SFをネタに使い、情報の獲得と仮説の提示で引き込んでいく推理キャラクター小説。
よく出来た推理小説というのはまず状況設定が上手いですよね。
練られた仮説で読者の予測を集中させるミスリード。自説を否定するように止まらない事件。
自軍に特徴をつけ、能力強化にセックスを絡めて、それを使えば行き詰まりを打ち破れる状況設定。
状況解明のヒントを少ない情報から展開して、勘の良さで推理していく。
小さい事件を解決しながら大きな事件に迫る構造。
よく出来ているところは多岐に渡ります。
伏線が分かり易すぎて感嘆出来ない、なんてこともないので、
どうしてその策を練ったのかという解答編もダレにくい。
主人公のエロ魔人っぷりで真面目な流れを変えるから、瞬間瞬間のテキストもさほど退屈にならない。
キャラクターの口癖も「ポジティブです」「やばくて」など癖があって、
実は「仮説を聞くだけ」「情報を話すだけ」なシーンのテンション維持に一役買っている。
AIとVRでお話を考えて、AIにAIを組み上げさせる事に何処かで限界を設ける理屈、というSFひねり的スタートラインを引く。
AIの限界や時間の巻戻りという世界全体の設定が「環境設定」されているからであるとする。
元ネタになるSFがあるのかどうかわからないけど、
AIの恩恵から離れることはできないのにAIがAIを作って暴走することには恐怖した人々が、
法を整備し管理機関を作っているというのは
科学がポピュリズムに苦しめられている感じがして想像力としてとても良いです。
そして箱庭に入ることがもっと大きな箱を隠す手段として使われています。
量子論で「観測される確率存在」の話をして、現実だと思ってるここも箱の中であることを示唆していて、
この「現実が箱の中」というのが最大のどんでん返しだから若干量子についての説明が多くなっています。
しかし、よくわからないとか無茶な理屈だとか言われないのはここが意外と効いていて、無駄とは言えない。
とにかくポップな上手さに溢れています。
謎で引っ張り、キャラクターで維持し、主張の為にエンタメを犠牲にすることもない。
この辺が凄く推理小説と似ていると思います。
法月綸太郎やコリン・デクスターの推理モノのような、今ある情報から類推して、
それを覆されるというエンターテインメントが好きな方ならとても楽しめると思います。
以上です。