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saberaltoriaさんのお嬢様はご機嫌ナナメの長文感想

ユーザー
saberaltoria
ゲーム
お嬢様はご機嫌ナナメ
ブランド
ensemble
得点
85
参照数
1636

一言コメント

攻略順序は  (透夏or音羽)→七海→花→詩綾を推奨

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

タイトルの通りヒロインはお嬢様な作品。舞台は所謂上流階級のものなのだが・・・。実際の上流階級っていうのがどんなものなのか知らないから作中の描写が則したものなのかどうかは分からない。もしかしたら、よく分かってる人が読めば妥当な描写だと思える良い内容なのかもしれない。だけどプレイヤーの大半はそういう世界とは馴染みの無い人間だろう。馴染みの無い横文字や英語、茶器等の高級調度品・・・そんなよく分からないものでは、取っ付き難さは感じさせても上流階級だって事は中々伝わらないんじゃないだろうか。
以下、ちょっと内容とは逸れた事を。
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プレイヤーに馴染みの無い舞台や設定を用いる場合、話の展開以前にまずプレイヤーにそれらを馴染ませる必要がある。馴染まないまま話を展開されても、イマイチ感情移入も出来ずキャラの言動や展開にも疑問を感じて十分に楽しめないだろう。ただ、馴染ませるにあたってただ安直にそのものを描写すればいいという訳でも無いと思う。馴染みの無い物への説明として、馴染みの無い物をそのまま描写されてもよく分からない。馴染みの無い物を馴染みの無い言葉やイメージで説明されて、それをちゃんと理解するなんて不可能だ。だがら、実際とは異なっていたとしてもデフォルメ化された(=馴染みのあるものに変換された)イメージを使って説明される。
例えば、オタク趣味とは無縁の人に対してオタクのイメージを強く持たせたい場合、太った体型で頭にはバンダナ、背中にはポスターが刺さったリュックなんて書けば伝わりやすいだろう。まぁ、実際そんな格好してる人なんてそうそう居ないが、オタクのイメージを持たせるには効果的な表現だ。

遠回り過ぎたかな。相手に説明するのなら、相手の頭の中にある言葉やイメージでしなければならない。そうしなければ、ろくに説明も伝わらない。
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内容の感想に戻って。
絵以外殆ど前情報入れてなかったので、ぶっちゃけ内容薄いキャラゲーだと思ってた。が良い方向で期待を裏切ってくれた。後述するように多少変だと感じる点もあったが、描写も丁寧でよく練られたシナリオだったので、非常に楽しめた。登場人物が上流階級な作品自体は珍しくないが、ここまで資産運用家としての面を描いてる作品は珍しいと思う。
あと、√確定のタイミングがかなり遅い。というのも、中盤で七海・詩綾・花√と透夏・音羽√に分岐し、終盤で更にそれぞれの個別に√確定するため。最初の1キャラで見れば問題無いのだが、2キャラ目以降、終盤で分岐するだけのキャラを攻略する場合はややボリューム不足を感じた。まぁ、√確定後の展開はそれぞれ大きく差異があるため、似たり寄ったりで退屈という事は全く無いが。

武藤さんが原画だから買ったって位なので、絵は満足。ただ、絵自体の問題ではないが立ち絵の表示位置が変。離れてるキャラは小さく表示するといった表現が使われているが、それの表示位置が下過ぎる。足元まで見せようとしたら床にめり込むんじゃないかってくらい。と言うか、めり込む。或いは、手前のキャラは宙に浮いてるか。・・・と思ったら、鶴美の縮尺がおかしいだけ? 一応小柄だって設定はあるが、大して個人差の出ない頭のサイズを元に比べれば多少小柄程度だと思ってたけど、もしかして頭のサイズも小さいとか?
あと準レギュラーというか中畑静子が可愛かった。見た目かなりストライク。七海√のラストのデレとかね・・・ご馳走様でしたw

主人公はかなり良い。知識量も多くそれを上手に利用する知恵もある、身体能力が高くボディガードとしても優秀と非常にハイスペックな人物。しかしハイスペックではあるが完璧超人じゃない。人としての歪さも抱えててそれが上手く弱みとして描写されている。優秀な主人公が活躍する爽快感もあるし、それでいて主人公が成長していく要素も楽しめる。今までやってきた作品の中でも指折りで好印象な主人公。

