平凡な日常がいかにありがたく、得がたいものかを感じさせてくれる、今こそプレーしてほしい作品。
日常が突然壊れてしまう世界。
当たり前が当たり前じゃなくなってしまう世界。
余命3ヶ月と知らされるのと、3ヵ月後に突然死するのでは
どちらが幸せなのでしょうか。
確かなのは、3ヵ月後に死ぬということ。
そして、その事実を知ったとしても
自分の体も回りの環境も何一つ変わっておらず
変わるのは本人の気持ちだけだということです。
CGのきれいさはさすがです。
そしてノーマル→アフターには泣きまくりました。
なぜ2週間の物語なのか。
それは彼らにとっての「例外」の日々は2週間で終わるからです。
「大切なものはすべて胸の中にある」
絶対的な死なんてものは些細なことで大切なのは思いや考え方。
そのことに気付いた彼らには星が落ちてこようが
その先に待っているのが死だろうが関係なしに
今までと同じ、もしかしたらそれ以上の楽しく幸せな
日々をすごせるのです。
まさにアフターでの写真が表すような。
昴はちょっと説教くさいかなと思いますがそれでもいい男です。
まわりに友人がいてくれるから頑張れる。
そしてそんな昴がいてくれるから友人も明るくいられる。
持ちつ持たれつの理想的な関係ですね。
しかし少々鈍いところが玉に瑕。
昴の鈍さは他のゲームとはちょっと違うんですけどね。
他のゲームの鈍さは表面上の変化すら気づけない鈍さ。
昴の鈍さは表面上の変化に気づき心の変化にも
ある程度気づいていながら、それまでの思い込みで
本質的な部分に気づけない、目をそらしてしまうという鈍さ。
まあ結局鈍いことに変わりはないんですけどね。
このゲームは大人がみんなかっこいいですね。
両親といいじいちゃんといい、しめるところできちっとしめてくれます。
それと全キャラクターとも相手に何かあると分かっていながら
それに突っ込まないでフォローするという絶妙のやさしさですよね。
積極的に聞き出そうとするのではなく、逆にその話を避けようとするのでもなく
「話したくなったら話せばいい。それを受け止める準備はできている。
だけど話したくないなら話さなくていいよ」
というような絶妙なバランスです。
これは非常に難しいと思います。
以下個別ルートの感想。
<共通ルート>
御波が倒れ、罰ゲームのお姫様抱っこをする場面感動しました。
昴は自分に何ができるかちゃんと考えてその上で行動する。
そして相手も、昴が何を考えてるのか考えてそれに見合った反応を返す。
お互いがお互いのことを考えている
結果として昴の周りの暖かい雰囲気が生まれるのですね。
特別な変化を望まない人々の、平和が日常が描かれているだけに
ニュースを知った後の日々の異常さがより印象付けられます。
そして大震災を経験したからでしょうか、発表後の小さな日常など
少しのことでも涙があふれてしまいました。
<夕陽ルート>
昴がいれば大丈夫。昴がいれば怖くない。という夕陽の妄信は
非常に不安定ですよね。昴がいれば問題ないけどいないと
途端にすべてを失ってしまう。これが後々問題になるんですけどね。
お互いに何でも言い合える2人の関係はうらやましいものですね。
お互いのことが分かっているから冗談も言い合える。
まさに以心伝心でしょうか。
ただより高いものはない。健速さんの言葉遣いはすばらしいですね。
夕陽が昴に運び続ける料理を「世界一の高級料理」と表現できる
その感性がすばらしすぎて涙が出ます。
そして昴の行動を喜んで受け止められる両親。
昴は本当にいい人に囲まれています。
このような環境で育ったからこそみんなが安心して頼れる昴に
育ったのかななんて思いました。
昴の行動を見ると相手のためももちろんありますが自分勝手な面もありますね。
シェルター行きが決まったから夕陽を遠ざけた→夕陽が辛そうだったから
辞めた→今度は夕陽に避けられてイライラ
他のルートでは簡単に導けた結論でも夕陽相手だと
朝陽ルート同様考え方が偏ってしまいますね。
夕陽を大切に思うからこそ夕陽にばかり目がいってしまい
自分のことを顧みれなくなっています。
昴は朝陽のために夕陽を守ろうとしましたが
そのうち人に頼られることで自分を維持するようになったから
夕陽に自分が必要なくなってしまうことで
それまでの自分を保てなくなってしまったのでしょうね。
「あなたを殺させないで」というセリフはとても印象深いです。
結局じいちゃんの助けを借りて本当の気持ちに気づき仲直り
というわけですがここがこの作品を好きな所以。
昴は基本的にできるやつですがそれでもできないこともある。
そのときは周りの仲間や大人たちが助けてくれる。
だからこんなに暖かい作品になれたのでしょう。
しかし、いくらヒロインと幸せになれても最後に待つのが死であるということを考えると
涙なしではいられませんね。
<朝陽ルート>
朝陽は今までがんばってきたからこそ、自分の支えとなる昴を
得た途端にそれにすがってしまうのでしょうか。
やっぱり一番身近にいる夕陽と陽さんには分かるもんなんですね。
竜と海、ひかりと陽の話を聞くとちょっと切ないですよね。
陽さんの「2人をもらってくれ」って言いたくなる気持ちも分かります。
そして危惧していたことが起こってしまう。
夕陽のことが気がかりでも「昴」と「先生」の役割は
果たさなきゃならないですか・・・。
どちらも周りのことばかり考えてしまう性分でつらいですね。
ただそれが「そうならざるを得なかった」ならともかく
「自分から自然とそうなった」のなら話は別ですけどね。
朝陽の独白には胸に来るものがあります。
誰も望まない結果になってしまったけれど
もう自分は引き返すことはできない。
それくらい弱くなってしまった。
やはり依存してしまうのは良くないですね。
朝陽も夕陽も。そして昴もかな?
