ErogameScape -エロゲー批評空間-

samusonさんのFate/stay nightの長文感想

ユーザー
samuson
ゲーム
Fate/stay night
ブランド
TYPE-MOON
得点
100
参照数
1122

一言コメント

最高

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初めてのエロゲ。
多分これに出会わなければ、これほどまでにこの世界にはまることはなかったと思う。
そしてある意味、人生が狂い始めた原因w

これをプレイしたのは大学1年の夏。友人に勧められて借りた月姫が面白かったから。
なによりも設定に惹かれた。英雄を召喚して、英霊と共に聖杯戦争を戦う・・・
剣とか魔法とかが好きで、エロゲをプレイするまではRPGが一番好きなジャンルだった自分にとっては、これほど惹かれる設定はなかった。
まぁ、と言いながらもプレイするまでは暇つぶしになればというくらいの軽い気持ちだった。そして今振り返ると笑えるのが買いに行ったときのことだ。初めてAVを買いに行ったときのように恥ずかしさでよく職質されなかったと思えるくらい挙動不審になっていた。
で、家に帰って早速プレイしたのだが夕方から始めて、気付いたら朝になっていたw
物語の序盤、セイバーが出てくるまでは時間を気にしながらプレイしていたのだがセイバーが出てくる頃には、時間なんて忘れていた。エロゲをプレイするまではノベルゲームなんてやったことなかったけど、本を読むのは割と好きだったので、本の「面白さ」はある程度知ってるつもりだった。
でもこの作品は次元が違った。月姫も面白かったけど、fateはすべての面で自分好みだった。
サーヴァント達の正体は?セイバーの正体・宝具は?そもそも聖杯戦争ってなんで起きたんだ?とか考え出したら読むのが止まらなくなった。




セイバー√
最初はセイバーの正体はジャンヌ・ダルクだと思っていた。女の英雄でパッと思いつくなんて普通そんなもんじゃないかと思う。
でも、セイバーの正体なんて途中からどうでもよくなった。聖杯戦争を通じて徐々に絆を深めていく士朗とセイバー。最初はあくまでマスターとサーヴァントの関係だったけど、セイバーの正体を知って、その過去を見てその生き方を知って、セイバーが願う聖杯への願いは間違っていると思うようになっていく。そしてその願いを変えて欲しいと思うようになった士郎はセイバーを説得しようとする。でもセイバーは意思を変えない。そして士郎は一計を案ずる。それは士朗とのデート。一日連れまわしてうんと楽しませて、こういう日常もあるんだとセイバーを諭す。
そして聖杯への願いは王として、国のために使うのではなく、セイバー個人のために使えと、そう提案する。
でも答えはNo。王として生きてきたセイバーにそれは出来ないと断られる。
二人が初めて本心をぶつけたこの橋でのシーン。
これがあったからセイバー√の最後は美しいのだと感じることが出来たのだと思う。
最後の決戦。柳洞寺に向かう2人。この戦いが終わればセイバーは消え、もう2度と会えない。
それでも二人は戦うことを選んだ。自分達のアイデンティティを守るために、お互いの思いを踏みにじらないために・・・
最初は少年ジャンプのバトル物を想像していた自分としては、こんなに深い話になるとは予想していなかったけどこれはこれでアリだと思った。話の終盤、なんとなくこの結末は想像していた。
なんだかんだ言って士朗はこういう選択を選ぶのではないかなと・・・
でも最初、自分は聖杯を破壊して別れるシーンは微妙だと思っていた。
どこかの選択肢でセイバーと共に暮らしていく選択肢があったのではないかと。
しかし最後の穏やかなセイバーの顔を見て気持ちが変わった。
二人の選択は間違ってなどいなかったのだと・・・