①七海・√感想
キャラとしては面白いんだけど、非常にお嬢様らしくない。時々、お嬢様以前に女の子としてすらどうかと思うような台詞というか声出してるし。いやまぁ面白いんだからいいんだけどね、もっとやれw、

話も中々面白かった。ただ、万人受けするタイプの内容ではないかな。山場の経済戦争は経済学と呼べる程複雑なものではないが、その方向に関心の無かった人にとってはやや取っ付き難さを感じさせそうな内容なので、盛り上がり具合やどれだけ楽しめるかはプレイヤーによって大分差が出そうと感じた。まぁ、それでもルールの簡易化がなされ描写も丁寧なので、内容の割には非常に分かりやすいとは思う。

恋愛部分については、もう少し描写をしっかりして欲しかった。元々お互いを大切に想ってるってのはちゃんと描写されていた。それは良いのだけど、主人公→七海については恋愛感情を持つのはあり得ない・あってはならない事って認識だった。なのに、結果はあっさりそういう関係になってしまってる。もう少し葛藤とかあっても良かったんじゃないか。


②詩綾・√感想
何か秘密があるって事は共通部分でも仄めかされてたが、それでも普通にお嬢様かと思ってた。だけど、実際は作中一ぶっ飛んだキャラだった。しかも、本人の問題だけじゃなく周りのキャラまで汚染する。いや、外見は可愛いし、中身も本質的には凄く良い人なんだけどね・・・。

話については、シリアス要素は0ではないが詩音の成長物語か少々ってくらい。詩綾の奇行暴走が大半。非常にギャグ要素の強い内容だった。まぁ、楽しめたので良し。


③花・√感想
兄スキーな妹キャラ。共通部分でも一緒に寝ようとしたりお風呂入ろうとしたりとしていたのに、主人公は花に対して異性を殆ど意識してなかった。なのに、√確定直後のイベントで花に「好き」と言われただけで非常にうろたえる。むしろ前述のスキンシップの方が激しいと思うのだけど、この反応の差は何?

シナリオが濃いだけに、花√というより鶴美√みたいな感じだった。花も活躍はするが、鶴美の方がインパクトが強い。また、描きたい話は良かったのだが、主人公の心情描写が不足しているように感じた。


④透夏・√感想
こういう落ち着いた感じの有栖川さんの声も良いね。というか、こっちの方が好きかも。

透夏√と音羽√共通の感想になるが、他3人の√とは展開がカナリ異なる。それは構わないのだけど、他方では七海や花が第一で鶴美に対しても警戒しまくってるのに、こっちではあっさり透夏や音羽の世話焼きに回ってしまっている。一応その転機になるイベントはあるが、もう少し長めに尺取ってしっかり描写して欲しかった。
で。個別の感想はまぁ普通の恋愛物。先にやった√と比べるとどうにもインパクト不足。とは言え、悪くない仕上がりなので楽しめた。



⑤音羽・√感想
直情的と言うかアホの子と言うか、主人公とは真逆な性格のキャラ。傍若無人で暴走をする事も多く、それだけなら鬱陶しいだけのキャラだが、気持ち良さを感じさせる真っ直ぐな台詞もあったり、ここぞって言う時は主人公の足りない部分を補足する良い役回りをするので、キャラとしては好感が持てた。
あと、瑣末な事なので減点要素としは見ていないが、歌声がソプラノ歌手のものじゃない。友人にそっちの道の人がいるので何度か聞いた事があるが、恐らく発声方法から違う。まぁ、演技で完璧に真似出来るような部類のものじゃないので仕方無いっちゃ仕方無いが、せめて発声だけの部分くらいは発声方法を真似るかしても良かったんじゃないかな。

この√では透夏√と違ってすまいるコースについて触れられる事があるのだけど、七海・詩綾・花√で描写されるスマイルコースの雰囲気と全く異なる。向こうでは馬鹿だけどバイタリティには溢れているような描写だったのに、こちらではかなり無気力に描写されている。

付き合い始めるイベントは非常に唐突。多少好意持ち始めたかなって描写はあったが、告白はいきなり過ぎる。タイミングも微妙だし・・・せめてもうちょっと盛り上がった状態でやろうよ。
話のメインの部分もやや粗さを感じた。活動期間数週間であまりにも人気出過ぎてる。




