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satpさんの紙の上の魔法使いの長文感想

ユーザー
satp
ゲーム
紙の上の魔法使い
ブランド
ウグイスカグラ
得点
85
参照数
621

一言コメント

史上最強の、アダルトチルドレン恋物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

現実の親子間でも行われている意思への介入。

「私の言うとおりにしなかったうちの娘は不幸になるに違いないわ」
「今回はうまく行ったけど怖いからやめて頂戴」
「私は悪い子らしいから幸せになんてなれないんだ」

娘が自分の意志を発露するたびに、自分の意とそぐわなければ芽を摘んでしまう。
お母さんと合致しない自分の意志は恐怖を煽られて選ぶことができない。
弱い子を弱いままで生きて行かせようとするシステムが過保護では作られる。
それは存在の否定なので、本当はとてもつらいことだから、
ついに過保護なモンスターママに反抗して、背中を押されながら、恐怖に耐えて傷つきに行く。
それでいて、決してお母さんは自分可愛さで行動しておらず、過保護なのは彼女ら親子の持つ力自体なのです。
つまり不幸はあるけど悪人は居ない、なのに追い詰められているから、はけ口がないのです。

そのストーリーを完遂するまで、その内容通りに人を動かし続ける本を生み出す力。
無意識に恋敵を邪魔だと思い、その子が別の誰かに恋をして体を重ねる寝取られ本を超能力で読ませてしまう。
そうは行くかと自殺する恋敵。後を追う片思いの相手。
気づいていたのに止めなかった母の後悔。耐えられるほど育っていない娘の心。
フェイクが作られ、終わっているのに続く物語世界。
優勝。優勝です。


ギャルゲーは主人公とヒロインが幸せになれば悲惨なオチでもハッピーエンドだと考えているけど、
この物語の主人公は彼女であって、彼女が一つの恋を諦めるのが終わりだから、
主人公とヒロインは不在というか、恋愛物語ではなく、恋物語なのです。

自分の力がやっていたことの罪深さに耐えきれず、
再度引きこもって周囲に呪詛を撒き散らしてもおかしくなかった所で踏みとどまって、
好きな人の幸せを願い、自分だけを幸せにしない素敵な社会性。
でも自分の不幸を受け入れるだけじゃダメだと諭されて、
傷つきながら世の中で生きていく。


コンテンツをいっぱい見ていて、お母さんが不安症で、気持ちが弱っている、
引きこもりの瀬戸際みたいな環境の人にとても刺さるお話だと思います。