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samusonさんのAsterの長文感想

ユーザー
samuson
ゲーム
Aster
ブランド
RusK
得点
89
参照数
625

一言コメント

2007年11月の隠れた良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想




2007年11月と言えば、「キラ☆キラ」「世界でいちばんNG(だめ)な恋」「そして明日の世界より――」などの期待作が発売され、期待作の影に埋もれてしまったものの、それらと比べても「シナリオ」だけなら負けず劣らずだったのが、この「Aster」でした。
しかしなぜシナリオだけの評価なのかと言うと、誤字脱字があまりに多すぎる。重要なシーンなどでやられると結構萎えます。修正パッチを使ってもかなりの量の誤字脱字が残るので、この点がかなりマイナスとなってしまいました。


話の内容は、この作品の主人公である榊宏とヒロインの沙耶が付き合い始めたところから物語は動き出します。幸せいっぱいだった二人を襲った突然の悲劇。現実に生きていても起きうる「交通事故」をキーワードに「もし、自分の親しい人間が事故に巻き込まれたら?」を描いた話で「被害者の恋人・家族」「加害者の家族」「被害者と一緒に居て怪我をしてしまった女の子」「事故の原因となってしまった人物」の狂ってしまった日常をテーマに描かれた4つの物語です。







個別感想(超絶ネタバレあり)



小田巻 雛

交通事故に巻き込まれ怪我をしてしまった少女の話で、実はこの雛には最初から柳京次という恋人がいます。
そのため恋人になるまでのエピソードもあるにはありますがそこまで深くは語られません。しかし恋人であるということで、他の出会うところから始まるヒロイン達と比べると一歩先に進んだ関係であるので、事故に巻き込まれ怪我をしてしまったことで狂ってしまった日常で育んでいく二人の「絆」の深さについて語られているシナリオとなっています。

このシナリオについてですが、個人的には一番楽しめ、一番泣きました。
最初の幸せ展開からは考えられないくらいの鬱展開が待っていますが、二人の過去話を絡ませながら悲劇を乗り越えていく姿に終盤泣きっぱなしになりました。最後も事故の"傷跡"は残しているもののハッピーエンドとなっていますので、すっきりしたお話構成になっている思います。



姫萩 はるな

事故の加害者側の話です。このはるな編の主人公である萩原睦月の母が事故を起こしてしまい、それが原因で変わってしまう日常が描かれています。この事故で睦月も母を亡くしています。そのため自分も悲しみに暮れたいはずなのに、加害者側ということで非常に微妙な立場に立たされています。特に学校での立場は見ていてつらくなってきます。そんな睦月の前に現れたはるなは、母性本能の塊のような女性(いろんな意味でw)で、ほんわかした性格も相まって、かなり暗い展開の続くこの物語の中で、一種の清涼剤のような存在となっています。



山吹 美幸

事故の原因となってしまった少女の話です。この物語のヒロイン、御幸は正直言うと自分はあまり好きなタイプでありません。事故の原因となってしまい、そのことについて心を痛めているのですが、そのことに関しては仕方がありません。しかし罪の意識から死のうと考えることに問題があると思います。
確かに自分が原因で事故を起こしてしまえば誰でも罪の意識に苛まれると思います。ですが、なんの贖罪もせずに逃げるように自殺を図ったことは自分には無責任に感じました。

自分が楽になりたいから死ぬ。それでは自分を助けるために死んでしまった睦月の母も、それに巻き込まれた雛も沙耶も報われません。最終的には贖罪の道を探していくことを主人公に諭され選ぶのですが、死ぬことを選ぶ前にその道を選んでほしかった。そのため個人的にはこの作品で唯一、楽しめなかったシナリオとなってしまったことが残念です。





柚月 沙希

事故の被害者側の家族の話です。最初に書いておきます。この沙希の役を演じている青山ゆかりさんが、物凄い熱演をされています。どちらかと言うと元気系のキャラやツンデレキャラを演じていることが多いと感じていただけに、少し影を感じさせる役を物凄く上手に演じていたことにかなり驚かされました。

さてこの沙希編なのですが最初、恋人を失った悲しみから主人公である榊宏がへタレています。
恋人の死を認められず、時間が止まってしまったかのように惰性で生きる宏。
そんな彼をその恋人だった沙耶の妹である沙希は宏を必死に立ち直らせようとします。
しかし宏は恋人の面影を持つ双子の姉妹ということからかなり辛くあたるようになり、
ついには宏は言ってはいけない事を沙希に言ってしまい、その言葉を聞いた沙希の思いが爆発します。
結果として、思いをぶつけ合ったことで沙希の思いを知り、ようやく宏は沙耶の死を認めることができるのですが、このシーンがとても印象深かったです。「あぁ、本当に沙耶のことを愛していたのだな・・・」と、かなり感動してしまいました。
そしてアフター編なのですが、立ち直った宏が沙希と付き合うのでこれが認められるかどうかで評価が割れるかもしれない。
自分は宏の選択には肯定的です。苦しいときにずっと支えてくれた沙希に徐々に惹かれていった宏の気持ちは分かりますし、沙希の姉への葛藤から苦悩する姿もありましたし、それもありなんじゃないかと思います。



そして、全アフター攻略後に開放されるAster編。
これについては多くは語りません。是非プレイして自分で読んでほしい。
この作品には奇跡は起きない。だけど悲劇を乗り越えていく人間の姿は美しいと思った。
雛と京次の絆も、最後には贖罪の道を見つけ前を向いた美幸も、新たな希望を見つけ大切な人の死を乗り越えていった睦月、沙希、宏の姿には人間の"強さ"を見せてもらった気がした。