凛√
当時、まだまだエロゲというモノが良くわかっていなかった自分はこの√に入るのに2日ほどかかった。
セイバー√が目茶目茶ボリュームあったし、あれだけの最後を見せられたこともあって話が完結したものだと思っていた。その後開始画面に戻るとなんか増えてる。そしてEXTRAってなんだろ?といじっていると、EDリストというものがあった。そこを調べてみると、何枚かカードが裏返っていた。ここでようやく鈍い自分も気付いた。まだ話は終わってないということに・・・
で、ようやく気付いて√に入ったのだが、多分この√がなければ100点は付けていなかった。
凛√とは書いたものの、実際はアーチャーと士朗とのエピソードがほとんど。凛との恋愛はおまけ程度だったと思う。
この√のテーマは"理想"だろう。士朗の夢と、その夢を叶えた先に絶望を見た者の話。
士朗の夢は"正義の味方"になること。10年前の"災害"で生を諦めかけたときに自分を助けてくれた人のようになりたい。その人の持っていた願いが綺麗だったから憧れ、その夢を目指した。そして巻き込まれた聖杯戦争にて、自分の"理想の成れの果て"と出会うことになる。
彼は言った。その夢は借り物だと。その思いは自身の内から出たものではないと。そしてそれは自分を不幸にして最後は無残な死に方をするのだと。
二人は対峙する。
自分の人生に絶望し無意味だったという者と、自分の夢の先に絶望があるのだとしてもそれでも進むという者と。
この二人の思いのぶつけ合いは何年経っても鮮明に覚えている。
サーヴァントと人間。いくらそれまでの戦いで消耗したとはいえサーヴァントであるアーチャーと、投影魔術というものが使えてもあくまで人間の士朗では元々戦いにすらならないはずだった。
「借り物の理想ではなにも救えない」と、お前の人生の先には後悔しかないと、今までの自分の後悔と言葉を乗せた一撃で士朗に攻撃する。
しかし士朗は決して倒れない。
自分の想いは借り物なのかもしれない。それでもあの時に綺麗だと思った想いは決して間違いなんかじゃないからと。
自分はこの台詞を聞いたその瞬間、涙が出ました。
どれだけ自分の生き方を否定されても、それでもその道を進む。
きっとその道は茨の道で終わりなんかない。それでもお前のように後悔なんかしないと。
だからお前はここで倒すと。
この、どこまでいっても変わらない士郎の信念の強さに心を打たれた。
この時まで自分は泣くことなんてほとんどなかった。どんなに悲しくても、どんなに物語に感動しても、悔しいという感情以外では泣いたことなんて一度もなかった。
だから最初は、涙がこぼれる理由が分からなかった。
どうしてこんなにも心を打たれたのかが・・・
そして気付いた。それは自分の人生を振り返ってしまったからだと。
・・・自分は後悔の多い人生をそれまで送ってきた。中学まではあるスポーツでそこそこ名を知られ、学校で一番足が速く、体育祭ではいつでもクラス代表。所属する部活では全国3位になって、それこそ自分の人生に不満などなかった。高校も県内屈指のスポーツ高に進学し、俺ならやれると過剰なくらい自信を持っていた。
・・・でもそこでピノキオのように伸びた鼻を徹底的に折られた。上には上がいるのだと初めて思わされた。
そしてその後、それまで挫折という挫折を知らなかった自分は、そのまま這い上がることもできずに、残りの高校生活を過ごしました。
その後も大学に進学したものの、ずっと好きだったスポーツを辞め、それまでの人生の指針をなくし、これをプレイするまではこれではダメだと思いながらも惰性で過ごしていました。
そしてその頃いつも思っていたのが「どうしてこうなった・・・」「あの時どうして」という自分に対しての不満と、後悔の念でした。
・・・だから士郎が何度心を折られようと、決して信念は曲げない姿を見せられて、涙が零れてたのだと思います。
あまりのカッコよさと、その想いの強さに。

そしてその時思った。自分も頑張ればまだやり直せるのではないのかと・・・
それは思い違いだったかもしれない。でもあの時、確実に後ろ向きだった自分を前を向かせてくれた瞬間だったと思います。

・・・まぁ、かなり横道に逸れましたが、要はこの場面でかなり感情移入して泣いてしまったということが言いたかっただけですw


そして最後のアーチャーと凛との別れのシーン。
ここでもまた泣かされました。アーチャーのあの笑顔は反則だと思うんだ・・・
「答えは得た、大丈夫だよ遠坂。俺はこれから頑張っていけるから」という台詞は、
感情移入しまくっていた自分にとって、最高の台詞でした。
だってあれだけ自分の人生に後悔していたアーチャーが最高の笑顔で、あの台詞を呟いたら、自分でなくても感動するでしょう?

