
彼女があんなだったからこそ、気持ちの良い読了感を感じる事が出来たのかもしれません。
もし、奏衣に「ん?」と思い、苦手意識を持つ方がいましたら、出来るなら最後まで彼女に付き合ってもらいたいなあ
と思ったりします。
そのうえで最後まで苦手だったら「ごめんなさい」なのですが。
※なお、私の推奨のクリア順ですが
雪>七海>沙夜>奏衣(沙夜と奏衣は逆でも可) となっております。
この通りにやらなければ、という事は勿論ありませんが、多分この流れが一番ストーリーを盛り上がって
見る事が出来ると思います。
以下、個別ルートの感想、クリア順に書いてます(ネタバレ有りです、ご注意下さい。)
■沙夜√
本作のメインシナリオに相当するシナリオ。
彼女が初めて登場したシーンは主人公・隼人が衝撃を受けたように私に取っても、かなりの衝撃で実に
印象的でした、不思議な魅力が彼女にはあるんですよね。
再会した後のイメージのギャップにも最初は驚きましたが、進めて行くとうちにそんなギャップも感じなくなり
結果的にかなり好みの良ヒロインとなりました。
物語が進み、徐々に沙夜と言うキャラが分かってくると、当初はミステリアスな展開・・・例えば冒頭の祠の謎、
ノートに知らない間に新たな記述が一人でに書かれていたこと等の謎に迫っていく展開とばかり思っていましたが
実際には彼女の「演劇に賭ける情熱」を上手に謎に解け合わせて行き、じわりじわりとですが心に染みこんでいく
ように世界観に引き込まれていきました。
そして町に伝わる水神伝説《セイレーン伝説》の真実の姿。
沙夜と奏衣の関係の影に隠れる少女の存在。
次々と明かされていく、沙夜という少女が心に秘めていた秘密と葛藤。
父親を救いたい、という一心から禁断の封印を解き、水神を蘇えらせてしまった事を後悔するわけですが・・・。
ここで少し苦言。
正直、私的には封印の御札だけして周りに何も防護柵すら作ってないという設定に疑問を覚えます。
封印もえらくあっさりと解けますしね。
あんな、おざなりの封印状態だと正直今まで何で封印が解かれなかったかの方が謎ではあります。
ともあれ、演劇で解決、というのは強引な気もしないでも無いですが言いたいことは伝わってくるため
許容範囲かな、と思います。
エンディングの演劇部分~奏衣との再会は中々良く出来ており、ちょっとだけですがウルっと来ました。
■雪√
「雪の成長物語」これ以外、この√を表現する言葉は無いでしょう。
作品自体の謎には一切、関わりが無いシナリオで出来るなら一番最初に攻略するべきヒロインだと思います。
まあ、私は2番目にクリアした訳ですが・・・。
雪のリボンに込められた願い、淡い恋心。
何故、リボンを付け替える事で性格がコロコロと変わるのか。
最初は多重人格者か・・・と少し引きました。
奏衣は不思議ちゃんだし、雪は多重人格者だし・・・まともなヒロインいないじゃないか、と思っていましたが
思いこみによる演技で人格を変えている事が単純な演技というか自己暗示だとは余りにも捻りが無さ過ぎて
却って新鮮でした。
普通、何かしら本編の謎に絡んでいると思いますよね・・・。
隼人との意外な?繋がりからリボンの謎が解けていくわけですがこれも王道展開と言うか定番の流れで
安心して見れる反面、目新しさも無く”雪”自身を凡庸に見せてしまっているのは残念でした。
ひなちゃんとの交流から自身も成長しようと奮起する流れ、そしてそれを支えようとする隼人の行動は
王道ゆえに十分及第点で安心して読めると思います。
何せ、今作の謎部分に全く絡んできませんのでドキドキハラハラは全く感じられない、というのが
この√の良い所であり、欠点かなと思います。
それ故に雪というヒロインが気に入らない方は多分、全く面白みの無い作品として見られてしまうかも