朝陽が2人をかばう場面。
ようやく苦しみから解放されましたね。
ここら辺から最後まで感動しっぱなしでした。
花を植えることも音楽を始めることも無駄じゃない。
これはすべての人に当てはまりますね。
人間は誰しも死に向かっているわけですから
突き詰めればすべてのことに意味はなくなってしまうのですよね。
でもそれをやることそのものに意味がある。
これはノーマルルートにつながる考えですね。
「2人をもらってくれ」その本当の意味が最後に分かりました。
昴が思っているようにカタチには意味がないんですね。
ただ2人を大切にしてほしいという願いだったのでしょう。
そして3人で手を取り合って歩いていける。
それこそひかりと陽が望んだ結末ですね。
<青葉ルート>
このルートでは昴の鈍さが顕著に現れてますが、
10年来の友人である青葉の印象を変えるのは容易ではなかったのでしょう。
それゆえ何かが違うと思ってもそれから目をそらしてしまう。
昴が対等な存在としての親友を求めていたゆえに
青葉が強くあろうとしたことも知らずに。
そして今までと違う青葉を「らしくない」と思う。
その青葉「らしさ」は昴自身が作り出した、昴の中での「らしさ」であり、
本当の意味での「青葉らしさ」とは違うことに気づかないまま。
青葉の行動は変わっても昴を好きだからという本質に基づいている
という点では昔からずっと変わってないんですね。
星が落ちてくるから変わった青葉と、すべてを捨てるために変わった昴。
BGMと相まって2人のすれ違いには虚無感が感じられますね。
昴がちゃんと気づいてからは男らしかったけど、
それまでのことがなかったかのように「青葉に会いに来た」なんていうのは
ちょっと無責任かと思いました。10年も自分を偽ってきた青葉への謝罪くらい
あってもいいんじゃないかななんて思います。それが形式的なものだったとしても。
まあ2人の間にはそんなものは必要ないんだと思いますけどね。
当事者としてではなくあくまで見ている側からの意見です。
青葉と付き合うようになって日常が戻ってきたときは
感慨深いものがありますね。
暗い日々があったからこそ何気ない日常に戻ったときその大切さが分かります。
っていうか青葉が可愛すぎてやばいです。
しがらみから開放されて本当の自分を出せるようになった青葉は
本当に魅力的だと思いました。
<御波ルート>
もともと身体が弱くそれゆえこの騒動でも落ち着いていられた彼女。
「普通」の価値が上がった昴たちと下がった御波。
昴も言っているようにニュース後の御波は
元気さが目立ちますね。
全員の寿命が3ヶ月になったからこそ普通たりえたんでしょう。
「周りの人を助けるためにどんな犠牲も払ってしまう。
それに周りの人はどれだけ心配するか。」
御波が言った言葉はまさにそのとおりですね。
行き過ぎた自己犠牲は救われた人にも
負担を与えることになるのですから。
「普通」になり幸せを手に入れることによって自分の大切なものを
失うことの恐怖にはじめて気づく。
ただ幸福な点は失う前にそれに気付けたことでしょうか。
人は大切なものを失ってからその本当の価値に気づくものですから。
そして大切なものの価値は自分の思っている以上に高いものです。
昴はあっさりとシェルター行きを止めようと決意しましたね。
夕陽ルートでは昴が本当の意味でこの結論に到達できたのは
最後のころじいちゃんに助けてもらってなのにね。
人間(精神的な意味で)一人でも生きることはできるけど
人間らしく生きることは難しいですよね。
その意味で昴は最期まで人間らしく生き、
人間らしく死ぬことを選んだのですね。
「大切なものはすべて胸の中にある」
この言葉がすべてを物語っています。
思いがあればいつだって幸せになれるのです。
キリストが死の間際に楽園にいると言ったように。
最後の御波と昴が語り合うシーンはとてもいい表現ばかりでしたね。
「平等に手に入らない星」と「ひとつだけ手に入った星」
「昴とその周りの星たち」への願い。
それはつまり昴という恋人だけでなくかけがえのない友人も手にいれ
自分には無縁だと思っていた「普通の」幸せをつかめた証拠でしょう。
<ノーマル→アフタールート>
4人が夕陽を背景に海にいるCGはきれいですね。
植田さんの絵は透明感があって非常に好きです。
そして青葉ルートではあれほど弱かった彼女が
このルートでは昴に頼らなくても笑って生きていけると言う。
別のルートで朝陽が言っていた台詞とかぶるところはありますが
ああ、青葉がこういう風に思えるようになったんだなと涙があふれました。
以前も書きましたが昴を守ろうとする4人そして大人たちを見て
昴の世界は暖かいんだなと思い知ります。
素敵な仲間や素敵な大人に囲まれみんなに頼られる存在に成長した
昴は本当に恵まれた存在です。
主人公が死ぬハッピーエンドは極めてまれなのではないでしょうか。
というか死んでもハッピーエンドっていったほうが正しいかな。
昴たちはきっと最期まで笑っていたんだろうな。
あの島出の最期は世界で一番幸せだったのではないでしょうか。
それはシェルター行きを選んだ場合以上に。