共通ルートが面白すぎる。個別ルートでの失速が非常に惜しいが、それでも十分お釣りがくる。
共通ルートが本当に良い。
表面的なコミカルな掛け合いの面白さをベースにしつつも、随所で複雑な人間関係を匂わせて先が気になりまくる。
巧みな情景描写に裏打ちされた雰囲気づくり、地の文で細やかに綴られる主人公の心理描写は圧巻の一言。
コメディ的な鋭いワードセンスと詩的で情緒的なワードセンス、双方が互いを引き立たせ合う絶妙なバランスが保たれている。
そうして導き出される選択の時──選択肢が、非常に心をえぐられる。
選択肢はこうでなくちゃね。個別ルート決定のためだけのメタ的な選択肢ではなく、シナリオの展開に関わる選択肢。そうこれこれ、これが見たかったんだよ。
あとは、シナリオにR18要素の必然性があったのが本当に良かった。エロでしか描けない繊細な心情の機微がここにあったよ。
と、良い面ばかり触れてきたので、ここからは悪い点も。
個別ルートは、ぶっちゃけあまり面白みがない。
個別ルートでは、共通ルートで深く踏み込んだことがまるで無かったように、無味乾燥な恋愛模様に終始している。一部ヒロインの一部シーンに例外はあるが、総合的に見た際には、そう評せざるを得ない。
共通ルートと個別ルートの間での、作風や雰囲気のアンバランスさは、一つ評価を落とすポイントになりうる。
俺は共通ルートみたいな個別ルートが見たかったんだよ。
もう一つは、描写の不足。
プレイヤーの想像に任せる、と言うと聞こえは良いが、贔屓目に見ても心理描写などに不足があったと認めざるを得ない。
とはいえ、作品全体のテンポを損なわない範囲で、想像の余地を残すような最低限の描写はあったため、大きく評価を落とす要因にはなりえないと感じた。
まとめ
作品全体の評価を平均値や中央値で推し量るならば、確かにこの作品は佳作・凡作どまりかもしれない。しかし、最も心がかき乱されたタイミング──最頻値的に、いわゆる最大瞬間風速としてこの作品を評価するならば、間違いなく傑作でした。異論は認めるない。