文章で笑わせるときのセンスが相変わらず良い。もうそれだけで80点。恋に恋い焦がれ恋に泣き、愛し愛されて生きるのです。
愛は自分の勝手に思う形や同一化だけではないので、彼との愛を知れば終末への愛の形が変わるのです。
世界に対する片思いなのだから、自分の気持ちだけが大切、と言っていたのに、
彼女が愛を知って成長したことに皆泣くのです。
愛だから熱意を持って話すことが何より大事なんです。
説得とか重視しなくてよいのです。台風が巻き込むことでどうにかなります。
ラブコメパワーみたいなもんです。パワーが大事。
熱意を持って話せばわかるという主張を厳しいと思っていた主人公が、
最後は熱意でぶつかるのも良かったですね。
愛されたいからこうなってるのだから、大事になるのは説得力じゃないのです。
主人公が存在し続けてる理由も世界がこうなったのもツバキさんの愛だし、
愛に始まって愛に終わるのです。
人類が発生したのはただの現象であるし、
自分に過去の記憶がないのも悲しいかどうかの前にそういう現象。
現象にとって大切なのはただそこにある事実。
キャラクターの役割は、人類が閉じるのを願うアポトーシスと、
人類が到達範囲を広げるのを願う西洋文明的価値観の存在。
アポトーシスを止めようとする存在に、危機を知らせるだけの存在。
ストーリーや時間の概念は今まで書いてきた作品同様、量子と観測と確率とやり直しですね。
終末を望み、叶うまで繰り返す彼女を中心として、意味を持った存在が渦巻いています。
ここではないどこかを求める主人公は、まるでサブカル青春映画の主役のよう。
自分の身の回りの小さな関係(特にヒロインと主人公)
が世界の存亡に直結してる物語をセカイ系と言うけど、
自意識の範囲が世界の全てみたいな神経のセカイ系物語を、外に出たい彼が若干メタに捉えてる。
とは言え、小さな世界の事件の解決が全ての解決という点でセカイ系そのものなんだけど。
「僕らが見ているのは世界なんかじゃない」
「莫大な世界の中における酷く個人的な世界」
「大丈夫。君の世界はまだ壊れていないんだよ」(きみとぼくの壊れた世界)
あとは台詞回しが結構好きでした。
イライラしたからって殺人しません!に対して、
あなたがそういう自分を知っていたとしても、私達にはそういうあなただという確信はないんです、とか。
私は自分のこと異常者だと思っていません、に対して、
そういう認知の歪みはいいですから、とか。
カモシカに尻を舐められた話は聞いたことがないが、
カモシカに尻を舐められなかった話も聞いたことがない。とか、
そういう、何か考えて放つ独白に面白い文章が多かったです。
どちらかというと、ストーリー以上に勢いよく笑わせに来る文章の方に真似できなさを感じます。
やっぱり文体やテキストって大事だな、と思います。
以上です。