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satpさんのFate/stay nightの長文感想

ユーザー
satp
ゲーム
Fate/stay night
ブランド
TYPE-MOON
得点
83
参照数
368

一言コメント

その世界は、きっとルールと適応とその反発で出来ていた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ファンタジー系テーブルトークRPGをガッチリ捻って構築したようなお話だと思います。
作者というゲームマスターによる、そのシーンごとにルールの許す範囲内で最大限追い込んでくる構成、
キャラクター達が語るルールの仮説(主観で提示して来るので絶対的なものではない)、
ほぼ全てを知っている少女による答え合わせ。


だから、その少女の語るルールは基本的に覆りません。
殆どのキャラクターは自らの想定しているルールに過剰適応しているが、
回想で適応前の彼らが示され、元々の性質が感情の輝きと共に漏れる。
セイバーも、凛も、桜も、アーチャーも、言峰もそんな感じ。
どうあるべきか、どうありたいか、でもどうせ選択権がないからこうしてる、
そんなのはおかしいと、士郎がその漏らす輝きを引き出そうとぶつかり合う。


序盤からシンジを「こいつは根は良い奴だ」と評しているのに
それを読者に納得させるような場面がないのが無理筋だと思ってたんですけど、
これは、主観によって語られている物語であることを意識させる意図があると思います。

選民思想満足期の余裕でしかなかったわけで、間違った判断なわけですから、
根はいいと断じるより昔はこうではなかったと語らせるのが平均的な筋かな、と思いますが、
それを勝手に確信させて邁進させる辺りが作者の特徴ですね。

主観は決して正解ではないということを常に意識してお話を進めている。
全てを知っている視点からは極力距離を取らせた方が面白いと考えている。
妙な確信で他人の価値観を潰して回ろうとしてしまう士郎くん、が変化する必要がありますから。


そもそも、士郎が戦ってる相手は理不尽な世界そのものですよね。
全員は救えないとかはお前の主観だろと突っぱねるし、
女の子なのに戦わなきゃいけない世界に腹を立ててる。誰とも戦いたくない。
「作者の作ったルールと戦うキャラ」としての資格はそこにある。
ただし、ルールという枠を意識しているだけで、打破させるわけではありません。

作者がルールに則って書くがキャラは主観でしか語れないという物語スタイル。
「次に能力を使ったら間違いなく死んでしまう」とか主観の情報は全てキャンセルできる。
ただし作者という世界のルールの操り手からは逃れられない。


そういう作りにしている理由は、多分作者の特性が飛躍にあって、
「そんなの言ったもん勝ちじゃん!」と反発されかねない無限の飛躍を、ルールという枠によって
文句を飲み込ませる程度に留めることが出来る、というスタイルを発明したから。
TRPGのゲームマスターがその場で語りによってイベントをドライブさせるようなシステムです。
打つ手が無いように追い込んで来た挙句、ルールの隙をちょっとだけ教えてくれるような。
よく出来ていて綺麗に隠して作るカタルシスよりも、開示前のカオスの度合いをより上げる事で落差を作る、
状況に合わせてその場でハンドリングする運転技術に即した書き方をしている。


クロスチャンネルを絶賛してたのもさもありなんと思いました。
設定のルールと個人のルールが強固な世界のお話ですから。
絶対に変えられない部分と謎を早めに認識させた上で、さて何が出来るかみたいな。
そりゃあもう、自分の得意そうなやつを見事に作られたってなもんでしょう。

あと、一人の人物に相反する性質が備わっているという造形を好むように見えます。
お固いのに抜けてるセイバー、冷徹に適合しようとするけど情念の凛、
貞淑に見えて破滅型の桜、生命力の塊に見えて資産家の大河。
複雑なルールを作るのが好きなのだなあ、と思います。また、よく自分自身のことを分かって発揮している。
文章の癖や、情報のないまま霧の中を進む感じがしんどい所もあったけど、なんだかんだ面白かったと思います。
以上です。