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s0meokさんの月に寄りそう乙女の作法の長文感想

ユーザー
s0meok
ゲーム
月に寄りそう乙女の作法
ブランド
Navel
得点
100
参照数
16102

一言コメント

「喜劇 この中に1人”○×△”がいる!?」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

~はじめに~

疑惑に関する新感想が13000字程度、愛しのユーシェについて綴った旧感想が7000字ほどあります。
急いで書いたので、間違ったところ直したり、足りないところ書き足したりしてたら、1万字を超えてしまいました。
むちゃくちゃ長くてごめんなさい。
とはいえ、削るつもりはないどころか、思いつくままに加筆・修正していく予定です。
(12/11/06に更新。たぶんこれで最終版、、、だと思う。
 12/11/07に更新。過去回想の1ヶ月前に遊星の母が亡くなったようなので、それに関連して修正。ほか追記。
 13/07/05 FD発売前に記憶の整理がてら、読み直して追記・修正)


疑惑の本題に関しては新感想の最後に書いてあります。
本題にいたるまでの経緯もあるので、かなり長いですが、新感想のほうには全て目を通していただけるとありがたいです。
手前味噌ではありますが、かなり自信があります。
真偽のほどは別に、2次創作的なものとしてでもかまいませんので、
ぜひ、本編を”BADエンドも含めて”コンプ後に、本編を思い起こしながらご覧ください。
きっと楽しんでいただけるのではないかと。

感想、疑問などあればお気軽にレスをください。
(だたし、受けだとか攻めだとかBL的なネタは考察対象ではありません)

それと、自分の中では考えが固まってしまっていて、柔軟に検証できないので、
私の思い込みなら私が恥ずかしい思いをするだけで済むのですが、ライターからの挑戦状では?という思いもあり、
どなたか、余裕のある方、賛否どちらでもかまいませんので、ぜひ検証をお願いします。
はずれていれば、私が"道化"になりますので、指を指し、腹を抱えて笑ってください。

あと、これで本当に最後、本文に入りますのでご容赦を。
感想レスのほうで、この新感想の続きではありませんが、
答え合わせ?というか、ちょろっと妄想ネタを披露しておりますので、
新感想を読んで興味をもたれた方はよろしければご覧ください。





~序章 「この中に1人”変な奴”がいる!?」~



本作においては”ラスボスのような”扱いの衣遠ですが、その行動は、才能至上主義、利害優先、そういった信条からかけ離れた、
特にルナルートに至っては、気でも狂ったのではないかと思えるほど目に余る支離滅裂な部分さえ見受けられ、
このゲームで多くの方がルナルートを押していらっしゃる中、私の評価では彼の言動が大きく足を引く結果になりました。

以下、衣遠の「盗作」について、私が最初に行った考察なのですが、
まず、衣遠が「盗作」をした事実、これは覆せないし、ルナ達が訴えれば隠し通せないものとします。
その場合、ルナ達が訴えない理由が納得いきませんでした。
衣遠が言うには、もし盗作を公表した場合、
①ユーシェ、湊の実家に圧力をかける
②ルナを退学にする
③服飾業界に圧力をかけて、ルナが一生日の目を見られないようにする
この3点で脅しをかけてきました。
まず、①について、家の規模を、大蔵>=桜小路>フォンメール=花之宮(分家筋)>柳ヶ瀬 とします。
ルナの家の規模については、大蔵よりは小さいものの、財力による圧力には屈しない程度に大きいものと会話内容から判断できます。
とすると金銭面から圧力を掛けられて厳しいのは他3家となるのですが、同程度の財力を持つルナがいる限り、
大蔵が圧力を掛けてもルナが援助すれば、仮に4家合わせて大蔵に勝てないにしても、即死はありえないでしょう。
②については、そうなったとしても、別の学校に行くなり、再入学するなり手はあるので、脅しの内容としては微妙です。
最後に③について、朝日が衣遠に頭を下げた最大の理由がこれですね。
既に大成功といってよいほど成功を収める衣遠が、理由はあるとはいえ名誉あるクワルツ賞を辞退したルナを、
つま弾きにしたとなっては、ルナの未来は潰されたも同然です。
しかし、ここで問題になるのは、衣遠が「盗作」したという事実です。
常識で考えて、ファッションなど芸術分野で1度でも盗作が明るみに出て、現状を保てるかとなれば無理ではないでしょうか。
比較的にパクリに寛容な?アニメ・エロゲ業界でさえ、2度目のトレパクで追放された人もいるというのに。
しかも、大蔵は父の代で勢いが削がれ、現在は衣遠の立ち上げたアパレル関係の企業を中心に盛り立て直したそうな。
そんな屋台骨ともいえる部分に、盗作のひびが入ってしまえば、一気に崩壊してしまう気がします。
そうなれば③など到底不可能ですし、①についても先に猶予があると述べたように、脅迫内容としては微妙です。
さらに言えば盗作された側、つまりルナにしてみれば、盗作を公表してしまえば、
自分の作品が評価されることになるのですから、黙っている必要など微塵もありません。

以上より、衣遠と遊星の間には、勝算、利害を超えて感情面から、
しかも、あの衣遠が唯一、純粋に笑顔を見せる親友J・P・スタンレーも同じくデザイナーであることも考えれば、
彼との友情よりも、遊星への執着が優先して、衣遠を盗作にまで駆り立てる何かがあるに違いないのに、
メインヒロイン4名を攻略しても、それが描写されていないことには心から落胆しました。
(補足しておきますが、盗作の是非については論じるまでもなく、私個人としては、情状酌量だとか、衣遠を擁護するつもりは全くありません。
 単純に言動が支離滅裂で行為に対して原因・理由が不明であったことが、気持ち悪く、
 たとえ想像によるところが多くとも、それを明確にし、一本筋を通す、ただそれだけのために考察をしております。)

しかし、ヒロイン4人を攻略後にギャラリーを開いてみると、その他のCGが2つ埋まっておらず、
攻略サイトを調べたところ、BADエンドがあり、早速プレイしたところ、驚愕の事実が判明とまでは断言できないのですが、
それを推測するには十分な手がかりが得られました。

BADエンドの流れは、八千代に女装バレした遊星が桜屋敷を追い出され、行く宛てもなく、
ホームレスに飼われそうになったところで、衣遠に助けられ?、そのまま保護されます。
それから1週間、衣遠は日本に滞在するというので、遊星は食事係として彼と同居することになり、
結局、桜屋敷から追い出されて心が折れてしまった遊星は、衣遠の傍に置いてくれと頼みます。
そして、このエンドの最後、「遊星は母親に生き写しと言ってよいほどには似てきた」という衣遠の言葉とともに、
遊星の母が「ありがとう」と笑顔で、おそらく話の流れから、衣遠に言う回想が入り、シナリオは終了します。

