重要な文章は重要なシーンにしかほとんど無いので、ひたすら筋道ド直球。『夕暮れの良い景色で主人公が自分の背負ってる悲しみに思いを馳せる情景』みたいな、余計な(と同時に美意識や文章力を発露するような)膨らみをかなり削ぎ落としてあるので、そういう文章を求める向きには合っていない。前頭葉の発達した、幼児期という成長期が長い人類の、その先。神は種の多様化を望んでおられる。その手段は、ヒロインと主人公のたゆまぬ努力。
人が欲を持てば一切皆苦、望んだものがあってもなくても同じ。
子が出来なければそれを悲しみ、子が出来ればその将来を思い悩む。
その悩みの輪廻から逃れる方法は、欲こそが苦しみの源泉だと悟ること。
終わった世界の人類は、体を失うことで悟りを開く。
色即是空、空即是色。全ては悩みの種であり、有(色)ったところで無い(空)のと同じ。無いということは有るのと同じ。
実体の消滅によって悟りに達した人類は、苦しみはなくなったけどただそれだけじゃないか。
世界が終わってしまえばいいというのはここまで続いてしまうことを見越してのことか。
終わってもいいとは思えない、と意思論に持っていく。
ということで、このお話はオチにかけての少しの仏教や物理を軸に、
そして努力家の意思論みたいなものをテーマに、構成しているのではないかと思う。
ループごとに0からやり直して数を打って突然変異を待つお話ではなく、
あのタイミング以外に可能性はないのでそこに合わせて蓄積や成長をしなければならないお話になっているし、
これは努力主義的思想ではなかろうか。
努力って、結果はコントロール出来ないけど自分というコントロールできる部分は意志で動かせる、という考えで、
ヒロインは重力をコントロールできるようになるまでループを操作して結果を出させる(そういう犬に躾けられてるとは言え)。
そして主人公は「やると決めたらやるんだ」「そうしたいんだからそうするんだ」
と意思を主張し、ヒロインが消えることを阻止する。
どちらも意思が成し遂げられるお話ではないか。
為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり。
出来るまでやる、やると決めたらやる。なぜならそうしたいという意思があるから。
そんなお話。
ほぼ一直線に進行するお話であるのでキャラクターを多面的に描き出すシーンが少なく造形が薄いけれど、
これは物語の進行のためのキャラクターだからなのだろう。
しかし、あの世界は主人公の成長という物語を進行させるための世界であり、
姉に至ってはシナリオの中で「主人公に必要であるという意思」によって与えられたと先回りして、
お話のためにキャラが居るような状態、に対するエクスキューズまで済ませている。
これはお話のコントロールだ。
そして随所に流れる仏教、過去作、物理の知識。
これを読み始める前に友人のすすめで超弦理論解説本読んだんだけど、
結構いいところまで現実の素粒子やら次元の特徴を使って話を組み立ててる。
たとえお話の肉付けのための骨が欲しくてした勉強だとしてもこれは努力なくして獲得し得ない。
一番すごいコントロールや努力をしているのはライターさんなのでした。
以上です。