キャラクターの行動に心を揺さぶられるのが“燃え”というのなら、一体どんなキャラクターにこそ、心は揺さぶられるのだろう。“燃え”易いのだろう。私は本作と『あやかしびと』の違いに、それを垣間見た気がする。
「……なんとかしろ! なんとかするから!」
「――了解しました!」
本編中盤のアッシュとリックによるこの会話こそ、『Bullet Butlers』という作品を象徴しているのかもしれない。
阿吽の呼吸と言っていい。そして、ここで必要なのは「信頼」唯一つだけでいい。
(以下、本感想は『あやかしびと』のネタバレを含みます)
本作が、過去を振り返ることが中心となる物語だというのは、回想シーンが如何に多いかで容易に判断がつくと思われる。それは、敵味方を問わない、主要登場人物のほぼ全員に存在し、命を吹き込むことに成功した大きな要因の一つでもある。
しかし、本作はそこに力を入れるあまり、物語の殆どを過去に引き摺られる格好となってしまったとも言えるだろう。
8割…いや9割方、本作のキャラクターたちは登場した時点で(もしくは早々に)、そのキャラクターが完成されている。登場人物たちの足場は強固に固定されており、時に見失うことはあれど、決してその立ち位置を動くことはない。簡単に言えば、彼・彼女には変化が殆ど無い。
そして、残された1割は恋愛要素に割かれる。リックは顔を向ける先が変わるだけであり、その周りはリックと彼に選ばれたヒロインをカップルとして認識することだけが、この作品におけるキャラクターたちの変化なのである。
これは、背景を歪ませること無く過去を描ききった故の、揺らがないキャラ造形と言えるし、それを裏打ちするように、それぞれのキャラクターは、それぞれの確固たる信念をプレイヤーに提示してくれる。
けれど、しかし、何処か物足りない。…何故か。それは、彼らが初めから完成されているが為に、入り込む余地が無いからである。
プレイ済みの方はわかると思うが、『あやかしびと』は武部涼一が如月双七に“なってゆく”物語である。
彼はすずに支えられ、おっちゃんに救われ、刀子に励まされ、愁厳と和解し、トーニャに認められ、虎太郎に教えられ、そして他の生徒会メンバーに迎えられて、漸く如月双七としての日々を手に入れることが出来る。
そして、それは勿論、武部涼一として薫や九鬼耀綱と過ごした過去があったからこそ。
また、これは双七だけに言える事ではない。彼という因子はすずの人間に対する感情を変化させたが、それは彼一人で成したものではなく、生徒会メンバーが担った部分も大きい。そして、生徒会メンバーも双七やすずから勇気や希望を貰っている。
要するに、『あやかしびと』はキャラクターそれぞれが影響し合い、変わってゆく物語だった(そして、如月双七と九鬼耀綱、二人の関係は決して変えなかったことが、よりその変化を顕著にしたともいえる)。
当然、『Bullet Butlers』もキャラクターそれぞれが影響し合い、変わっていった過去がある。むしろ、それが語られるシーンこそ、本作のキモと言ってもいい。
しかし、『あやかしびと』のそれと決定的に違うのは、本作においてはその過程が必ず過去形で語られることにある。
つまり、『あやかしびと』では積み上げられてゆく過程を、プレイヤーが双七の隣で感じることが出来たのに対し、『Bullet Butlers』はあくまで回想にて“過去にそういうことがあった”という事実を知ることしか叶わないのである。
嘗て9791氏は感想の中で、
「私たちは、設定に格好良さを感じるのではない。あくまでキャラクターの行動に心を揺さぶられて、それを“燃え”と感じるだけだ」
という一文を残した。
これを真実と仮定するのならば、『Bullet Butlers』と『あやかしびと』、どちらがより心を揺さぶる、“燃える”作品だろうか。
感想冒頭のリックとアッシュの会話が象徴するのは、過去が、経験が齎す、相手への信頼。その類のものは本編の随所で見て取れ、それがある故にリックたちは困難を打破してゆける。
しかし、そのそれぞれの信頼を勝ち得た瞬間に、私たちは立ち会うことが出来ない。セピア色の思い出の中で確認することができるのみ。
キャラクターの行動に心を揺さぶられるのが“燃え”というのなら、一体どんなキャラクターに心を揺さぶられるのだろう。“燃え”易いのだろう。
私なら“感情移入”という言葉がいの一番に浮かぶ。
本作の人物相関図は「START」を選択した時点でほぼ完成されている。だから、リックやセルマが最後に帰りたい場所が、最初から決まっている。
そして、トリスアの森に敷かれたブランケットにプレイヤーが座れる面積は、恐らく狭い。
それは、私たちが初めから物語の外に追い遣られている、何よりの証左ではないだろうか。
【雑談】
あくまで『あやかしびと』と比較して、という話です。よって、全体的なレベルは高いと思います(故の高得点です)。また、私が『あやかしびと』で最も感動と言うか“燃え”たのは、すずルートにて、新井美羽が九鬼耀綱を行かせまいとするシーンでした。「ペンは剣よりも強し」ではないですが、戦闘能力だけが敵に打ち勝つ力ではない、というのをこの作品でも見たかったところです。『Bullet Butlers』は敵も味方もとにかく強い者が勝つ、「弱肉強食」の世界でしたので。「名も無き守護者」のエピソードは、その可能性を秘めていたとも思うのですけれどね…。