この回想、また共通を含めた全ルートでの衣遠の遊星への執着から、
「遊星の母は衣遠の初恋の相手だった」のではないかという推測が生まれました。

一度、これを考慮すると、この物語中で実に多くの伏線がちりばめたれていたような気がします。

この推測を出発点に、様々な推測・想像、果てには妄想を起こしていきます。
さて、もうすでに2000文字くらい消費しており、普通の長文感想なら終っていそうな勢いですが、
先に述べたように折り返し地点ですらありません。
ここから先、”道は長く険しいが、見晴らしは上々”なので、引き続き、どうかお付き合いいただければ幸いです。




~第二章 第一幕 「悲劇 大蔵衣遠の初恋」~



遊星の母といえば、笑顔を絶やさず、外見がそれはもう美しい女性ではあるものの、
遊星のあまりにも幼い言葉から、「ごめんなさい」が口癖になってしまった、そんな卑屈な女性として描かれていました。
おそらく、衣遠は当初そんな彼女を、大蔵の血を濁らせる雌犬として嫌っていたのでしょうが、
躓いたところを助けたのか、落し物を拾ったのか、はたまた、
幼少の遊星同様に紳士然と育てられ、遊星がりそなにしたように、誰かに虐められているところを助けたのかもしれません。
普段は、謝罪ばかりを口にして卑屈に過ぎる彼女が、笑顔で不意に見せた「ありがとう」の感謝の言葉に、
衣遠は”感嘆”を覚えてしまったのです。

というのが、最初に私の想定した”感嘆”だったのですが、
ルナルートの学院長室でのシーンにて、遊星がルナの退学を避けるため、衣遠に謝罪しているにも関わらず、
衣遠は狂ったように笑い、喜びながら、次のように言うのです。
>いいぞ、愚弟、イギリスで見かけて以来、久方ぶりに貴様に再会した気分だ。
>そうだ、貴様はそういうやつだった。
>”殴られながら礼を口にする”、卑屈で下品な子供だった。
なぜ、遊星は謝罪をしているのに、衣遠は”礼を口にする”などと言っているのでしょうか?
イギリスでの一幕を思い返しているのではなくて、ひょっとして、そのまま衣遠が遊星の母親にしたことだったのではないでしょうか?
私自身、上手くまとめられないのですが、雌犬と蔑み、殴った彼女が、なぜか礼を述べたことに彼は"感嘆"を覚えたのではないかという推測です。
正直、矛盾しているような気もしますし、かなり歪んだ性癖と言わざるを得ないので、これ以上は私自身、理解できませんし、
具体的なストーリーを妄想するのは本題ではないので、笑顔で「ありがとう」と言った遊星の母に"感嘆"を覚えた、
そこまでを念頭に次に進ませていただきます。

遊星の母を愛人として寵愛し、由緒正しき大蔵の血を濁らせる父、その女に醜く嫉妬の炎を燃やす母、
現在の衣遠に他者への尊敬など知らぬと言わんばかりの高慢にも見える人格が形成されていることからも、
幼少の彼が両親に一切、尊敬の念を抱いていないことは想像できますし、おそらくそんな両親が彼の人格を固めた原因の1つなのでしょう。
そして、子供であるというだけで、そんな両親の庇護に甘んじなければならない屈辱的な自身の現状と、
同じく、どんな誹謗中傷を浴びようと大蔵家にすがらなくては、生きていくこともできない病弱な遊星の母の現在の境遇とを
照らし合わせ、共感を覚えたことから”自問”が始まりました。

そして、おそらく、自分が大蔵家の頂点に立てば、父から遊星の母を奪い取り、母から彼女を守ることができる、
そんな”王子様願望”が”希望”の始まりだった。

作中のユーシェルートでのサーシャの言葉、恋愛の7つの手順にそって考えるとこのようになり、
これが、衣遠にとっての初恋で、今なお拭い去ることができない感情なのだと推測します。

ユーシェルートでは、1度はウィッグを外せと命令しながらも、あの女を思い起こさせるから、と命令を取り消し、
ルナルートでは、一度は外出を禁じながらも、「母の形見」だからというだけで、遊星に取りに行かせることを許しています。
また、遊星の女装を見たときの衣遠は、滑稽とは口にしても、喜怒でいうなら、喜に近い表情を見せていました。
少なくとも、遊星の母に対して並々ならぬ感情があったのだと想像するに難くはありません。



~第二章 第二幕 「悲劇 大蔵衣遠の親友」~



さて、ここで話が飛びますが、J(ジャン)・P(ピエール)・スタンレー、彼についてです。
衣遠の唯一の友人にして、彼がただ1人、笑顔を見せる相手なのですが、
彼らが友人になったのは、互いのデザイナーとしての腕を認めあったからだそうです。
はたして、本当にそれだけでしょうか?
ここで1つ推測を立てたいと思います。
「ジャンは、衣遠が誰かに初恋をしていて、未だにそれを忘れられない、という事実を彼のデザイン画から読み取った。」
これを契機にして彼らが親友になったのではないかという推測です。
さて、この推測、あまりにも突拍子がないかと思われますが、補足を聞いていただきたい。
そもそも、大蔵遊星の過去回想にて、J・P・スタンレーは、普通なら聞き逃してしまうようなことですが、
明らかにおかしなことを言っていました。
彼は、暗闇の中、姿がシルエット程度しか判別できず、その上、自身で"声に色がないからわからない"と言っているにも関わらず
遊星の性別についてこう言及したのです。
「胸もふくらんでいないうちから」と。
私たち読者からすれば、遊星は女装するほどの女顔で、しかも、西欧人から見たら日本人の子供の性別なんて見分けもつかないかもしれません。
しかし、地下のカビ臭いワインセラーの住人が"少女"だなどと、常識的に考えるでしょうか。
ありえませんよね。
とすれば、彼はこのワインセラーに"少女"もしくは女性がいると先入観をもっていたのではないでしょうか。
ではなぜそんな先入観が生まれたのか、そして、もっと言えば、ジャンはあの時、なぜあんな場所にいたのか?
答えは単純なのではないでしょうか、つまり、衣遠の先回りをしてきた。
衣遠が今日、ここに、誰かを迎えに来ること、そして、彼は以前から誰かへの初恋を引きずっていること、
この2つから、ジャンはこのワインセラーに衣遠の思い人である女性がいると、半分、誤解していたのです。
だから、遊星のことを"少女"と決めうちしたのです。
そして、遊星が自分を「大蔵遊星」と名乗ったあとの、ジャンの「なるほど、そういうことね」という一言、
この時彼が何に対して合点がいったのか想像するのはかなり難しいですし、具体的にか、それとも曖昧になのかはわかりませんが、
衣遠と同じ「大蔵」の性を名乗る彼には、衣遠の初恋と何らかの関係があると気づいたのでしょう。
また、この時、ジャンは「衣遠が自分をここに呼び出した」と言っていますが、衣遠は遊星の隣にジャンがいるにもかかわらず、
しかも、もし仮にジャンを呼び出したのなら、彼の言葉を「黙れ、スタンレー」の一言で黙らせるでしょうか。
おそらく、ジャンの呼び出された、という言葉は嘘で、ジャンの出刃亀行為に衣遠が腹を立てていたのだとも推測できます。

