前作の苦しかった所が上手く埋められてると思います。探偵と、読み手に寄り添う疑問提示者を分けたことでホームズのキレ者とワトソン君のオトボケを主人公が同時にやらずに済んで、お話が安定しました。その代わり、続き物としてストーリーのツケを払わされるという前作とは別の苦しさが出ていました。
前作の感想でも書きましたが、もちろん、このメーカーの肝は
絵、キャラ、雰囲気を杉菜さんの美意識で描く、というところにあるわけで、
それをまず断った上でストーリーのお話をしようと思います。
さて、基本的な構造は前作と同じだと思います。
二本分できるお話を、関係の糸で繋ぎあわせている感じ。
前作もヒロインとの出会いを司る事件と紐解きの最中に起こる事件は
元々は独立した、糸や紐でしか繋がってないような関係の深さのはずが、
最終的な目の前の事件には両方しっかり出自と陰謀の両面から攻めてきてたと思います。
このお話の発想のスタートは、前作の陰謀の根城である病院を舞台1にすると決めて、
怪しくて暗いお話にするというのも決まってて、
病院つったら薬、薬と言ったら人体実験と製薬会社。
でも製薬会社より田舎の風景のが綺麗だし怪しいよね、田舎つったらしきたりと祭りでしょ、
みたいな感じで薬に明るい富山の閉鎖的な村、を出したんじゃないでしょうか。
村で起こる事件という何なら独立して一本書けるものを、一旦棚上げにして、
出身者や実験の被害者を最後の事件で復活させて大掛かりにしていったのがこの物語の骨格だと思います。
で、前作のツケって何かって話なんですけど、要はヒロインが不在なんですよ。
これは書くときにかなりキツかったと思うんですよね。武器が一個ないのに近いというか、
僕と君の物語、の君が居ないまま全編進むんですから。
主人公にとってのヒロインは冬子しか居ない。
他の女の子に対しては半ば上の空である。
こっちもそういう気持ちで読んでいく。
ヒロインと関わりながら、ヒロインを紐解きながら事件を紐解くからモチベーションを保てるわけで、
今回はヒロイン不在の中でやらなければならないので、
ヒロイン候補でない友人キャラが入れ代わり立ち代わり現れながら、
ひたすら選択をして事件の情報を明かしていくような状態になっています。
今、ミステリはキャラとミステリそのものという両輪のエンタメですから、
ヒロイン不在というのはなんならミステリよりもハードボイルド小説に近いくらいですよね。
町や企業そのものが主役であり人物はその観察者にすぎないみたいな。
挑戦するつもりでわざと硬派な方法で書いたんでしょうか。
ヒロインが居ることを前提にした、キャラクターの性格を読み取ろうとする頭には
主人公が想っているヒロインとの会話がないというのはなかなか大変でした。
以上です。