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ryomarkさんの遥かに仰ぎ、麗しのの長文感想

ユーザー
ryomark
ゲーム
遥かに仰ぎ、麗しの
ブランド
PULLTOP
得点
89
参照数
1532

一言コメント

外的要因と内的要因、そこに違いが出た。言わば、最強の良作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本校ルートが主人公とヒロインの内にある、いわゆる内的要因を核とし、学院内で話が進むのに対し、分校ルートは前提として仁礼、相沢、陽道によるマネー及び陣取りゲームがあり、こういった外的要素が孕む問題を解決することが主人公とヒロインの二人が結ばれる為に必要な最低条件となっている。

無論、前者にも外的要因が絡んできてはいる(みやびは志藤との政略結婚。殿子なら鷹月家の存続。梓乃は若干弱いが、梓乃と殿子が鷹月家の問題により別たれそうになることがそれに当たるだろう)。
しかし、本校ルートのいずれの外的要因も作中ではさほど重要視されていない。みやびの婚姻は対外的には先送りされ、殿子はエピローグにて数行で解決、梓乃は問題の解決を別の道に見出している。
そのどれもがきっかけとしては重要だったが、あくまできっかけに過ぎなかったという訳だ。
従って、本校ルートで描かれたのは内在的要素、つまり人の内にある心を主に描いた物語であると、私は考える。

では、分校ルートはどうか。
こちらは3ヒロインそれぞれをお嬢様たらしめているバックボーン、つまり家や会社といった、彼女たち本人以外の要素が物語により深く関ってきている。
当然、同時進行として主人公との恋愛も発展してゆく訳だが、その最終的な成就には家及び会社の問題解決が必須となっている。
分校ルートは主人公とヒロインの二人に力点を置くのではない、外在的要素を軸にシナリオが展開されるといっていいだろう。

このどちらが優れているかは、最早各々の感覚に委ねられる。

本校ルートは学院内というごく限定的な範囲における人との繋がりを描いている為、登場人物、特に主人公とヒロインの掘り下げが非常に深い。少し俗っぽい言い方をするのならば、ハートウォーミングな物語。
これは主人公とヒロインの問題(設定・過去)を丁寧に扱ったといえるし、その解決が当人同士の触れ合いの中から生まれている分、キャラクターへの入れ込みが深くなる可能性も高い。
会話、心理描写を上手く使い分け、その過程を真摯に描いたともいえる。
しかし、これは見方によっては古典的典型、浪花節的ではあるし、時系列的な面白味も少ない。

逆に分校ルートは栖香→美綺→邑那という攻略順さえ守れば、物語の全体像が徐々に明らかになるという楽しみが存在するうえに、事態や人物などが学院内に限定されない、横の拡がりを望める。
が、日常描写と同時に家及び会社関連のシナリオを進行しなくてはならない為、主人公とヒロインに繋がりが出来た中盤以降はどうしても二人の描写が薄くなってくる。これは拡がりがもたらす故の弊害といえるだろう。
これを補う為か、分校ルートは本校のそれに比べ十四話と長めになっているが、後半(特に栖香と美綺ルート)における一話内の起承転結が曖昧でメリハリが無いため、冗長に感じてしまう。他、大切な愛情表現の一つであるのだが、エロチシズムに傾倒してしまったのも、読み物を求める者にとっては些か邪魔に感じるだろう(エロゲーとしては正しいのかもしれないが、匙加減というものはある)。


以上の点を考慮した上で個人的見解を述べるなら、私は本校ルートが分校ルートを上回ったと感じている。

というのは、シナリオの構成において本校ルートに分があると感じた為。
この作品のように「~話」といった話数形式とった際、重要なのは各話の繋がり及び流れ。
一話一話の中に小さな起承転結を持たせ、全体としてみたときに大きな起承転結になっていることが理想といえるだろう。
先にも述べたが、分校のそれは結局のところ家や会社の問題が解決しない限り、一応の完結すら望めない。故に、問題先延ばしという間延び感を受ける。これに対し、本校のそれは心の問題であるから、それぞれの一話の中である程度の完結を望めるのである(当然、登場人物内におけるその時点での自己完結であるため、物語の完全解決は最後になるが)。
この点において本校ルートは物語にメリハリが効いており、一話一話に起伏があって楽しい。それが毎話続き、尚且つ全体像としての起承転結に適っていたのだから、最早文句の付けようもない。

