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ryomarkさんのサナララ ~SA・NA・RA・RA~の長文感想

ユーザー
ryomark
ゲーム
サナララ ~SA・NA・RA・RA~
ブランド
ねこねこソフト
得点
87
参照数
556

一言コメント

久々にプロの仕事を見せられたような気がします。計算されたテキストとカメラワーク、選曲とそれを流すタイミング。実に巧妙で絶妙。演出の恐ろしさというものを、改めて認識させられました。そして、4つの温かなエピソード。 それは、奇跡のような7日間。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

話はとても解り易く、シンプル且つ王道。なので、展開を読むことは容易だと思います。
伏線然り、台詞回し然り。
しかし、わかっていても「やられる」。その力がありました。

どこまでもポジティブで前向きなストーリーは、一つ間違えば押し付けとなり、嫌味と捉えられてしまうものです。
けれど、前向きな姿勢というものは、きっと誰しもが望む、普遍性をもつもの。
誰だって後ろ向きに生きたい訳じゃないはずです。

だからこそ、上手く、嫌味無くもっていった『サナララ』は凄い。


2章を除く章の主人公、ヒロインはなんらかの挫折を味わっています。

絵、陸上、世界、恋。

彼、彼女は大切なことに絶望しかけ、諦めかけています。
一生懸命やってきたからこそ、上手くいかないことに苦しみを覚えます。


世の中というのは、自分の思う通りには中々上手くいかないものです。
たとえ挫折ほどの経験は無くとも、19才以上で大人である私たちは、それはある程度身をもって知っている筈です。
だからこそ、ここに共感を覚えるのではないでしょうか。

また、エンディングを迎え、再び歩き出す彼らの姿を眩しく感じること。
少し青いなと思いつつも、本当は羨ましく思うこと。
そして、「俺だってまだやれる」と思わせてくれる何か。

それは、自分たちにもチャンスがあると、このゲームが教えてくれたからではないでしょうか。
登場人物たちが結局叶えた願いは、どれも「一生に一度のチャンス」が来ずとも、掴める距離にあったものでした。
ただ、ほんの少し見落としていただけ。休んでいただけ。


本当は奇跡なんていらない。
少し顔を上げて、少し胸を張れば、それでいい。


サナララ色に囲まれた、5月のライトブルーの空。
全てのエピソードを終えた後のタイトル画面が、私にはとても優しく映りました。


さららと吹く春風が、少しの勇気を運んでくれる。
だからきっと、明日、明後日も私は笑っていられる。




余談 

ねこねこさんの最新作にして最終作である『スカーレット』のおまけにサナララのショートシナリオがあったのでやりました。
本編のキャラのおまけシナリオかなと思ったら、新キャラによる新たなエピソードだったので驚きました。
おまけですから、内容は本編に比べ短いですが、それでもしっかり『サナララ』してました。
0.5話といった感じですが、もう少しこの世界に浸っていたいという方は、是非プレイしてみることをオススメします。


本当に今更ながら、ねこねこソフトさんの解散が惜しまれます。