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sayuraさんの処女はお姉さまに恋してる ~2人のエルダー~の長文感想

ユーザー
sayura
ゲーム
処女はお姉さまに恋してる ~2人のエルダー~
ブランド
キャラメルBOX
得点
98
参照数
10647

一言コメント

【全√クリア】【加筆・大幅修正】未プレイの方、出来るなら体験版はやらないで欲しい。体験版の代わりに前作をやってもらいたい。それで前作が気に入ったのなら確実に本作は気にいる筈です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

全10話構成。
共通ルートが8話まで、9~10話は個別という感じで前作とほぼ同じ作りです。

前作同様、かなりボリュームが有ります。
そして、前作が好きだった方はまず、間違いなく、最後まで楽しめる事だと思います。
少なくとも私は無茶苦茶楽しむことが出来ました。

「女装物」は今でこそ、そこそこのタイトルが発表されていますが、やはり「おとボク」は
別格だな、と今更ながらに思います。

本作をやる方は、前作のプレイ強く推奨です。
そして、小説「櫻の園のエトワール」を事前に読んでおくことを強く推奨します。

ここまで、見事に物語の世界観が継続していると前作が好きだった私からは「お見事!」としか言えません。
「前作+エトワール+本作」をひっくるめて「処女はお姉さまに恋してる」という1つの作品と言えると思います。

何が一番素晴らしく感じたかと言えば、登場人物がほぼ一新されていると言うのに、見事に私たちが知っている
「おとボク」の世界そのものが展開されると言うことです。

例えば、入寮のワンシーン。
語られる会話、1つ1つが前作やエトワールの場面を彷彿とさせます。

そんなワンシーンを見るだけで、にやにやしちゃうんですよね。

今作をやるまでは、さほど続編について希望は持っていませんでした。
しかし、今作をやってみて、是非に今後も「おとボクワールド」を繋げて欲しいと強く思うようになりました。

千早・薫子の次のエルダーって誰になるのかな?生徒会長は妹繋がりで優雨(ちょっと無理な気もするけど)?
なのかな?とか。

想像する度に自分の中の「おとボクワールド」がプレイしながらどんどん広がっていくのが分かります。

仮に「おとボクワールド」が今後どんどん広がっていき、そんな世界の中で前作のキャラ達が絡んで来たり
するのを想像すると、たまらなく幸せな気分になれるんじゃないかと思うんです。

学園際にふらっと瑞穂ちゃん・紫苑さん(瑞穂ちゃん・貴子さん)が見学に来る、とか
千早の結婚式に親族として瑞穂ちゃんが出席するとか・・・。

ファンの方にはたまらないんじゃないでしょうか?

今作の売れ行き次第だとは思うのですが、是非是非、実現して欲しいと思います>キャラメルBOX様、嵩夜あや様

また、良い事ばかりでは無く少しだけ気になった点も。

前作にあったイベント。
例えば、降誕祭・生徒会主催の演劇などは前作と比べて随分あっさり目に描かれています。
欲を言えばもう少し尺を取って、盛り上げて欲しかったかも。

そして、目玉だと思いますがダブルエルダー。

これ、実際には全体的にマイナスに働いたのかもしれません。

前作の瑞穂は「完璧超人+単独得票率でのエルダー」という事でエルダーってすごいんだよ!と言うイメージを
我々に与えてくれました。

今作ではそのエルダーの威光?が二人に分割されてしまったので「特別な称号」というイメージは
なんとなく、随分薄れてしまっている気がしました。

更に言えば、千早が完璧すぎて薫子が全くエルダーっぽく見えなかったのも良くなかった気がします。

「櫻の園のエトワール」での薫子を知っていないと、恐らく”単なる攻略対象”としてしか薫子が認識されない
んじゃないでしょうか。

二つ名である「騎士(ナイト)の君」もエトワールを読んでいなければ、意味も分からないと思われますが
頻繁に出てきたりします。

余談ですが嵩夜あやさんは、上記点を鑑みても前作とエトワールでの出来事は予備知識として有る物、という
前提でシナリオを書き上げたのかもしれませんね。

また、これは不満というか残念な点ですが初音は攻略対象じゃないんですよね。
ケイリを対象とするくらいなら初音を対象として欲しかった気がします。

エトワールでの初音を知っているだけに、彼女の成長はすごく嬉しかったし、何がきっかけであんな成長が
出来たのだろう、とか考えたりもしましたので、攻略対象※でないのは本当に残念です。

