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satpさんのSWAN SONGの長文感想

ユーザー
satp
ゲーム
SWAN SONG
ブランド
Le.Chocolat
得点
90
参照数
2691

一言コメント

面白いねぇ。ハッピーエンドがあったわ~って論調に納得がいかない。あのオチは、救いなんかじゃない。2016年9月27日追記。倫理と、運命と、意思の話。クワガタくんラスコーリニコフ説の話。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず表現がステキだと思うんですよね。
「どのように」壊れてしまったか、みたいな部分が良かったです。
「ただ彼が指し示すものの奴隷になった」とかね。
思い知った衝撃で意思を失う事を詩的に示した、いいシーンです。

全体的に柚香は、テーマへの逆張りの象徴みたいなとこあるんですよね。
司が語る意思の逆。クワガタが開眼する、罪があっても罰はない思想の逆。
意思が薄いので実利主義で、罪悪感があって罰されたい。
だから彼ら自身もよくわかってない内に台風の目になっちゃう。


人生に絶望してから、まともじゃないまま、まともな振りをして生きてる。
生きようというパワーがなく、諦めたらみんな幸せなのにと思ってる。

彼女がピアノを失ったのは、彼と関わってしまって、
才能に根ざしたモチベーションを折られてしまったから。
彼がピアノを失ったのは、彼女と関わってしまって、
服を返したくなって、事故に遭ってしまったから。

彼は『意志の人』だったので、こんな結果でも彼女を恨まなかった。
彼女は、最後まで失った意志を取り戻せない。

エンディングは、意思を持って生きる素晴らしさをうたうノーマルエンドの方が強くて好き。
トゥルーエンドが救いがあるように言う意見結構見ましたが、ヒロインは一切救われていません。
柚香さんは終末思想のまんま。

エロゲーは世界が救われるより、
世界が滅びてもヒロインとくっつく方がハッピーエンドだと思う。
だから、このゲームにハッピーエンドはない。
空虚な柚香の心は、救われない。
「こんなときでも私自分のことしか考えてない」ってところが治らない限り。



~追記部分~


「なんで罪もない人がこんな目に合わなきゃいけないんだ」
「罪と罰はセットになっていない。罪に罰は与えられないし、罪がなくても罰を受ける人がいる」
「僕に罰を与えられるものはこの場所にはもう居ない」
「僕が今罰を受けているのは失敗したからに過ぎないんだ」
クワガタくんの思想はドストエフスキーの罪と罰です。


「英雄は、必要であれば殺人をいとわない」
「英雄は上手くいっているときは罰せられない」
「なぜ倫理的にいけないからやってはいけないことになっているのか」
「社会との妥協点が倫理ならば、妥協しなくてよい者は倫理を踏み越えてもおかしくない」
という問いが物語に詰め込まれているのが罪と罰で、主人公ラスコーリニコフは
「思想は間違っていないが、僕は踏み越えられる英雄ではなかった」と出頭します。

物語全体として、クワガタくんに衝撃を与えて考え方を変えさせるように事件が起こっていて、
彼をこの思想に誘導する思惑があり、お話の大きな柱になっています。


プラス、別の柱として、司の「運命みたいな勝手に決められたものには一矢報いてやらなきゃ」
という意思の物語が絡んでいます。

ラストは意思について語ると決めて性格が作られていったのでしょう。
人間の幸福は何かを追い求めているときにしか存在しない。
そんなようなことを思いました。



腑に落ちる解釈がまだ出来ていない部分はいくつかあって、
敬虔なクリスチャンである妹ソーニャが居るから、人を許す役割の妙子を妹にしたのか?
彼女は英雄クワガタによる、神の許しを打倒するための存在ですよね。
田能村の価値観は何?どういう意思を象徴しているの?

などなどあるんですが、瀬戸口先生の作品をある程度網羅的に読んでパターンを把握したりして、
それから機会があればまた読みたいなと思います。