しれません。
■七海√
思いの外、水神伝説に関わりのある七海。
何故、七海が水神伝説に関わりがあるのか、は沙夜√をクリアしないと分かりません。
私が推奨の攻略順だと七海√が先になっているので、少しモヤっとした気持ちになるかもしれません。
訳のわからない謎の病気に対し、自分の事よりも他人を気遣う七海を見て素直に凄いなあ、と思ったり
こんな癒し系の彼女だったらいいよね、とか思ったりします。
沙夜√をクリアしてれば分かりますが、本人に自覚は無くとも完全にとばっちりで死にかけている訳ですから
ちょっと可愛そうだなあ、と思います。
結局のところ、3年前と全く同じ解決方法を沙夜は選び、問題は棚上げとなるわけですがプレイヤーの
感情的にはやはり納得がいく結末では無かったなあと思います。
しかも、隼人にも七海にも真相は明かされずに沙夜の心にだけ、真相を知ったままというのはやはり
釈然としない物がありますよね。
演劇部が廃部~卒業公演の流れについては個人的に好きではありましたが、なんで白土はあそこまで
演劇部を目の敵にしていたのか、その辺の説明が無かったのは残念でした。
犠牲のうえに成り立った七海との幸せ。
これを是とするか非とするかで評価は分かれるシナリオだと思います。
世の無常、という部分は良く描かれた話だとは思いますけどね。
個人的には何もかもが気に入らない結末でした。
奏衣が一生懸命、一生懸命に七海の為に水を汲んできた姿を思い起こす度に悲しくなります。
■奏衣√
「水神の謎」という部分については多分、沙夜√の方が深く表現してるんじゃないかと思います。
謎を全て理解したうえで得られる大団円。それが奏衣√だと思います。
水神の呪いで死にかける隼人を助けようと自分の時間を引換にすることを決意する奏衣。
そして楽しかったデートの最後にその身を犠牲にする姿はなんとなく予想はしていましたが思っていたよりも
唐突に起こりちょっとの間、ボーゼンとしてしまいました。
その後の沙夜との会話~演劇部の記憶を取り戻そうとする展開は個人的には結構好きな展開でしたので
あっさり目に描かれてはいましたが、いいイベントだったと思います。
そこからの叶を含めた奏衣を取り戻す為の演劇部面々の行動・決意は萌先生じゃないけどある意味「青春」展開で
ラストの劇中の主役チェンジの際の混乱時に沙夜が言った「巫女と水神が同時に登場出来る貴重な場面よ」は
場違いな思いかもしれませんが「ああ、沙夜ってプロだな・・・」とか思ったりしました。
劇を見終わった後の叶の心情の変化、あっさりしすぎのような気もしますがあれはあれで正解だったような
気もします。
全てを受け止め荒魂から和魂へと変化を遂げた彼女が奏衣へ託した思い。
普通の人間として隼人と一緒にこれからの人生過ごしていく彼女の未来が何よりも明るい物であるよう
願います。
大団円、素晴らしい。
■総 括
”健速”じゃない、と言うことでブランドetudeを信用するか、どうかがいわゆる賭だと思って購入しましたが
私個人としては賭には勝ったようです。
万人が賞賛するか?と言われれば、感性の違いがありますのでどうか、とは思いますが少なくとも私には
合っていた作品でした。
そして、感想を書いてて、文章にまとめるのがとても大変な作品でした。
前文にも書いていますが日常を丁寧に描く事を主眼にストーリーが展開しているので目立った場面が余り
無いんですよね。
非日常がこっそりと隠れているからこそ、日常が楽しい、とでも言うのでしょうか。
”死””呪い””神様”等の大仰な言葉が出てくる作品ですが、構えずにプレイ出来る貴重な作品だと思います。
どっちかというとまったり物が好きな方にオススメの作品でしょう。
※泣きは期待してはいけません。