※エッチが理由では無く、個別√での成長のエピソード等が見たかった。

なお、購入を検討している方に(特に前作をプレイ済の方)注意ですが、ケイリ√のみ従来の「おとボク」から
全く違う雰囲気で展開されます。

超展開、と言っても差し支えないと思うほどガラっと変わります。
あの世界観が好きでプレイしている方には不快な√かもしれません。

私自身は、もっとひどい超展開を経験しているので許容しましたが、やっぱり不快には感じました。
聖應女学院という、特別な場所。

あの場所を冒涜するシナリオだと私は思っています(人によっては大げさと言うかもしれませんが・・・)


以下、個別感想(ネタバレ有り、ご注意を)



■薫子√

エトワールを読んでいるか読んでいないか、で印象が大きく変わるヒロインでしょう。
本作だけプレイしても彼女の魅力は絶対に伝わらないと思います。

今作の薫子だけ、見ていると「運動神経と見た目だけ良い女」としか受け入れられないんじゃないかな。

また、前述しましたがダブルエルダーという事で比較対象にとして千早が間近にいるのがまずかったと
思います。

千早自体が瑞穂ちゃんと比べても劣らない程※のハイスペックな人物なのでどうしても薫子が
見劣ってしまいます。

もう少し彼女の魅力を訴えたイベントが共通√に欲しかった所です。

個別に入ってからの展開はある意味テンプレ通り・・・なんですが、最後の最後で予想外の方向に
話が進んでいって、個人的にはかなり満足度が高かったです。

ただ、エンディングでの結婚式に初音とか陽向とか、学生時代の友人が居ましたが、千早の女装って
いつばれたんでしょうね。

出来れば、そんなエピソードも見たかったなあ。



■ケイリ√

この√だけは正直、心底不要だと感じました。

ミステリアス風な位置づけのヒロインと思っていましたが、蓋を開けると正体は某国の王女で命を
狙われているという「おとボク」の世界観とはかなり異質なヒロイン。

ヒロインの設定付けも異質ですが、加えて千早がどうして彼女に惚れたのかも不明だし、ケイリが
千早を選んだ理由も明確では無く納得出来ませんでした。

エンディングの1枚絵も含めて、とにかくおとボクの雰囲気との異質感ばかりが目につくシナリオ
だったと思います。

超展開のレベルとしては、すたじお緑茶「恋色空模様」の佳代子√のような感じでしょうか。



■史√

ある意味、BADEND的な扱いな√。
※史以外のヒロインのフラグが立たないと全て史エンドになるようです。

私は最初、史√になったのですが最後のあの展開は前作の紫苑√に似ていてすごく好きでした。

紫苑√のあの部分、前作で一番好きなイベントなんです。
なんというか瑞穂ちゃん格好いい~って感じで。

今作では千早がその役割を担う訳ですが、瑞穂ちゃんに負けず中々格好いいです。

まあ、前作の焼き直しとも言えないでは無いのですが良いシーンはやっぱり良いんだな、と
思いました。



■香織理√

予想以上にいいシナリオで自分にとってはかなり好きな内容でした。
悪い言い方をすれば香織理のイメージは娼婦的な感じだと思います。

実際の彼女の性格とイメージのギャップが非常に彼女を魅力的に見せ、また千早が抱えている
抜本的な問題とクロスオーバーさせながら彼女自身も幸せになっていく姿は非常に良かったです。