また、衣遠の「母上から貴様を奪いにきた」、この言葉も先に述べた、”王子様願望”、"希望"の表れのように見えます。

さて
「ジャンは、衣遠が誰かに初恋をしていて、未だにそれを忘れられない、という事実を彼のデザイン画から読み取った」
と書いたのですが、これの妥当性について、
①フィリコレのデザインコンペにてヒロインたちが「デザイン画を見せることは自分の内面を見せることに等しい」という会話
②ルナルートで、ジャンがドレスの縫製から愛情を読み取ったこと
③ルナルートのフィリコレ後、舞台裏での会話で、衣遠が自分のデザイン画を遊星に見せなかった事実
以上3点で補強できるのではないかと思います。
特に③ですが、衣遠にルナに指摘されるような落ち度があるというのも、こうして見ると違和感を感じます。
1度、ジャンに指摘されているため、自分の初恋の相手の子供、その上、日に日に、生き写しのようになっていく遊星に、
自分の内面を見せることを避けたように思えます。

あと1点、これは上の3つに比べると私の直感によるところが多いのですが、
過去回想で、”In Aoyama Tokyo”の刺繍と桜のアップリケが施された闇色の毛布を見たときのジャンの発言、
>お、なんだ少年、君なかなかファンタスティックなもの持ってるじゃないか。
>ちょっと見せてくれよ
>へええ、こりゃあ素晴らしい
>うーん……なんだろうなあ、この胸をキュって優しく触られる感じ。
>いいよなあ、ずるいよなあ。
>技術とかセンスとかじゃあないんだよなあ、この味は
>当ててみせるぜ。少年を愛している誰かさんからの贈り物だろ、コレ。
この何気ない発言からも、ジャンはそういう愛情が見える何かを以前に見たことがあるのではないか、そんな気がします。
本当に私の直感、ひょっとしたら穿ち過ぎなのかもしれませんが、初めて見たような驚き方には見えないんですよね。
以前に、衣遠のデザイン画を見たときに感じた”味”を再び味わった、そんな風に見えました。


----13年7月5日追記-------
ところで、話が大幅に逸れるのですが、遊星の母って本当に死んでいるのでしょうか?
実は、生きたまま青山のどこかに幽閉されていたりするのでは、とか。
(死んだはずのあいつが実は生きていた、どんでん返し設定は、お気に入りでしばしば妄想します。)

衣遠がルナルートで遊星に母の形見ということで遊星に荷物を取りに行かせたことに矛盾するし、
続編(アフター)のルナルートお墓参りCGと矛盾するので、やっぱり死んでいるのかな。

遊星を父にあてがうことで、大蔵家を手に入れて、そのまま幽閉されていた母も手に入れるっていう展開は面白そうなんだけど。
そしてその勢いで遊星も助けちゃって、お兄様素敵、って。 あれ、主人公が衣遠になってる、、、。

とはいえ、この場合、遊星の母が存命で(場所は知らなくとも)幽閉されている事実を衣遠が知っていないと筋が通らないし、
その場合、いろいろ矛盾する描写もあるので、やっぱり、妄想ネタかなあ。
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~第二章 第三幕 「悲劇 大蔵衣遠の嫉妬」~



さて、話を戻しますが、衣遠は遊星のパタンナーとしての素質に気づけたかどうかも別にして、
そもそも、遊星がファッション業界、もっと言えば、自分のデザインに近づくことを避けたかったとも考えられます。
それは、彼が遊星を遊星個人としてではなく、雌犬の子、雌犬の生き写し、そのようにしかとらえられなかったからだとも。
ユーシェルートで、1度はウィッグを外せと命令しながらも、あの女を思い起こさせるから、と命令を取り消すシーンもありました。
衣遠にとって遊星は、忘れられない初恋の女性、自分が父と母から救えなかった女、それの代替品ですらあるのかもしれません。
だから、遊星のことを、自分が飽きるまで玩具として傍に置いておくと、瑞穂ルートで言っていたのではないでしょうか。

また、ユーシェルートで「恋愛は人を馬鹿にするというが、今の貴様たちがまさにそうだ」と言い、
頭を下げる遊星を気遣って声をかける続けるルナを精神が弱いと評しますが、
これは、未だに遊星の母を忘れられず、執着し続けることに対する自己批判の面も多分にあるのではないでしょうか。
雌犬の子、その生き写しというだけで、彼に執着し、彼が誰かとともにいればそこから引き離して自分の下に戻そうと嫉妬する有様は、
衣遠自身が愚物と罵った父親と母親に重なってしまうから、自分を理想と異なる感情的な愚物に陥れる遊星を憎まずにいられない。
遊星への憎悪はそんな自己嫌悪から来たもののように思えます。
事実、彼は遊星への執着から、ついには「盗作」までしてしまうのですから。

同時に、どうしても遊星に母親を重ねてしまうので、目の届かぬところに放逐することもできない。
「女装さえた遊星を父に献上して、大蔵家を手に入れる」という衣遠の言葉にも疑問が生まれます。
そもそも、現状で大蔵家は衣遠の作ったアパレル関連の企業を中心にしているのですから、
遊星を父に渡すまでもなく、大蔵家が彼のものになるのも時間の問題のはずです。
ならば、あの言葉の本心は、そもそも、遊星を父の元に送るつもりなど毛頭なくて、
「父の元に送られるくらいなら、お兄様の傍にいさせてください」と、
亡き遊星の母の代わりに、遊星に、父親ではなく自分を選ばせることこそが目的だったのではないかとも思えます。
彼の本心は、遊星をまるで秘蔵の人形みたいに、他の誰にも見えないところに囲っておきたい、
そんな歪んだ独占欲だったのではないでしょうか?
この点について、加えて言えば、遊星を軟禁後、どうして1ヶ月も期間を設けたのかということも、
上のような衣遠の本心を考慮すれば、いわゆる”シナリオ上の都合ではなく”、遊星が自分を頼ってくるまでの猶予期間として納得ができます。
また、フィリコレ後の舞台裏で「3日後に父に引き渡す」という衣遠の発言も、
これまでの私の推測に対する反論になるどころか、さらに補強するように思えます。
まず、第一に、彼の本音が遊星に自分を選ばせることであっても、
プライドの高い彼としては、あくまで自分が遊星に執着しているのではなく、
父に引き渡されれば彼の慰み者になるのは遊星自身も想像に難くなく、あまりにも惨めに懇願する遊星に慈悲を掛けたのだ、
という体が衣遠にとっては必要であると考えられるからです。
ならば、父に引き渡す約束というのは、口から出まかせではなく、実在のものでなくてはなりません。
そして第二に、先ほど、大蔵家が衣遠のものになるのも時間の問題だ、と書きましたが、
当該の衣遠の発言の後、衣遠は自分で、”1ヶ月前からの約束を3日前になって反故にしたとしても問題ない”とそう明言しているのです。
相手は、対等な取引先どころか、大蔵家の現当主にして父親である男、つまり、表面上は完全に格上の相手に対して、
3日前になって約束を反故にしても問題がない、つまり、実際には自身が大蔵家の頂点であると言ったに等しいのです。
このことからも、やはり、そもそも遊星を父に引き渡す気など毛頭なかったのだと推測できるでしょう。
あと、これはさすがに妄想が過ぎるかもしれませんが、死ぬ直前まで遊星の母が毛布を縫っていたという描写と合わせて考えると、
引渡しの期日、フィリア・”クリスマス”・コレクションの3日後、12月28日というのは、”遊星の母の命日”だったのかもしれません。