キャラで順位をつければ、七海>詩綾>透夏>花>音羽。サブも含めれば静子上位だけどねw
シナリオで順位をつければ、七海>花>詩綾>透夏>音羽。やっぱり上位3人の√と比べると透夏と音羽の√はインパクトが弱いしボリュームも少ない為、比較すればこうなってしまう。まぁ、あくまで比べた場合の順位。どのルートもちゃんと楽しめた。
タイトルに書いた通り、透夏→音羽→七海→花→詩綾でプレイすればもっと楽しめたかな。透夏と音羽は先にやらないとどうしても見劣りしちゃうし、詩綾はカミングアウトが強烈過ぎるから、一番最後にしないと他√のシリアスな場面でも詩綾出たら笑ってしまいそうになるw 七海√で鶴美打ち負かして解決、花√で鶴美と和解して解決、詩綾√で笑って締めが丁度良いと思う。




<よく分からなかった事・不自然な事>
主人公が詩綾とくっ付いた場合は鶴美は手を引いちゃう理由がよく分からない。手を引かない場合は徐々に雪小路財閥を乗っ取り、将来的には主人公に譲るんだろう。鶴美自身がお金第一な考えで、大切な主人公の為に財閥(=お金)を継がせたい、そうすれば主人公も幸せだと考えてるだろうから、まぁ鶴美らしい行動だ。対して手を引いた場合も詩綾とくっ付いてるため雪小路財閥相続の候補には挙がるだろうが、確実に継げる訳じゃない。。そして、手を引いた時点で鶴美が雪小路財閥に対して強い影響力を持つ事は難しくなる(一度牙を剥いてきた鶴子に対して、これ以上財閥当主が手を緩めるとは考えられないし、最悪排斥されかねない)。主人公が自力で相続権を掴み取るかもしれないが、そんな不確定要素を残すのは徹底的に策を巡らせる鶴子らしくない。詩綾とくっ付いた時点で雪小路財閥の庇護下に入る為金銭的な不自由は無いかもしれないが、金の亡者な鶴美がそんなので妥協する筈無いし。また、時間が経てば経つ程財閥解体が進み雪小路財閥の資金が散ってしまうため、少しでも多く金が欲しい鶴子は一刻も早く雪小路財閥を掌握したい筈。

七枷財閥が粉飾決済してるって主人公が感付く流れも無理がある。
2%のデフレ進行下での総決算が前年度比+0.1%→実質的な成長率は2.1%っていうのは単純計算上は正しい。しかし、デフレはそんなに単純じゃない。確かにデフレによって物価価値が下がるが、全ての物価が等しく下がる訳じゃない。物によっては大きく値下がりするかもしれないが、値下がりし辛い物もある。値段が高かろうが買わざるをえない等の商品自体の性質による要因、デフレでも販売ターゲットが大して需要が下がらないと言った顧客層からくる要因、参入企業が極少数で競争原理が強く働かないため値下がりしにくいと言った市場的な要因も考えられる。単純に掛け算すれば出るようなものじゃない。
ただ、相当大規模な財閥なのでデフレの影響を少なからず受けるだろう。これも、前年度より仕事がよく取れた・よく売れたといった事で説明が付く。作中で、3000億のプラス成長に対して1万円の商品を3000万個販売した時の粗利という例を挙げていたが、確かに、この例を見れば異常なプラス数値に見える。だが、会社は消費者とだけ取引している訳じゃない。会社同士でも取引するし、国等の公的な団体とも取引するし、億単位の契約もざらにある。また、七枷財閥は毎年8000億もの金額を国債の利子として受け取っている。それを財閥系列の会社で例年より多く消費すれば、それだけで財閥としての収益は増加する。1/8増やすだけで粗利1000億増だ。確かに粉飾決算を疑う余地はあるが、主人公の反応の様に確信するに至るまでの根拠としては弱い。

