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ryomarkさんのつくとりの長文感想

ユーザー
ryomark
ゲーム
つくとり
ブランド
rúf(ruf)
得点
90
参照数
1013

一言コメント

ツクトリ様は存在する

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「『つくとり』はどんな作品か」と問われたら、恐らく私は「ミステリー」でも「サスペンス」とでもなく、「人間ドラマ」と答える気がする。
解釈によってカバーできる範囲が途轍もなく拡がるから、それはちょっと狡い回答だと自覚しているが、この作品は“犯人が誰なのか”よりも、“どんなトリックだったのか”よりも、“何故犯行に至ったのか”がより明確に描かれていたからと感じた為である。

登場人物たちの自我は強烈で、行動は常に各々の信念に基づく。言わば『つくとり』は私闘の物語であり、己が正義の為ならば人を殺めることも厭わない。だから、いずれもの犯人は凶行に及ぶことに必要悪を感じることはあっても、行動そのものに後悔はしない。

偏に“動機”が鮮明なのだ。必要があるから、殺す。
この点において、本作は揺るがない。

その理由は当然ながら人物によって違い、各章後編、そして神代編にて一人一人の背景が徐々に浮き彫りになってゆく。この描写が見事だった。
それは私欲であったり、私怨であったり、遵奉、恐怖、集団心理だったりした訳だが、いずれの人物のいずれの事由にも過程があり、結果があったと感じることが出来る。理解、納得とまでは言わないが、同情の余地を感じる程には、その片鱗に触れるに至れるのである。

だから、彼・彼女らに狂気を感じつつも、どこか人間臭さを覚えてしまう。
これが、私が本作を「人間ドラマ」と評価する最大の理由である。


無論、ミステリーとしてもサスペンスとしても、『つくとり』は決して悪い部類ではないだろう。
一応本格“風”ではあるし、見える(または見えない)恐怖と錯綜する情報でプレイヤーを疑心暗鬼に陥らせる過程は、エロゲーのサスペンスとして、またはホラーとして上質といえる。

ただ、手がかりの小出しがやや粗雑であったり、所謂クローズド・サークルの形成に不備があったりと、ミステリーとしての質はさほど高くなかったり、緊張感の持続という点において度々楽観的過ぎる嫌いがある為、サスペンスとしてもホラーとしても手放しで褒めることは出来ない。
特に件の叙述トリックにおいてはかなりの力技で、これが最後の詭計かと思うと、これまで築き上げたものがふいになるようで、少々残念にもなる。


しかし、ゲームだからこそ可能なマルチエンドは、それぞれが一見綺麗に纏まっている為、スタッフロールが流れる度に単純な私を拍手へと駆らせたし、その都度出現する新章にて、その拍手が真相を知らぬ者の浅はかな喝采だと知り、浅慮な自分を恥じると同時に深いキャラ造形に唸らされた。

確かにゲーム性は無いが、こうした媒体の特性を活かした構成と、エロスだけではなく、題材そのものがコンシューマーでは禁忌とされるようなテーマとも相俟って、本作は真に18禁ゲーム足る作品をプレイしたと感じさせてくれた。これは実に久々の感覚である。


「信じる」ということは、時として非常に大きな力になる。この作品をプレイして、改めてそう認識させられる。

望んだのは、ひとひらの夢。その夢の為なら、人は鬼にも神にもなる。
十字架を背負ってでも貫き通そうとする強靭な意志に。そして、そうした信念を持ちつつも、“終わり”を迎えようとする彼・彼女らの表情に一抹の安堵が浮かぶことに。
取り消した3度の拍手と、神代編でやや弱くなった4度目の音量を考慮しても尚、どうにも仕方が無い人間の一面を見せてくれたこの作品に、「ありがとう」の意味を込めて5回目の拍手を送りたくなった。


“ツクトリ”様は存在する。それはきっと、人の心に“取り憑く”もの。実在するかどうかは、さほど重要ではない。
いると信じた時から、社会がそう認識した時から、それは単なる虚構を超越する。
それが恐らく、“月鳥”町に迷い込んだプレイヤーに対する、『つくとり』が仕掛けた最大の“とりっく”ではないかと、暫し愚考する。