瑞穂に真実を暴露し、ユーシェの邪魔をし、ルナの作品を盗作したのも、すべて、
そこには衣遠が日ごろ言うような理路整然とした利害もなく、ただひたすら感情的に、
遊星に近寄る誰かを排除して、遊星を屈服させ、遊星が自分だけのものになるようにと
ただそれだけを目的にして、仕向けたように見えます。

また衣遠にとって、遊星が母親の代替であるための必要条件の1つは「才能の片鱗も見せないこと」だったのではないかとも思えます。
遊星の母親は「ごめんなさい」口癖になるほど卑屈な女性であったこと
ルナルートの学院長室でのシーン、遊星が朝日の姿で衣遠に頭を下げて許しを請うた瞬間、衣遠は気が狂ったように笑い出したこと
あくまで、遊星をいたぶることが本題だったと言わんばかりに、「なかなかいい見世物だった」と口にしたこと、
これらから、卑屈で、頭を下げるしか能がない、そんな女性が衣遠にとっての初恋の相手だったのだろうと想像します。
たとえ、衣遠が女性を大蔵の血を残すだけの道具だと考えていたとしても、そんな自分の初恋を認めるわけにいかないと考えるでしょう。
瑞穂が共通ルートで「どうして男の子は気になる女の子に意地悪をして、その上、好きだなんて嘘をつくのかしら」と言っている、
まさにそれを遊星にせずにはいられない、そんな自分の感情的な部分を自分の唯一の汚点だと衣遠は言っているのだと思います。

話がそれましたが、遊星の母は「卑屈で頭を下げるしか能のない女」と衣遠は見なしていました。
ならば、遊星が才能の片鱗を見せなかったのではなく、もしかしたら、衣遠自身に見つけたくなかったという側面があり、
そんな遊星に遊星の母を重ねて、遊星個人を見ることができなかったとも考えられます。
また、彼は入学式で「学生の提出物には全て目を通す」と言っていますが、これは裏を返せば、いかな才能も見落とさないという姿勢です。
そんな彼に遊星の才能を見落とすようなことが、はたしてあり得たでしょうか?
遊星に遊星の母親の面影を無意識に”求めて”しまっていたのかもしれません。
しかし、ユーシェルート、瑞穂ルート、ルナルートでは、遊星がパタンナー(一部でデザイナー)としての才能を見せたことによって、
衣遠は遊星に面影を重ねることができなくなったため(少なくとも、以前よりは)、
以降の遊星への対応は、妾腹ではあるものの大蔵の血筋という、相応の厳しさに変わったのだと思います。

ところで、本作においては、天才のルナ、秀才のユーシェという構図が描かれていましたが、
ひょっとして、この構図は、J・P・スタンレーと大蔵衣遠の関係にも当てはまるのではないでしょうか?
当然、天才のジャン、秀才の衣遠、その2人が親友であるという構図です。
こう想像すると、さらに1つの推測が生まれます。
学院の入学式において、衣遠が語った話、

>才能がない奴が良いものを作りたいなら努力で補うしかない。
>俺が1枚のデザイン画を描く間に、奴は十枚の量を描くべきだ。
>俺が寝る間を惜しんで服を縫うなら、奴は体が動く限りミシンを走らせるべきだ。
>だが奴は普通の生活の範囲内でしか努力をしなかった。
>少なくとも、食事の間は味の事を考え、風呂に入る間は心を癒し、就寝時は柔らかいベッドの上で微睡んでいた。
>人生で1度の発想がたったいまうまれたかもしれない。
>その可能性も考えず、通り一辺倒の口上を並べて、奴は妥協した。
>人より優れているものを生み出したいなら無理をしろ!生活を捨てろ!
>何も犠牲にせず秀でたものを生み出せるのは、世界でたった数人の天才だけだ!
>自分を特別だと思う退屈な日常を捨てろ!
>それができず俺の弟だった男はデザインの道を諦めた。
>だから俺は奴を屑だと思い見限った。
>あんな奴は生きているだけで不愉快だが失敗作だからと言って殺すわけにもいかない。
>”今後、俺の前に一切現れることなく消えてくれれば良いと思う。”
>君たちはいま話した屑のようにはならないで欲しい。
>”彼はいま俺の部屋で家畜のようにして飼っている”

これはすべて”彼の実体験”だったのではないかということです。
幼少の彼は、”王子様願望”から、ファッションデザイナーを志したものの、才能がなく、
それでも、文字通り、心身を削るような努力を重ねたのではないかと想像します。
そして、その経験から、あの激情に溢れた苛烈な言葉が出てきたのではないでしょうか?
すると、もう1つ、それまでの苛烈さから一転して、まるで自重するように呟いた「俺の部屋で家畜のようにして飼っている」という発言ですが、
その前の「今後、俺の前に一切現れることなく消えてくれれば良い」、これと明らかに矛盾するのです。
どうして目に入れたくもないものを「俺の部屋」で飼うなどというでしょうか。
殺すことはできずとも、自分の目の届かないところに置くことは決して無理ではありません。
幼少の衣遠にとって、「遊星の母を自分の両親から救い出したい」そんな”王子様願望”が
大蔵家当主を目指して疾走した努力の原動力であり、今現在、遊星の母が亡き後も彼を突き動かしているものである
という暗喩だったのではないかと思わずにいられません。
そんな、「自分の父の愛人への慕情」や「彼女を救えなかった後悔」が、彼のデザイナーとしての想像の源泉と原動力であり、
「前衛的で耽美」という評価につながっているのではないかと思うのです。

事実、彼は才能至上主義を標榜しながらも、自身が天才であるとは作中1度も明言しておらず、
入学式では才なき身での努力の重要性を訴え、ユーシェルートにおいては彼女の努力の結実に尊敬さえ表明しているのです。
また、衣遠が遊星に自身のデザイン画を見せなかったことについて、もう1つの仮説が立ちます。
ひょっとしたら、衣遠は天才であるジャンと自分のデザインを遊星に比較され、そしてジャンを選ばれることを恐れたのではないかと。
「ジャンの真似事をしていた」「ジャンが学院長を務める学院に入学した」、そんな彼の遊星への中傷の言葉は、
自分ではなくジャンを選ぶ遊星の態度ゆえに、彼が嫉妬を覚えていたからではないでしょうか。
彼を学院から追放しようと、時には盗作までするほど躍起になったのは、
たとえ自分の膝元である日本支部であっても、同じデザイナーであるジャンを追いかけて、
それこそ女装までして、いや、その姿が亡き遊星の母に瓜二つだったからこそ、彼にとっては、嫉妬を覚えずにはいられなかったのではないでしょうか。




~幕間~


以上長々と書きましたが、8割、いや9割くらい想像になってしまったのですが、大蔵衣遠についての考察でした。
こう考えると、フィリコレ前の遊星への執着、ルナルートでの目に余る行為、フィリコレ前後での遊星への衣遠の対応の変化、
など衣遠の言動に1本筋が通る気がします。

