かなり良質な成長物語。 瀬戸口さんのテーマ面白かったんで僕らなりに咀嚼してみました、みたいな感じ。 画面効果も塗りも絵も綺麗で個人的には下半期優勝争いクラス。 致命的じゃないが他者との関係に問題のある僕らへの、コミュニケーション能力成長物語。
開始数分は名作の予感しかしなかった。
よく考えてる男の子が暗い事言ってて、これを昇華したら絶対カタルシスあるなと。
羽依がメッセージウインドウでは「・・・」となってるところで
小さな声で「嘘つき」つってるのは瀬戸口さんへのアピールかな、と思った。
「鳴子さんのバカ」ってシーンのやり方そのものだから。
SWAN SONGのファンなのでこちらでも作ってみました、っていう。
瀬戸口さんの作品もこの作品も、コミュニケーションの断絶を扱ってるけど結末が異なる。
取り外せない分厚い仮面を被って殻に閉じこもって、
そのまま殻を強固にしていく、諦めとか不全の物語が瀬戸口作品。
あちらは、悲観的な真理の追究。
こちらは、理解できずとも許せるようになれるという結論でそれを解決する物語。
人同士は結局完全に理解し合うのは無理だよなあ、って真理もあるけど、
分かった気になった勘違いでも上手く行ってればそれでいいんじゃない?
みたいな考えもあって、
そこまで深刻じゃない僕らのコミュニケーション不全は、後者に近いこの物語がちょうど良い。
変身ってギミックを使った、ってのはなかなか意味があると思う。
古今東西、物語において変身は、子供から大人へ成長する際の成長期の戸惑いの例えに使われる。
自分の体が一時的に別の物になり、それを乗り越えて大人になる。
寝る前のお話として子供に向けて語られてきた神話にはこのような「変身」の物語が多い。
つまり、変身を通過させるストーリーであると言う事は、
成長する物語であり、克服の物語であると言う事で、
このコミュニケーション不全は、物語の中で治ることが必然になっている。
悲観的な終わりにならないように最初から逆算して誘導しているのがわかる。
主人公がキレるのは、幼児性の発露。大人になって人を許せるようになるまでのお話。
自分を守るために多重人格になるように、ショックに耐えるため人格の代わりに人を作った。
それが出来るだけの不思議な能力があったから。
空想による守備力増強を必要としなくなることが、この主人公の成長。
とにかく全体的に、持って行き方が上手い。
変身するのは主人公だけじゃない。子供である時未のシナリオは、彼女とともに成長する。
時未は名前の通り、変化の「時」が「未だ」来てない子供で、成長の余地がある。
殆どのルートでは主人公が変身してなんやかんやあって成長するんだけど、
この場合は彼女の方が変身する。そして彼女との関係から受ける影響で成長を志す。
変身飴の利用パターンに変化球が混じってる。こりゃ上手い、と思った。
どの話も、良質な成長物語。装飾である萌えによって重くならないようにしつつ
中身も質が高いと思う。
普段の彼は、他人と真っ正面から向き合ってない。
でも、部長が看破していたように、彼は逃げ続けることが出来ない。
全てをウソで塗り固めることはし続けられなかった。
現実に裏切られることもあるけれど、裏切られないこともある。
期待せず諦めず、想い続ければいい、と気づいて彼は成長する。
傷つきたくないから期待しない、で一生を逃げ切るのは難しい。
これは、外せるかもしれない仮面をつけてコミュニケートする僕らの物語なのだ。