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sato785さんのサクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-の長文感想

ユーザー
sato785
ゲーム
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-
ブランド
得点
95
参照数
3144

一言コメント

幸福な王子の、幸福な生の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「幸福な生」をテーマに、美術、哲学、文学等を織り交ぜて描かれた群像劇。
とにかく主人公が魅力的な作品。主人公の魅力で全てが成り立っているといっても過言ではない。
これは様々な因果(人生)との交わりの中で、それらを輝かせ、「幸福な生」を歩む櫻の芸術家・草薙直哉の物語。

作品が何のために作られるか。それは見る誰かに何かを感じて欲しいから。
直哉が信じる「美」は、稟が信じる神のごとき絶対的な何かではなく、見る人各々が見いだすもの。
ある人にとっては取るに足りないものとして映るかも知れない。
だが、ある人にとってはとても美しいものになり得る。
草薙直哉という芸術家は、人と人の交わり、因果交流の中で輝く作品を作る存在。
それぞれの人生という花弁。それらが交わり、光り輝くことで、詩(し)は詩(うた)へと変わる。
それがサクラノ詩という物語。

幸福とはお酒のようなもの。多すぎるそれらは不幸の元になってしまう。
幸福と不幸と表裏一体。不幸があるから幸福を感じられ、幸福があるからこそ不幸を感じる。
幸福しかない人生など、何も感じない、生きていないことと同じようなもの。
どちらもが存在するからこそ、人はそこに生を感じることができる。
幸福と不幸を積み重ね、それでも些細な幸福を感じることのできる人生こそが「幸福な生」。

幸福な王子はいろいろなものを失った。
ツバメたちもそれぞれの南へと渡り、彼はひとり同じ場所に立ち続ける。
それでも、彼に欠けた部分などなく、失ってもなお感じられる幸福がある。
だから彼は、また春にツバメたちが戻ってこられるよう、新しいツバメたちが身を寄せられるよう、
同じ場所に立ち続ける。


<各章感想>
Ⅰ・Ⅱ(共通)
Ⅱ章冒頭プールサイドでの会話が最高に好き。
CGとBGMを含めて全てが最高。周回してもここだけは飛ばせない。
会話内容自体は割りとナンセンス。
だからこそ、会話や関係を楽しみたいという意図がより際立って感じられる。
Ⅱ章ラストの壁画を作るシーンは、この作品のテーマを語る上では外せないシーン。
色々な因果(人生)が交じり合い、幸福の光を放つその光景。


真琴
傍若無人風味なお人好し。可愛いだけでなく格好いいキャラ。
一番普通の恋愛ゲームのようなルート。
天才芸術家・草薙直哉としてではなく、
ひとりの人間・草薙直哉として何かを変えていくお話。
最後のこちらを見つめる真琴のCGがえらい可愛い。
妄想ヌードデッサンはどのエロシーンよりも素晴らしかったです。



美人で頭が良くてドスケベなスーパー天才芸術家の稟さん。
要素盛りすぎだろ…ま、本人の√では天才芸術家にはならないけど。
優しい嘘で作り上げた夢を覚まさせ、現実を生きさせるお話。
幸福だけでなく不幸もある。でもだからこそ幸福を感じられる。現実とはそういう場所。
主人公が落ちそうな稟を掴んで逆ギレするシーンが、
ただ一方的に救うだけのヒーローじゃないところが出ていて、結構好き。
とりあえずエロ部分は一番エロい。稟さんマジドスケベ。
長山さん登場。このルートではただの小悪党。


里奈
精神的妹とかいうエキセントリックさんに見せかけた一番の常識人。
特別でなく、普通でいいんだというお話。ほぼ里奈と優美のお話。
自分にはないものを持った特別な少女への憧れ。だが自身がそれを失わせてしまった後悔。
その贖罪を心に秘め、互いに寄り添い合い続ける歪な関係。
だが、優美が選んだのは友人の幸せを祝福できるような普通の関係。そこにも価値はある。
6年前の主人公が厨ニ格好いい。これは惚れるわ。
結ばれた後がわりとあっけなかったのは残念。もうちょいイチャコラしてほしい。



無口系エキセントリック少女。雫状態より葛状態のほうが可愛い。
基本的に過去話。親子の話と葛と雫の話。
ここでようやく健一郎のことが描かれ、直哉との関係が一変して見えるようになる。なかなか憎い構成。
「墓碑銘の素晴らしき混乱」
言葉自体に意味はなく、その言葉を発した意図さえ伝われば言葉なんて何でもいい。
たとえ騙すための贋作であっても、親子にとってはそれは感謝と別れの言葉になる。



過去話。健一郎と水菜の話。
健一郎が最高にイケメン。
幸福とは何か。その瞬間には感じられないもの。
絵という瞬間を切り取り永遠にするものによって、時間という制約を超えて、そのときの幸福を感じることができる。
健一郎が水菜へと捧げた「オランピア」。あの作品はまさにそういったものだったのだろう。


Ⅴ(藍)
幸福な王子(直哉)とツバメ(圭)の物語。
主人公が再び筆を取るが、大きなものを失うお話。
最後の桜の下での稟との会話は、少々難解。
でも芸術家・草薙直哉という存在がよく分かる会話。
そして、この話でまさかの長山評価爆上げ。
いままではただの嫌なやつだったのが一変し、
凡人であることを自覚し、それでも天才に挑むことを諦めきれない人間臭さのある良いキャラになる。
いちおう藍ルートっぽくはあるけど、短いし、EDないしでメインルート扱いではない。
ある意味Ⅵ章も藍ルートみたいなものだから別にいいんですが。
藍先生は、可愛さと包容力と兼ね備えた最強キャラ。こんなおねえちゃん欲しいわ。
人に与え続け、失ってばかりの幸福な王子に、与えることができる唯一の存在。
だからこそ結ばれてしまう話をメイン扱いできなかったのだろうけど。



幸福な王子の、幸福な生の物語。
ツバメたちを南に見送った後の幸福な王子のお話。
ここにきて新キャラ大量投入。続編で使われるんですかね?
まさかモブキャラ片貝くんがここにきてこんなに出番をもらうとは誰が予想したであろうか。
そしてなによりも大人ver真琴がめちゃ可愛い。


櫻の森の上を舞う天才・御桜稟とは対照的に、幸福な王子は櫻の森の下を歩む。
舞い落ちる桜の花弁は、各々の因果、各々の人生。
それらに触れ、ときに輝かせ、櫻の芸術家は「幸福な生」を歩んでいく。



ヒロインの好みは以下の様な感じ。
藍>里奈=真琴>>>稟>雫
圭と明石を筆頭に、サブキャラも魅力的なキャラばかり。
校長の若いころとか最高に素敵だと思います。
魅力的なキャラが多いこの作品だけど、やはり圧倒的に主人公が魅力的すぎる。
ただ格好いいだけでなく、わりと性欲に素直なところも評価高し。これは誰だって惚れるわ。
シナリオだけでなく、CGもとても綺麗だし、BGMは素晴らしいの一言。
期待を遥かに超えて楽しめた作品だった。

Ⅵ章は確かにエロゲの物語として見ると物足りない部分もある(誰ともくっつかないし)ので、賛否両論もわかる。
だが、「幸福な生」というテーマを描く草薙直哉の物語としてはこれ以上語ることもないのかなと。
続編が蛇足に感じてしまう不安もなくはないが、それでも楽しみに待ってます。