正直、予想外です。
複数ライターでライターチーム内に統括を行った人物がいるのかすら不明ではありますが、
ルナルートでの「盗作」で大蔵衣遠の言動のちぐはぐさに明らかな疑問を覚えさせ、
BADエンドにて、大蔵衣遠が遊星の母に惚れていたのでは?という鍵を与え、
そして、その鍵を中心にして彼の内面を想像させることまで、ライターが想定していたのなら、見事と言うほかありません。
というか、BADエンド限定のCGがあって、4人攻略後にギャラリーを見るとCGが埋まっていないのに気づくあたり、そこまで想定していた気がします。
私自身、鍵を得てからは、パズルゲームの連鎖のように妄想が次々と浮かんで非常に痛快でした。
今年は、古色迷宮輪舞曲といい、妄想ネタに恵まれていて嬉しい限りです。
ほんとに、ルナ様可愛い、ユーシェは俺の嫁とか呆けたみたいに言ってる場合ではないかもしれませんね。


遊星がルナに掘られるシーンすらスキップしたくらい、あっちの気はないつもりですが、
こうして、衣遠の言動の端々から、彼の内心を暴き上げて、彼が唇を噛んで睨みあげてくる様を想像すると、
ぶっちゃけ、ゾクゾクします。
ルナ様に虐められて喜ぶドMゲーかと思いきや、衣遠の内心を暴露して楽しむドSゲーだったとは。

むちゃくちゃ長くなりましたが、ご意見ご感想などあればお気軽に。




~最終章 「喜劇 この中に1人”王雀孫”がいる!?」~



ああ、そうそう、本当にこれで最後、1つだけ特大級の妄想をぶちかましておきましょう。


大蔵衣遠がその言動の支離滅裂さゆえに読者に明らかな疑問を抱かせる一方で、
時には衣遠を出し抜き、衣遠の行動に影響を与え、トリックスターのように飄々と舞台をかき回すにも関わらず、
衣遠の影に隠れて私たちが空気のように感じてしまっている男、J・P・スタンレー、彼に疑問を抱いた方はいらっしゃいませんか?

また。少々メタなことを言えば、彼だけ、なぜか公式ページにて紹介されていないのです。


さて、思い出していただきたいのは、過去回想におけるジャンの言葉。

>遊星、俺の知るかぎり、君はこれから”ある1本の道”を歩かされることになる。
>その道は長く険しいが、見晴らしは上々だ。
>もし君がその道を生涯選びつづけるなら、少々遠いだろうが、いつか俺のところまで来てくれ。
>そのときはここのワインで乾杯しよう。



遊星の名前を聞いた時の「なるほど」の真意とは何でしょうか?
”ある1本の道”を遊星に歩かせるのは、いったい誰でしょうか?
ジャンはどうして、日本にフィリア女学院を作ったのでしょうか?
なぜ一部生徒へ付き添いなどという制度を設けたのでしょうか?
どうして数百の生徒の中から遊星を見つけられたのでしょうか?


そしてこれらの疑問を集約させれば。

"遊星が女装をして" 学園へ忍び込むことも、全て ”彼の筋書き” 通りだったのではないでしょうか?


おい、ちょっと待て。

>こう見えて俺、なかなか文才があるんだぜ。
>残念ながら、現代の文壇にはまだまだ理解してもらえないんだが。

ひょっとして、王雀孫 = ジャン・P・スタンレー っていう 壮大な「釣り」じゃねえのか?

略称の「つり乙」ってそういうことか?



さて、主要キャラの名前がいずれも日本の銀行名由来のものであるのに対し、
ジャンのみが、その由来は、”モルガン・スタンレー”、国外の金融機関であり明らかに毛色が違います。


大蔵 遊星:郵政(あだ名は、ゆうちょ銀行)
小倉 朝日:朝日銀行(1962年~1964年、朝日同様に3年でなくなる)
桜小路 ルナ:さくら銀行(1990年~1992年) (現 三井住友銀行)
ユルシュール・フルール・ジャンメール:三菱東京UFJ銀行
花ノ宮 瑞穂:みずほ銀行
柳ケ瀬 湊:みなと銀行
大蔵 りそな:りそな銀行
山吹 八千代:八千代銀行
名波 七愛:セブン銀行
サーシャ・ビュケ・ジャヌカン:SBJ銀行
杉村 北斗:北都銀行
大蔵 衣遠:イオン銀行


モルガン・スタンレーは、商業銀行業務と証券業務の兼業を禁じたグラス・スティーガル法の施行を受けて、
1935年にモルガン商会の証券部門が分離独立する形で設立されました。
新生モルガン・スタンレーを率いたのは、ジョン・ピアポント・モルガン(モルガン商会の創設者)の孫にあたるヘンリー・モルガンと、
新会社の社長に就任したハロルド・スタンレーでした。
(出典:http://www.morganstanley.co.jp/aboutms/globalhistory/index.html)



ここで、モルガン・スタンレーの総保有資産が世界トップなら、”王”にならないかな?と思ったのですが、
今の保有資産額では、三指には入るが、トップではないみたいです。
とはいえ、仮にトップであったとしても最後の一文字”孫”が出てきません。

また、単に有名どころの銀行を引っ張ってきた可能性もありますが、フランス人名の”ジャン”、”ピエール”に対して、
なぜ、フランス系ではなく、米資本のモルガン・スタンレーなのかも疑問でした。

さらに焦点を変えて、米資本であることは許容するにしても、
なぜ、ゴールドマン・サックスや2013年現在、保有資産額トップのJPモルガンではなく、モルガン・スタンレーなのか?
どうして、ジャンの名前はM・スタンレーではなく、J・P・スタンレーなのか?

そこで、目を引いたのが、
ジョン・ピアポント・モルガン(モルガン商会の創設者)の ”孫” にあたるヘンリー・モルガン
という1文です。
みんなの味方ウィキペディアさんで”モルガン・スタンレー”について調べても、これは解説文のかなり上位で説明されています。

そこで、まず、ヘンリー・モルガンについて調べたのですが、目ぼしい情報はなくハズレでした。

次に彼の祖父にあたるジョン・ピアポント・モルガンについて調べたところ、
直接の創始者ではありませんが、ジョン・ピアポント・モルガンは金融王の異名で名を馳せていたのです。

また、英名の”ジョン”は仏音では”ジャン”に変わります。

以上から、
金融 ”王” と呼ばれる ”J・P” (ジョン・ピアポント)・モルガンの ”孫” にあたるヘンリー・モルガンと
ハロルド・ ”スタンレー” によって設立された金融機関モルガン・ ”スタンレー” から、
J・P・スタンレー 
の名前を設定。さらに、”雀”の読みはジャクであるが、”ジャン” と読んで、
ジャン・P・スタンレー
となり、"孫"の文字をとるために、ゴールドマン・サックスでもJPモルガンでもなく、モルガン・スタンレーが選ばれたのではないでしょうか?