(恐らく)メインヒロインであろう薫子√よりも好きな話でした。

また、エンディングが全ヒロイン中で一番幸せそうに見えました。
香織理も千早もどちらも本当に幸せそうですごく好きなラストでした。

二人の娘はきっと将来、美人さんになりますよね。



■淡雪√

悪くない・・・決して悪くないシナリオだったとは思います。

雅楽乃√とかなり被る内容で淡雪と雅楽乃で表裏一体、な感じです。

ただ、心情だけで語るなら、やはり淡雪をヒロインにするのでは無く初音をヒロインにした方が
良かったと改めて思います。

※雅楽乃ではなく淡雪をヒロインから外した方が良いと書いたのは個人的な好みからです。

家元という目標に対して過程(問題点)語られる形になり、千早と関わっていくうちに自分の本当に
やりたい事を見つけ、それに向かって進んでいくという王道展開、、、王道好きなので楽しい筈なんですが・・・。

私的には正体がばれてからの淡雪の言葉遣い、千早を”先輩”や”お姉様”の敬称を付けずに
話をする態度がすごく気になり、どうも彼女を好きになることは出来ませんでした。

また、正体がばれるきっかけになった彼女の行動も正直、好きになれませんでした。
いたずら心、というにはあまりにも失礼な行動だったとおもうので。

エンディングの彼女は可愛いと素直に思いましたが、逆言えばそこしか可愛く感じなかった・・・。



■雅楽乃√

淡雪同様、華道の家元の話が絡んで進んでいきます。
千早と出会い、雅楽乃自身が大きく成長し、自分自身の意志をどんどん表に出して行く姿は
非常に見ていて心地の良い物でした。

表現方法を間違えれば、暗い方向に進みがちなテーマですが雅楽乃の性格のおかげか明るい未来を
信じずには居られない、そんなシナリオだったと思います。

正体のばれ方は正直、強引すぎる気もしないでも無いのですが、あれはあれで良かった気もします。

寮についたときの千早の落ち込みっぷりが非常に楽しかったですしねw

エンディングでのお茶目の雅楽乃も最高でした。
淡雪と路線が被っていたためにシナリオとしては普通レベルにまとまってしまったと思うのですが
雅楽乃の可愛さに助けられた感じですね。



■総 括

一言感想にも書いたのですが「おとボク」に初めて触れられる方、見えましたら2の体験版はやらない方が
私は良いと思います。

実際に製品版をやったときに楽しみが半減し、勿体ないと思います。
作品の雰囲気を知りたいのなら1をやれば間違いなく2の雰囲気を感じることが出来ると私は思います。

是非、体験版では無く、前作からプレイして頂き、この素晴らしく優しくも楽しい雰囲気を味わってもらい
続いていく「絆の系譜」を楽しんでもらいたいと思います。

なんとなく私はこの作品のタイトルは「聖應女学院物語~続いていく絆の系譜~」とでも名付けた方が
しっくりくるような気がしています。

エトワールで君江が卒業する際、遅咲きの桜を気にする場面がありました。
君江は自分が卒業するまでに桜が咲いたのを見る事が出来ませんでしたが、次世代の妹達にその思いを
引き継いで卒業していきました。

まさにこの思いこそが絆の系譜と言えるんじゃないかと思います。

今後、聖應女学院での新しい姉妹の物語が語られるかどうかは分かりません。
しかし、間違いなくあの場所では今も新しい物語、絆が育まれている事でしょう。

そういった特別な場なんですよね、聖應女学院って。

香織理√、エンディングでのヒトコマ。
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「人が、本当に人に優しくなれる場所なんて・・・ほとんど無いのかも知れないわね」
「・・・そう、ここは奇蹟みたいな場所でしたから」

風が、桜の絨毯を揺らしていく。
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この文章がこの作品を表現する一番しっくりする言葉なのかもしれません。

感想内で気になる点も多く書きましたが、その点を考慮しても大きく満足感を得られる作品だと思います。
よって評点も1stレビュー時から変えていません。

個人的には現時点での2010年の学園物では1,2を争う出来だと思います。

お奨めの作品です。