そして最初に辿り着いたノーマルエンド。
最後に示されるAnser
士郎は目指すべき人生の指針を手に入れ、アーチャーは自分の人生は間違っていなかったという確信を手に入れた。そしてこれでアーチャーは本当の意味で救われたのだとその時思えた。この答えを手に入れたからあの笑顔に繋がったのだと・・・




・・・それとPSPのEXTRAでアーチャーの「自分の人生に悔いはなかった」という台詞を聞いて
ウルッときたのは内緒だぜw



桜√
正直言いますと、アーチャー√で燃え尽きた自分はこの√の印象は薄いです。
やたらと暗く、戦いも今まで感じではなく、そして士朗が桜の味方になると聞いた瞬間は、「はぁ?」となったものです。「え、お前の夢諦めるの?」と思ってしまいPC版をプレイした直後はこの√は嫌いでした。
イマイチ納得がいかないって感じで・・・
そのため今から書くのはPS2版の話となります。
この√はそれまでのfateの話と比べると、バトル重視の熱い展開より、恋愛に比重が大きくなっている√です。
そしてヒロインは桜だけではなく、イリヤも含めるべきでしょう。
この√、1週目はそれほど好きではなかったのですが、2週目、PS2版をプレイしたら印象が変わりました。
PS2版ではこの√は大きく印象が変わる。CGが増えたこともあって、伝えたいことが良く伝わってきた。
この√では士郎は正義の味方への道を選ばない。桜の味方となると言って、自分の夢を捨てるルートでもある。PC版をやったときは「え、そんなにあっさり捨ててしまうの?」と思い、いまいち感情移入できなかったのですが、PS2版で、雨の中で抱き合うところのCGを、声ありで聞くとものすごく感情移入していきました。1週していたこともあって、桜がどのような目に遭っていたかも知っていたこともあって、桜の味方になると言った士郎の気持ちが理解できたような気がします。それでも士郎の本質は変わりません。誰かのためなら自分の体がどうなっても構わないというところは変わりません。例えば、アーチャーの腕を移植して、一度でも使用したのならその瞬間に自分の体が破滅に向かっていくと分かっても、イリヤをバーサーカーから守るために使用したりするところは変わってませんでした。しかしクライマックスでのセイバーにトドメを刺すところでは、きっと正義の味方であった士郎ならばトドメをさせなかったと思います。桜の味方になると決めたからこそ、その決断ができたのだと思います。
そしてこの√の一番の感動場面はイリヤが消えていくところで、投影の使いすぎで、名前を忘れているのに、最後に名前を思い出す瞬間でした。
そしてEDは2種類あるのだけど、自分としては個人的にはノーマルエンドも結構好きで帰ってこない士郎を、平和で穏やかな笑顔で待ち続ける桜のエンドも意外に良かったと思います。


最後に。
この作品は自分にとってかなり思い出深い作品です。というかこれを超える作品にはもう出会うことはないでしょう。UBW√をプレイ出来たことは本当に幸運だった。
あの時の自分は他人から見たら大したことで落ち込んでんじゃねぇ、となるかもしれないけど自分にとっては本当にどん底で、あのまま行っていたら転落人生まっしぐらだったと思う。だからあの時の士朗の言葉は自分にとってもある意味救いの言葉となりました。そして俺をこんなにエロゲオタにしてくれたことを感謝ww
・・・最初は片足突っ込んだ程度だと思っていたのに、いつのまにか全身ドップリはまりこんだみたいだ。


  





















───去来したものは遠い思い出。
   彼が忘れ去り、切り捨てた筈の、戻りえない兆しだった。
   打ち合わせた剣の火花。 
   圧し合う裂帛の気合。
   剣舞と呼べぶくもない、拙い、否定しあうだけの命のやりとり。

   そんなものが何故、磨耗しきった誓いを蘇らせたのか。


   正義の味方などいない。
   お前の理想は偽りだと、誰よりも思い知った心で、その心を叩き伏せた。
   歪だった心は耐え切れず崩壊する。
   少年が、己が矛盾に食い殺されるのは明白だった。
   だが、屈する気配など何処にあるのか。
   綻びた肉体、解けようとする精神を押さえつけて剣を握る姿に、
   一片の偽りもない。



   ふと、幻をみた。
   無駄と知りながらも剣を振るう姿に飽きたからだろう。
   苛立ちが、最も忌むべき衝動を湧き上がらせた。
   ・・・何を美しいと感じ、何を、尊いと信じたか。

   胸に去来するのはその一言。
   彼が信じるもの。
   彼が信じたもの。
   かつて何者にも譲らぬと誓った理想
  
   いまも何者にも譲らぬと誓った、その───


  

   語るべきことなどない。
   少年は残り、彼は去る。
   記憶に留まる物は、交わされた剣戟だけ
  

   道は遥かに。
   遠い残響を頼りに、少年は荒野を目指す