鶴美によるスノーロード銀行の買収だが、これもちょいと強引過ぎる気がする。スノーロード銀行が絶対王政の要である事、10%以上の株式を保有すれば役員の解散権が得られる仕組みである事を考えれば、当然外部に奪われないよう守りを固めるだろう。株式も10%以上保有されないように手を打つだろう。その通り、雪小路財閥当主も対応をした(それも結構的確だったらしい)。にも拘らず鶴美の裏金を使った資金力で力押しして押し切ったと・・・無理だろ。雪小路財閥は七枷財閥に比肩するような大規模財閥。対して鶴美はその七枷の一部分だったに過ぎない。資金力で押し切るなんて出来るとは思えないし、出来たとすれば裏金ですなんて説明だけじゃ済まない額だ。
1兆円つぎ込めば10%を超えるという説明がされるか、つまり1兆以上資本を持っている人に常に脅威にされされてる事になる。専門じゃないので妥当なのかよく分からないが、例えば財閥内で90.1%株式を保有し、外部から買い集めても10%に届かないようにするとか、そういう手もあるんじゃないか。
そもそも、10%保有=鶴美を頭取にっていうのも変だ。少なく見積もっても雪小路財閥当主が保有率10%以下って事は無いだろう。当主の意向で動かせる株は50%を超えるはず(そうでないと、万が一その他の株主が結託した場合にひっくり返される)。10%持ってるだけで解散権の乱発等好き勝手されたくなければ自分を頭取にしろと強気に要求出来て、それ以上の株式を保有する側は要求を呑まざるを得ない・・・株式会社ってそんなものなの?

外資の動きも変だ。スノーロード銀行を乗っ取るメリットがはっきり提示されないのが一番の理由。いくら鶴美が扇動しても、メリットが無ければ動かないだろう。また、どの√でも結果鶴美の企みは中断されてしまうのだが、鶴美が企みがら降りた程度で外資があっさり引き過ぎている。株式を9.99%保有する為におおよそ9990億円を投じている筈。とても簡単に切り捨てられる金額じゃない。あと0.1%分は自分達で買い足し、鶴美の代わりに別の『自分達の思い通りに動かせる』日本人を立てればいいんじゃないか(むしろ、外資にとっては有能でも思い通りに動きそうに無い鶴美より断然良さそう)。
これでは外資とは名ばかりの「鶴美のご都合資金源」だ。

透夏・音羽√で主人公の8億を持ち去ったのは誰なのか。全く関係の無い空き巣がラッキーで掘り当てたって可能性も無くはないが、それは物語としてお粗末なので除外。メインキャラで考えてみる。
①七海・・・主人公が影で何かやってると気付いてはいるので、金についても気付く可能性はある。しかし、それを持ち去る動機が無い。
②花・・・七海と同様。気付く可能性もあるし、偶然見つける可能性もあるが、持ち去る動機が無い。
③詩綾・・・主人公が影で何かやってると気付いてはいるが、金に繋がるとは考えづらい。金に気付いても持ち去る動機が無い。
④詩音・・・そもそも気付く可能性が無い。
⑤音羽・・・そもそも気付く可能性が無いし、音羽√でも持ち去られてる。流石に好きな人の金を持ち去ってだんまりは考えられない。
⑥透夏・・・音羽と同様の理由。
⑦涼子・・・感付く頭が無(ry
⑧厚人と鮎佳・・・実行力も足りないし、年齢的に考えられない。
⑨ショウエイ・・・金の存在を明確に知っているが、恐れて主人公に渡した経緯を考えると、それを取るとは考えられない。
⑩鶴美・・・主人公が金を奪ったとアタリを付けてる上に持ち去る動機も十分。

なので、鶴美が第一容疑者(と言うか、他のキャラは考えられない)だが、鶴美は犯人の場合はその後の展開が非常に不自然。主人公が金を奪った事は鶴美に対する完全な反逆行為。だからこそ主人公も自分が犯人など露見しないようにした筈。しかし、その金が持ち去られた時点で奪った犯人は主人公だとばれている事になる。これをネタに主人公を脅す事も可能な筈なのに、特にこれといったアクションが無い。鶴子の性格上、これは不自然。
また、音羽√では金が持ち去られた事に対して焦るが、透夏√では寧ろ安心してる。その気持ちも分からなくもないが、それこそ全く関係の無い空き巣がラッキーで掘り当てただけなら問題無いが、犯人が不明な状態では寧ろ恐怖だろう。