ちなみに私は最初、「雀」の字を麻雀から、"ジャン"と誤って読んでいました。
孔雀から"ジャク"と読む人もいるかもしれませんが、初見ではどちらの読みのほうが多いでしょうか?

最後に、Pの読みである、”ピエール”。
皆さん、フランス語の”pierrot”というのをご存知でしょうか?
これは、英語のピエロの語源なのですが、そもそも、"pierrot"自体が、
イタリアの即興喜劇集団に登場する「ペドロリーノ(pedrolino)」という役名に由来し、
これはフランスに入ると、フランス人名らしく「”ピエール”(pierre)」に改められるのです。
それがさらに「”ピエロ”(pierrot)」と呼ばれるようになります。
(出典:http://gogen-allguide.com/hi/pierrot.html)


なるほど、たしかに、ジャンの飄々とした振る舞いは、道化のそれでした。
過去回想で、ジャンが名を明かす前「フランス語の男」と表示され、その後、「英語の男」に変わることも、
彼の命名に関わる伏線だったのではないかと推測します。


海外の巨大資本スタンレーに踊らされる日本経済という構図も、
この物語の登場人物が全て、ジャンの手のひらの上だとすれば、なんとも皮肉がきいています。


とすれば、ジャン・ピエール・スタンレーとは、すなわち、
「王雀孫は道化で黒幕だ」
というメッセージだったのではないでしょうか?


みなさん1つ思い出してください。
入学式のシーンタイトルはなんでしたか?
七愛、サーシャ、八千代は会話に参加しないことから、アイコンこそ表示されませんが、
りそなを除き、このゲーム中、メインキャストが一同に揃うシーンタイトルはなんだったでしょうか?

「この中に1人”ラスボス”がいる」

おやおや、誰がいったい、「大蔵衣遠がラスボスだ」、などと言いましたか?
圧倒的な存在感を見せる衣遠の傍で、その実、空気を支配していたのは誰だったでしょうか?
ここまで言えば、答えは自明ですね。


さて、ゲーム本編から続いて、1万3千もの文字数を割いて続けてきたこの一大”喜劇”ですが、
”道化を指さして”、そろそろ閉幕といたしましょう。


もし、これが穿ち過ぎた妄想でなければ、

>俺の知るかぎり、君はこれから”ある1本の道”を歩かされることになる。
>その道は長く険しいが、見晴らしは上々だ。
>もし君がその道を選びつづけるなら、少々遠いだろうが、いつか俺のところまで来てくれ。
>そのときはここのワインで乾杯しよう。

ってライターから読者への挑戦状じゃないのか?
要するに、お前ら俺の存在に気づけるのか?っていう。









見つけたぞ、王雀孫。







~カーテンコール~


ごきげんよう、みなさま。
王雀孫に代わりまして、この喜劇のネタバレを務めさせていただきました。

この”舞台挨拶”をご覧になっている方は、きっと一通り目を通してくださっているかと存じます。
1万3千字もの文章にお付き合いいただきまことにありがとうございます。

大蔵衣遠の「盗作」、これへの疑念から全てが始まったといっても過言ではありません。
J・P・スタンレー、彼の言葉を借りるなら、
「コレを素で書いちゃうライターは面白いよな。 はは、”盗作”だって。君らも疑うところだぞ、ここ。」
といったところでしょうか。

そして、BADエンドという鍵から、大蔵衣遠への考察を深めれば深めるほど、
浮き彫りになってくるJ・P・スタンレーの特異性や意味ありげな発言に気づき、
黒幕の存在に勘付く、もしくは、それを勘繰り出すのは誰にとっても時間の問題ではないでしょうか?

私が気づいた限り、ほぼ全ての伏線については解き明かしたのですが、
王雀孫からのメッセージ、最後の1つはそのままにしてありますので、よろしければ、お探しください。

1つヒントを差し上げるなら、おそらく、彼が我々に与えた”タイムリミットは約2ヶ月”でした。



それでは、ごめんあばずれ。































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以下、旧・長文感想



ルナとユーシェ、月と太陽、陰と陽、男の娘と男の子。
2人のヒロインの造形も主人公の立ち位置も対照的ではあるが、どちらが好みかと聞かれれば断言できる。
たとえ、はりぼてで偽物の太陽だったとしても、ユルシュールが大好きだ。


と、世紀の大告白風(誇張)な導入をしたのですが、本作では、ルナこそ真ヒロインとおっしゃる方が多い中、
たとえ、CGの枚数が少なくても、挿入歌がなくても、ショーの演出がしょぼくても(ギャグじゃない)、
タイトルからして明らかに贔屓されていたとしても、etc、etc、、、
あくまで、ユルシュールこそ真ヒロインだと断言します。譲りません。

というか初回でユーシェを攻略したのですが、個別EDテーマがあるのかと思うくらい、
まるであつらえた様に、EDがユーシェとマッチしていました。不思議です。いや、真ヒロインだから不思議じゃない。

正直な話をすると、単純にルナとユーシェのキャラ造形という観点では、
ビジュアルなど含めて体験版部分まででは、その魅力にはどちらにもそれほど差はなく、
ユーシェの中の人、五行なずな分で個人的にやや優勢という程度でした。

そんな2大ヒロインの差を決定的にしたのは、いうまでもなく個別シナリオに尽きます。

無駄に長くなってしまったので、
[1]では単純にユーシェルートの感想、
[2]ではユーシェルートとルナルートを比較しつつ、気に入った、気に入らなかったところなどを書いていき、
[3]ではその他いろいろと書きます。


あと点数ですが、ユーシェ単独です。他3ルートは無視しました。
全体で見ると、コスパが微妙なので、75~85点くらい。
特に西又キャラのルートがものすごくつまらないので足を引っ張ります。


[1]ユーシェルートの感想

ユーシェルートといえば、挫折と成功がメインテーマでした。
ユーシェは作中で3度の挫折を味わうことになりました。
1度目はクワルツ賞でのルナへの敗北、2度目はフィリコレのデザインコンペでのルナへの敗北、
そしてダメ押しの3度目、まったくの予想外、学園主催のデザインコンペでのルナへの敗北です。
1度目は隠れて歯を食いしばって、2度目は余裕を失って、3度目にはついに涙を見せて折れてしまいました。
「失敗は成功の母」、「努力は実る」、それをどんなに彼女が信じても、ルナの才能の前では一笑に伏されてしまうのです。
しかし、一見そのとおりでしたが、振り返れば決して無駄なことなどひとつもなかったのです。
1度目の挫折は、「遊星とのきっかけ」を、2度目の挫折は、「勝利への手がかり」を、そして、3度目の挫折では、「再戦の機会」を得ました。
3度目の正直なんて言葉にも夢破れて、ルナの圧倒的な才能の差を見せつけれれて、
立ち上がれなくなった彼女を奮い立たせたのは「私の愛する人になんてことをする」、そんな遊星への愛情でした。
それでも、行き詰まり、落ち込み、八つ当たりもしました。
結局、彼女は友人に尋ねるのです。
「自分の良いところはどこですか?」
このプライドもかなぐり捨てた問いには、これまでの自分は全部、失敗だったのではないか、とそんな不安も見て取れます。
しかし、友人の答えから、これまでの自分には何一つ間違いなんてなかったと自信が持てたからこそ、
前言を撤回して、1度は敗れ、お蔵入りするはずだったデザイン「美しき我が祖国」を完成させたのです。
遊星と最初に完成させたデザインを今度こそと持ちだした、(これは推測ですが、湊に指摘された「ルナっぽい」部分を修正したのでしょう)
そんな彼女の健気さには言葉もありません。
しかし、確かにデザインはルナのものと並ぶものでしたが、まだひとつ問題点が残っていました。
彼女の衣装から「スイス」を想起させるのは、日本というお国柄から難しく、
ジュネーブ、永世中立国、そんな記号は知られているものの、芸術とは結びつきません。
この部分は、結局最後まで、ユーシェも忘れていたのでしょうが、彼女は一人ではありません。
そこにちゃんと遊星は気づいて、一計を案じ、夏の花である「エーデルワイス」、
日本人なら小学校で誰もが歌う、白い花を、南半球から取り寄せていたのです。
その「デザイン」は、桜小路に票を入れるという衣遠の前言さえ翻させて、
2人の衣装は見事、最優秀賞を飾り、三度の挫折を経て、とうとう成功を収めたのでした。


