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sasaburoさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
sasaburo
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
92
参照数
112

一言コメント

絵、音楽、シナリオ、いずれも高水準の良質SFビジュアルノベル。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

抽象的なSF作品は読者によって読み取り方が多種多様だと思います。
ここではゲーム感想からは少し離れてしまいますが、私が感じたことを一つ記させて頂きます。


私がこのゲームで特に印象的だったのは、BGMとして何度も流れる「星の世界」でした。
もともとミッション系の学校にずっと通っていた私は、
星の世界というより、むしろ賛美歌312番(いつくしみ深き)として覚えていたんですよね。
『いつくしみ深き』は賛美歌の中でも結構有名な部類の曲で、
新約聖書に出てくる山上の説教というものを基にし、Josephという方によって作詩されました。
この山上の説教は、「右の頬を打たれれば、左の頬も向けなさい」、
「汝の敵を愛せよ」などの文句で知られる非常に有名な教えであり、
Joseph氏はこの教えを守りながら、財産を惜し気もなく庶民へと分け与えるなど、
死ぬまで聖者としての生き方を貫いたと言われています。

この山上の説教や、Josephという方の生き方。
どこか、ほしのゆめみの在り方と被るところがあります。
ロボットという縛りから抜け出すことのできないゆめみ。
ですが、そのようなゆめみと触れあっていく事で、主人公は人間らしさを取り戻してゆきます。
そのような純粋な性質を持つロボットを見て人間らしさを取り戻すのは、ある種の皮肉が込められているのでしょうか。

結局、ロボットとしての縛りが原因で、ほしのゆめみには悲劇が訪れます。
純粋で信心深い人々が悲劇を迎える。聖書やキリスト教の歴史では良く見かける話です。
ただそのような人々は、天の国では幸福を得られると言われています。
信じる者は救われる。けど、色取り取りの感情を併せ持つ人間にはそれはとても難しい事です。
感情を持たないロボットだからこそ、現実に不幸はあれど、ただひたむきに信じ続けることができる。
感情イコール悪という善悪二元論を紐解く気はありませんが、
人間的でないロボットとしての行動を取ったゆめみの在りように神聖さを感じてしまう点に、
人としてのレーゾンデートル(存在理由)を強く考えさせられてしまいます。
この点を突き詰めて論究すると、皮肉を通り越してどこかシニシズム的な感情に陥りますね。
そんな時に「星の世界」を聴くと、ほしのゆめみの姿が脳裏をよぎり、
作中の主人公のごとく心の粘膜が溶解し、どこか心安らかな気持ちへとさせられます。
結局その感情もある種の逃避なのかもしれませんが。

天国を二つに分けないでください。
ほしのゆめみは果たして・・

これまでのKeyのゲームとしては一線を画す本格的なSF作品。
ですが私にとっては、ロボットとしての在り方がどうのこうのというより、
どこか人間的な側面で考えさせられることの多い作品でした。


お気に入りのキャラ:ほしのゆめみ
お気に入りの曲:星の世界、Gentle Jena