大がかりに物語を作って序盤にその切れ端を散りばめ、後半一気に解き明かす構造なので、よくわからないまま描写を受け入れる必要のある前半が、ちょっとダレ気味で厳しかった。でも、この物語を作る際の思考の道筋みたいなものがネタばらしの際に見えるので、結構楽しかったです。
本好きが高じて本になってしまった彼女の口から
荘子の有名な言葉の引用を語らせる場面。
「蝶になった夢を私が見ているのか、私になった夢を蝶が見ているのか」
RPGの「ペルソナ」でも引用されてた有名な一節ですが、
この言葉が、物語を殆ど象徴しています。
『自分を象徴する物』になってしまう世界において、
人間の自分と、物になった自分。
どちらの方が、より『本質的な自分』なのだろう。
人間社会で生きている本好きな自分が本当なのか、
本の世界で生きている元人間の自分が本当なのか。
荘子の言葉には続きがあります。
「きっと、私と蝶の間には形の上では確かに違いがあるが、
しかし自分であること、には違いなく、物の変化とはそんなものなのだろう」
つまり、自分が自分である限りどちらが真実と言う事はなく、
蝶の時は蝶になり、人間の時は人間になっている、という事実のみがあって、
どちらが本当かなど問題ではないという話なのです。
が、この物語は、本質主義的なあの館に居続けるとバッドエンドになります。
必ず、元の世界へ帰らなければなりません。
世俗的な世界に戻ってきた方がいい、という考えが出ている気がします。
「私はきっと、本が見ている夢なんです。」
僕は本より、君がいい。
そんな話なんだと思います。
俗っぽい世界と言われても、俺は敢えてこっちを選ぶぜ!
って感じで、エンタメ作品としてエンタメを肯定した、のかもしれません。
あとは「誰にも見られていないと思ってそのキャラがやる、飾り無しの可愛い行動」
を覗き見の目線で書くのがうまいなあと思いました。
頼まれ事を頑張ろうと思って気合いを入れてみる所とか、
キャラを可愛く作るのではなく、可愛い瞬間を切り取る形なので
あざとくならずに済んでます。
まあとにかく、よく作ってある文章で凄いなー、と思いました。