挫折ものというのは、やはり、つらいものですが、この作品では、3度の挫折全てを4度目の成功につなげています。
また、ルナルートと違い、主人公がパタンナーとしてだけでなく、
エーデルワイスの生花を使うという"デザイン"で、自分の才能を否定した兄に一矢報いたのも実に痛快でした。
二人の凡人のデザインが一人の天才のデザインを上回った瞬間でした。

恋心が愛情に変わる、挫折から立ち上がる、失敗を成功につなげる、そんな過程を余すところなく描ききったシナリオの
重すぎず、かといって軽すぎない、さじ加減はまさに絶妙でした。

希望と失望で上下し、揺り動くシナリオの展開も緩急が効いていましたし、当座の目標として打倒ルナが掲げられたことで、
シナリオに牽引力も生まれて、個人的にはルナルートでは過去話などで感じた中だるみも、ユーシェルートでは無縁でした。
なにより、そんな荒波のようなシナリオの中で、喜怒哀楽を、
甘えシュール、怒りシュール、泣きシュール、強気シュール、大人シュールなどなど、
実に幅広い感情を演じきった五行なずなさん、万歳!!

また、主人公が余計なことを言ったためにネタ化していた「ですの」が後半消えてしまったかと思ったら、
要所、要所で挟んでくるのが効きました。
前半がジャブ連打なら、後半は改心のストレートです。
こうあれです、ずっとチロチロ、ペロペロしてくるのに、狙い済ましたかのように、意地悪く甘噛みされて、うっ、てなる感じです。
まったく、可愛くて困りますね。

日本語だと残念なことになる、、、そうですが、
プラトニックとプラスチック、シリアスとシリアル、を間違えているあたり、英語やフランス語を話しても残念な感じになりそうです。
まったく、可愛くて困りますね。

お姫様で、普段ツンツンというか、強がってるのに
「全部あなたのものです。触れたいです?」とか言われるとたまりません。
まったく、可愛くて困りますね。

あと、初エッチ(未遂)のシーンで、日本語がわからないながらも、
たどたどしく日本語で現状の気持ちとか感覚を伝えようとするユーシェが健気です。
まったく、可愛くて困りますね。

初エッチ失敗も嫌いじゃない。
まったく、可愛くて困りますね。




[2]ユーシェルートとルナルートの比較

まず、1点としては、主人公の立ち位置が違います。
ユーシェルートではフィリコレのデザインの考案段階で女装バレするのに対して、
ルナルートでは、それよりも4ヶ月近くたった後、個別シナリオとしても。、8割を超えたあたりで女装バレすることになります。
これによって主人公のヒロインへの対応も、ユーシェには男としての擬似的な恋愛関係、ルナには女としての主従関係がメインになっているのです。

ユーシェとの関係を擬似的と書いたのは、作中でサーシャが述べているように、主人公からユーシェに向けられる感情が
>"感嘆"は彼女の才能を見てから起こり、"自問"は自分の才能と照らし合わせて起こり、
>お互いの才能の完成品を想像するところから希望が始まっている
というようなものだからです。
これは同じ過程をたどった場合、他のヒロインに対しても起こりうるもので、恋心とは少し違っていて、
それと、主人公がユーシェに対して、彼女の才能と直向な努力に対して感じていた本来の愛情が混ざり固まって、
そして、ユーシェが三度目の挫折、彼女がルナから敗走しあの時、ついに本物の愛情に昇華された瞬間はすばらしかったです。

ルナと朝日が11月の女装バレまで、ゆっくりと主従として、主人が拭い去りがたい過去を明かし、朝日を信頼し、
そして、恋心を実らせるまでの過程に比べて、ユーシェと遊星の関係は軽く見えるのかもしれませんが、
私はむしろ、そんな2人の初恋は、「恋に恋する」のに似た、青臭いジュブナイルを感じました。

>私だって遊星さんが生まれたときから私を愛するためだけに育ったとは考えていません。
>可能性ならルナや湊や瑞穂にもあったでしょう。
>要はきっかけとタイミングが私たちの恋愛にぴたりとはまったということです。
>もちろんこの出会いを運命だというなら、遊星さんは私の運命のひとです。

決して初恋に酔っているわけでもなく、かといって斜に構えているのでもなく、
運命を信じる少女らしさも確かに備えていて、
それでいて、きっかけがあたえられ「一度火のついた愛しさ」が消えないようにと願い努力し、
自分で言っておきながら「他の可能性」を考えて「もうもう」とポカポカパンチをしながら嫉妬したり、
ユーシェのなんとまあ、愛らしいこと。


話がそれてユーシェの愛らしさをを力説してしまいましたが、
次に主人公がヒロインの前で、誰かに屈辱的な行為を強いられたシーンについて
ユーシェルートでは、ルナの挑発に乗らないユーシェに業を煮やしたルナは、朝日を四つんばいにさせ、馬扱いしてお尻を叩きます。
ルナルートでは学院長室に呼ばれ女装バレしたシーンで、ルナの退学を避けるため、犬のように跪けと衣遠に命令されます
どちらも間違いなく主人公にとって屈辱的な(前者はご褒美かもしれませんが)行為で、それを見た2人の対応も決定的に違いました。
ユーシェは3度の敗北で立ち向かうことも恐ろしいルナに対して、「私の愛しい人に何をする」とはっきり怒って見せたのです。
一方のルナは、内心はどうあれ、朝日のその行為を見逃しました。
当然、主人を守るための従者の行為として、従者の面目を守ったなんて見方もできなくはないですが、
2人の対応を見たとき、私にはユーシェの対応のほうが好ましいと断言できます。


