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sasaburoさんの白詰草話 -Episode of the Clovers-の長文感想

ユーザー
sasaburo
ゲーム
白詰草話 -Episode of the Clovers-
ブランド
Littlewitch
得点
79
参照数
495

一言コメント

完全版出せよ。いいえ、出してください。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作の世界観には、明確な悪役というものが存在しない。絶対的な正義など存在せず、ただそこにあるのは『現実と解釈』である。そのような中、作中に出てくる漢達は、みな現然たるそれぞれの正義というものを掲げ、己の信じる途を一念に進み続ける。一人目として、敵対するものとして描かれるスパッド。彼は、持たざる者として生を受け、この世すべての人に自由と平等を与えようとした。その生き様は、結末を予見していたグラハムですら、否定する言葉を紡ぎだせなかったほどの灼然たる信念である。次に、主人公である宗慈。宗慈は作中ひたすら己の在り方というものを想念する。そして、娘であるエクストラとの触れ合いや筒井からの教え、品藤の死などを経たことにより、バベルの塔にてスパッドと対峙し、自分で得ることにこそ価値があると言い放つ。鳥を羨むものは鳥になったら人を羨む。結局、彼はその過程にこそ生きる事の本筋というものを見出した。そして三人目として、言わば第三の男とも呼べる荒山。作中で具体的な過去は描かれないが、おそらく古痕での研究や品藤との交際の果てに、荒山は今という時間こそが絶対であると心に秘める。そして、それを守り続け、ただ勝利する事こそが正義であると彼は主張し続けた。このように、それぞれの正義を具有し存在する三人の漢達。正着なものなどなく、彼らが胸中に抱く正義は決して共鳴し合う事が無い。そして、彼ら三人に起点であるグラハムを加え、それぞれの道筋が絡み合いながら、ただ一つの事象の果てに様相が描かれることで、物語は終幕へと誘われる。非常に壮大にして悠久とも言えるストーリー。多くのシナリオが削られた事で、本来予想された豪壮たる世界観の綿密さは大きく損なわれてしまったが、それでも本作は人間ドラマとして概括すると、FFDというシステムも相まって大変優れたゲームであったと思う。それぞれの思惑が渦巻く中描かれた終局は、若干唐突な展開ではあったものの、非常に感動できる結末であった。


と思ってる事だらっと書きましたが、一言コメントにも書いた通り、完全版が出たらいいなと強く思っている作品の一つです。特に生の在り方に関してはシナリオの軸としてそれなりに描かれていたのですが、おそらくもう一つのテーマであったと思う、遺伝子操作とエクストラに関して非常に中途半端だったのが大変勿体なく感じます。作中出てきた白詰草のエピソードは、FFDシステムを通して非常に心に残る名シーンでしたが、結局その後の展開にはあまり繋がりませんでしたね・・。本来の三つ葉に四つ目以上の葉を探求した事で、生殖機能に異常をきたしてしまった白詰草。この、余分な染色体を付加させる遺伝子操作で招かれた悲劇と、それに譬えられて存在している三人のエクストラ(Extra:余分な)。この辺りが、結末で結ばれるエレンと篤子の末路に合わせてうまく描かれていたら・・遺伝子工学をテーマとしたSFとして大変色鮮やかなものになっていたと思います。遺伝子組み換えと生殖異常等の関連性は、何年も前から指摘されている問題ですよね・・。そのような訳で、ほんとボリューム不足なのが残念なゲームであったと思います。


お気に入りのシナリオ:どれも同じ
お気に入りのキャラ:エクストラ三人全員、荒山
お気に入りの曲:Escape、シナリオ