また、本校ルートの主人公が私の好みにより合致していたというのも大きい。
この点に関しては完全に好みである為言及は避けるが、本校と分校における主人公の間に違和感を感じるのは、やはり一つの作品として問題があるだろう。
これは無責任な発案だと思うが、シナリオライターによって得意とする主人公像も違う訳だから、本校と分校それぞれに別の主人公を用意すると上手くいったのではないだろうか。
そもそも分校ルートにおいて主人公の過去がそこまで重要であったとは思えないし、別の視点から見る滝沢司及び学院生というのも面白いと思うのだが(無論これによって物語の整合が更に難しくなるのは目に見えているが)。


他、以下キャラ別感想(この文体に少し疲れたので、やわらか感想)。ちなみに副題は適当なので、あまり気にしないで下さい。


みやび 「家族計画 ~そして新たな家族計画を~」
みやびとリーダの二人三脚が実に楽しいシナリオ。コメディとシリアスのバランスが最も取れているのも特徴。みやびの魅力を倍増させた北都南さんは凄い。ちなみに志藤由をみて「コイツは男装の麗人だ」と思ったのは私だけではないハズ(…いや、まだその可能性は残っている)。とりあえず主人公はリーダさんも女性としてきちんと幸せにして下さいね。

殿子 「ぱぱらぶ」
一度心を許したが最後、どこまでも信頼を寄せるクーデレ殿子。可愛いです。理想の父親から理想のパートナーへの転換はまあ普通といった感じでしたが、飛行機のくだりは青春っぽくて○。少年っぽいけど大人、滝沢司が最も光ってるシナリオではないかと。あと、鍋はずるい。じーんときました。

梓乃 「遥かに仰ぎ、麗梓乃」
梓乃が成長したのは、彼女の努力と主人公たちのおかげ。主人公が救われたのは彼女のおかげ。愛は強い…。このシナリオに限らず、坂水先生が捨て駒だったのは少々残念。

栖香 「それは舞い散る桜のような、けれど輝く櫻のように」
分校ルートの中でも特にシナリオとエロに泣いた、損な役回りのキャラ。彼女自身は魅力的でしたが、それだけで引っ張るにはこの作品は重過ぎるかと。

美綺 「Dear My Partner」
キャラクターとしては一番好きでした。みやびーに押されがちですが、安玖深音さんいい仕事してます。エロゲーの正しいネコ口キャラは、プレイヤーの嫌がることはしないのだ(経験上)。

邑那 「車輪の家、鬱金香の少女」
上二人とは逆に、シナリオで得した分校ルート真打キャラ。…が、もうちょっと主人公を手玉に取ったりなんていう、彼女の策士っぷりが見たかったかも。

(閑話休題)

…さて、以上を以って結論に入るが、やはり多くの点で本校ルートのクオリティの高さが光る為、どうしても惜しいという印象が拭えない。
そして非常に勿体無いのがエピローグ。キャラクターに校歌を歌わせるのだったら、もう少し舞台を整えるべきかと。それこそベタだが卒院式にしたりと。
他、CGは少々枚数が足らないと思うが質は高く、音楽(ボーカルは若干落ちるが)、システム等にも簡単には落とし所が見つからないのは素晴らしい。

言うならば、最強の良作。PULLTOPは過去最高の、いい仕事をした。


戯言

これだけ書いておいて戯言もあったものじゃないですが、やっぱり本校ルートの出来は凄かったです。全篇を通しての雰囲気がとにかく優しくて、温かい。そりゃあ確かにここ、凰華女学院は理想郷のような場所です。でも、そう感じられたのは、主人公・滝沢司自身の努力によるもの。現実だって、見方によって変わるよな…なんて、これはホントに戯言。楽しい時間でした。