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sasaburoさんのゆきうたの長文感想

ユーザー
sasaburo
ゲーム
ゆきうた
ブランド
Survive
得点
86
参照数
227

一言コメント

奇跡の代償、愛の切なさや儚さ、そんな寂寥の風景を冬の季節感に准えて、まるで冬の空が唄っているような印象を受ける作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

雪那と由紀と弘美。菜乃と摩尋。この前者と後者のシナリオでどうにも旗色が異なってしまう作品。このゲームをプレイすると誰もが「奇跡と代償」というフレーズを心に抱くと思うが、摩尋ルートでは奇跡も代償も中途半端な提示であり、菜乃ルートはぶっちゃけ何が何だか良く分からない。おそらくライターさんの違いだと思うのですが、私が基本的にこの『ゆきうた』という作品で評価するのは、前者の雪那、由紀、弘美のシナリオです。

奇跡を叶えるのだから、代わりに償いをしてください。人生がやり直しになる雪那。逆に償いを与えられてしまう由紀。あの世へと旅立つ小夜。分岐の前にそれぞれに通ずる選択肢が直截に提示され、その後の展開の対称性がプレイヤーの心情を大きく揺さぶらせるシナリオ構成。全てにおいてハッピーエンドを迎える愛なんてありはしない。某番組のキャッチフレーズに愛は地球を救うという言葉があり、実際エロゲでもすべてが愛によって解決されるシナリオ構成の作品が数多く存在するが、本作はそのようなお決まりに真っ向から対立する、そんなある種のアンチテーゼとも言えるものが垣間見える世界観。恋には代償が伴う。痛み無くして得る物は無い。由紀のシナリオで出てくる由紀の父親のセリフ、「愛で目が見えるようになるものなら~」が『ゆきうた』における世界観のすべてを表していたのではないかと思います。

とまあ、読み返すと愛に対して非常にアイロニカルな感想になってしまいましたが、何が言いたいのかと言いますと、結局愛には痛みが伴うと言いますか、得るものがあれば失うものもある、奇跡があれば代償があるという寂寥感を冬の風景に准えて唄ったのが本作品であったのではないかと思うわけです。そのような訳で、悲劇とも言えるストーリーは大変後味が悪く、プレイ後に鬱々とした重たい感情を胸にずっしりと残すわけですが、もの悲しい冬の物語もまた、四季折々の中の一つの風情であり、続編のそらうたなど、他の季節感と折り合わせて振り返ってみると、これもまた一つのもののあはれとして、人生の潤いの一つとなる作品であったと感じ入る所感に至ったのが、私の「ゆきうた」の感想の全経緯であります。


お気に入りのシナリオ:雪那BAD
お気に入りのキャラ:由紀
お気に入りの曲:あなたの季節