次に遊星が衣遠と対峙するシーンについて、
このどちらでも、遊星は兄を見返す、という決意を秘めている点では違いはないのですが、その質は決定的に違いました。
ルナルートでは、失敗した場合を一切考えていない(そのように見えた)のです。
自分は絶対にルナの衣装を完成させて、兄を認めてもらうという絶対の自信が感じられました。
一方のユーシェルートでは、彼女が最優秀賞をとれなかった場合の自分の扱いまでもベットしておきながら、
その時は逃げればいい、もともと大蔵の名前に思い入れはないし、"生きてさえいればなんとでもなる"、
そんな、ワインセラーで生まれ変わった時の強さを感じました。
この違いについては天才のルナ、秀才のユーシェ、そんなパートナーの影響もあるように感じられます。
ただ、私としては、兄の思い通りになんかなってやるか、この人生を楽しくするんだと言う決意、
また自分から条件を引き出して交渉する、したたかさをユーシェルートでの主人公に強く感じました。


ところで、2度連続で挙がった、ルナルートの学院長室でのシーンですが、どうにも腑に落ちないことがあります。
まず、衣遠が「盗作」をした事実、これは覆せないし、ルナ達が訴えれば隠し通せないものとします。
その場合、ルナ達が訴えない理由が納得いきませんでした。
衣遠が言うには、もし盗作を公表した場合、
①ユーシェ、湊の実家に圧力をかける
②ルナを退学にする
③服飾業界に圧力をかけて、ルナが一生日の目を見られないようにする
この3点で脅しをかけてきました。
まず、①について、家の規模を、大蔵>=桜小路>フォンメール=花之宮(分家筋)>柳ヶ瀬 とします。
ルナの家の規模については、大蔵よりは小さいものの、財力による圧力には屈しない程度に大きいものと会話内容から判断できます。
とすると金銭面から圧力を掛けられて厳しいのは他3家となるのですが、同程度の財力を持つルナがいる限り、
大蔵が圧力を掛けてもルナが援助すれば、仮に4家合わせて大蔵に勝てないにしても、即死はありえないでしょう。
②については、そうなったとしても、別の学校に行くなり、再入学するなり手はあるので、脅しの内容としては微妙です。
最後に③について、朝日が衣遠に頭を下げた最大の理由がこれですね。
既に大成功といってよいほど成功を収める衣遠が、理由はあるとはいえ名誉あるクワルツ賞を辞退したルナを、
つま弾きにしたとなっては、ルナの未来は潰されたも同然です。
しかし、ここで問題になるのは、衣遠が「盗作」したという事実です。
常識で考えて、ファッションなど芸術分野で1度でも盗作が明るみに出て、現状を保てるかとなれば無理ではないでしょうか。
比較的にパクリ、パクラレに寛容な?アニメ業界でさえ、2度目のトレパクで追放された人もいるというのに。
しかも、大蔵は父の代で勢いが削がれ、現在は衣遠の立ち上げたアパレル関係の企業を中心に盛り立て直したそうな。
そんな屋台骨ともいえる部分に、盗作のひびが入ってしまえば、一気に崩壊してしまう気がします。
そうなれば③など到底不可能ですし、①についても先に猶予があると述べたように、脅迫内容としては微妙です。
さらに言えば盗作された側、つまりルナにしてみれば、盗作を公表してしまえば、
自分の作品が評価されることになるのですから、黙っている必要など微塵もありません。

以上を鑑みて、遊星があそこまで屈辱的な行為を強いられる妥当性も納得いきませんし、
また、上で述べたような穴を見逃してしまうルナには不甲斐なさを感じます。

また、ユーシェルートでは失敗した場合も含めて、主人公は兄を出し抜くことを考えているように読めましたが、
どうにもルナルートではこの後に及んで、兄の慈悲に縋ろうとする態度に見えてしまい、どうにも主人公が弱弱しいのです。
これが言いすぎだとしても、ルナでは「兄に才能を認めてもらう」、ユーシェでは「兄に才能を認めさせる」くらいの違いがあったと思います。

男の娘主人公ものというと、こんな可愛い子が~というだけでなく、
ぼろを着ても心は錦ではありませんが、いざという時には、そこらの男よりも、
度胸が据わって男らしいところを見せるというのが、肝ではないかと思います。


次に、大蔵衣遠についてです。
この作品ではラスボス的扱いなのですが、複数ライターのせいか、各ルートで、キャラが微妙にぶれて困ります。
というか正直、ルナルートでの彼は目に余ります。
ユーシェルート中、彼は、常に利害から判断を下す、と自分を評価していますが、その唯一の例外が、腹違いの弟、遊星だとも言っています。
たしかに、一見、激情家に見える彼ではありますが、ただ憎いという感情から誰かにはたらきかけているのは遊星だけでした。
しかし、遊星を憎みつつも最低限の体面は守っていた彼が、例え勝算があるとはいえ、違法行為、
しかもアパレル業界に携わる人間として、盗作までするものか?と疑問を覚えます。
また、もし仮に、そこまでしてしまうほどの憎しみがあるにしても、何らかの説明は欲しかったですし、
それほど憎んでいるなら、才能があるからといって、ルナルート最後に遊星の頭を撫でて弟と認めるのも、いまいち納得できません。

現状では、不出来な妾腹の子、という原因しかわからないので、
瑞穂、ユーシェルートでの対応はわかりますが、ルナルートはやはり、やりすぎという感想でした
このあたりも、ユーシェルート>ルナルートの判断基準の1つになっています。

とにかく「盗作」、これが問題なんですよね。
衣遠とスタンレーは互いの実力を認め合っているから友人なのだそうですが、
衣遠のした「盗作」っていうのは、サーシャの昔話に出てきた、「わざと失敗しようとしたこと」と同じくらいに
スタンレーに対しては裏切り行為ではないかと思います。
雌犬もしくは雌犬の子との関係で、衣遠をそこまで駆り立てる何かがあるというなら、
絶対に説明が必要だったのではないかと思います。


[3]そのた
瑞穂と湊ルート、それぞれ、女装バレルート、一般人ルートで特に面白くなかった。
もっとギャグ色に走って欲しかった。

エロシーンが全13回で定価10290円としてはかなーり少なかった。
一人5回は最低でも欲しい。
服飾の学校なのだから、ドレスエッチとかコスプレエッチは欲しかった。
特に、ユーシェがフィリコレで着た青いドレスでのシーンがないのはどういうことか。
「今日、一番輝いた女を好きにしていいのよ」ってユーシェに誘われて、女の裸を見ても立たないとか言ってる主人公を
辛抱たまらなくさせて、「今日は私がリードするつもりだったのに」的なシーンが欲しかった。

ルナルートで明かされる、ユーシェの家族との確執の理由がくだらなさ過ぎて、思わず笑った。
サーシャの衣遠への逆恨み?といい似たもの主従でちょっと胸がほっこりとしました。

ファッションについてはあまり突っ込みたくないのですが、
ガチのプロデザイナーを1人2人用意するくらいの意気込みが欲しかったです。

イチャエロ多めのFDを希望です。


以上、かなり長くなりましたが、大体全部感想は書けたと思います。


さて、次は、祝福の鐘の音のまりあがなずなんで待っているので(翻訳希望)、このあたりで。
サリュ (ごめんあばずれ と迷った)