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saint19さんのこの恋、青春により。の長文感想

ユーザー
saint19
ゲーム
この恋、青春により。
ブランド
MORE
得点
95
参照数
1958

一言コメント

勝也と京子の物語だが、別の視点も含んだ良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオに特化して感想を述べる。
特に小西氏が担当した京子と凛は質が高い。サブの日下部氏はそれより一枚落ちるが、習作であろうことを思えばそこまで目くじらを立てるほどではない。ただ、京子と対になっている千春を日下部氏に担当させたことで京子のシナリオまで窮屈になっている感が否めない(例えば、挿入歌のあのシーンは千春ルート限定でも良かったのではないか。京子ルートに含めたことで京子ルート側の演出効果が薄れている。歌詞の内容もそうだが、あれは完全に失恋して過去にさせてこその演出といったこと等)のが残念か。これは制作の構造上の問題なので仕方ないのだろうが…。

全体的に勝也と京子の物語で、ヒロイン一人制でも良かったのではないかと思えるほど(その場合、千春は必ず振られる役回り)この二人の関係が非常に濃いのが特徴。ゲームシステム上描写がどうしてもぶつ切りかつ薄くなってしまっているのが問題ではあるが、そこにさえ目をつぶれば二人及び彼らを取り巻く環境はかなり丁寧に書き込まれており、故に十分想像出来るので致命的なものではない。また、この京子ルートでは香織が勝也らの中途半端な行動に怒りを露わにするのだが、彼女はとりあえず和解した後も勝也や京子とは距離を取っている。彼女のモノローグがなされていないので分かりにくいが、それだけにかえって彼女の心理を浮き彫りにしているのが良い。他には、京子ルートでは最後の最後まで「全国大会」に拘った描写がなされているのも面白く、全ての一途な登場人物達の「悔いのない選択」の象徴となっているのが興味深い。

女性キャラだけではなく、男性キャラも短いながらもよく描かれている。慎太郎の頼れるキャプテンで仲間想いの爽やかな好青年でありながらも滑稽で周囲にまで痛々しさを強要する一途さ、拓海のお調子者ながらも挫折にも負けることのない強さ、斗真の不器用なまでのひたむきさ、プロ野球選手よりも教職を選び楽しそうに日々を過ごしている永吉、そして最終的にヒーローの座を勝ち取れた信夫と彼に敗れたことで野球にすら向き合えなくなった滝沢の心の内…。どれ一つとっても彼らの物語をもっと見てみたいと思わされるものだ。

個人的に注目したいのは凛と静香。
繰り返しになるが、本作は全体的な雰囲気として勝也と京子のために描かれたもので、彼らの視点からすれば他のヒロインは蛇足と言っても過言ではないが、彼女を主人公として捉えた場合は話が全く異なってくるのだ。高校デビューを果たした女の子が憧れの男の子と結ばれ、学生時代での妊娠及び将来の夢と正面から向き合う姿等は女性向け作品で描かれてもおかしくない題材で、(メディア媒体とテーマの関係上)その序章部分しか収録されていないとはいえ、本来他者が入り込む余地のない物語をここまで別物に料理出来るものかと感嘆すると共に、男性向け18禁ゲームの可能性を広げるものとして積極的に評価したい。
静香は勝也の親友である慎太郎が想いを寄せている女性であり、追加された彼女のルートでは慎太郎があっさりと身を引くが、ここは本格的に書き込んで彼らのどうしようもない葛藤やすれ違いをもっと楽しみたかったと感じる。ただ、それは男性向け18禁ゲームにとって著しく不向きな題材であり、そこまで深入りできなかったと言った方が正解かも知れない。実に惜しいものである。


シナリオのひたむきさに華を添えているのがキャラクターを始めとしたグラフィックで、特に京子、凛と男性陣を描いた南浜氏は素晴らしいの一言。
公式HPのキャラクター紹介ページでの名前は彼らの自筆という設定になっているであろう演出がまたにくい。

オススメ攻略順は
凛→奈央(南・静香)→千春→京子