それは哀しい愛を描いた、良質の「物語」
本作『カルタグラ』は最高級のグラフィックと音楽に彩られた、良質の物語でした。
確かに幾人が仰るように、主人公の過去の描写不足など、シナリオが手放して褒められるという訳ではないですが、設定投げっぱなし、もしくは設定だけに頼りきったシナリオが横行する最近のエロゲ界では珍しく、きちんとカルタグラの世界を構築・完結させたことは評価に値すると思います。
ただ、この作品が良質のミステリーかと問われれば、それは少々疑問符が付くことになります。
元々、ミステリーはよっぽど特殊なもの(ファンタジー要素等、現実にそぐわないもの)でない限り、犯人当てというのは易しいものです。殺人ものとなると登場人物の数は減少しますから、尚顕著です。さらにゲームともなると、絵のあるキャラの中に容疑者がいるのはまず間違いないでしょうから、終盤になれば殆どのプレイヤーが犯人の目安を付けることが出来るはずです。
そう、ミステリーの本質はトリックにあります(というか常識ですね)。
完全犯罪となるとミステリーになりませんから、犯人が綻びを見せるのは当たり前ですが、基本的に計画的犯罪というものは成功率100%を目指して行うものです。
カルタグラはその部分において、運や状況に頼ることが多かった気がします。つまり、犯人にとって都合の良い展開が続くことが、ミステリーとしての質を貶めてしまったということです。
ただ、このカルタグラを一つの物語としてみるなら、決して駄作の部類にはならないと思います。
美麗で雰囲気のあるグラフィックと音楽、洗練されたシステムといった、好材料に恵まれた結果もあり、キャラクターたちがきちんと生きているのを感じられましたから。
テキストに無駄が少なく、狂気というものもよく表現されていたと思います。動機にも納得できます。恋愛に関しては少々描写不足だと思いますが。
まあ、主人公が主人公然していないことが多少気にはなりますが、七七(…は少し反則気味)・冬史・雨雀といった、脇役がいい味を出してましたしね。
楼子と凛は残念といえば残念ですが、そこは少しギャルゲー(エロゲー)脳のなせる技かなと。そこまで求めるのはお門違いかもしれませんね。
ともあれ、私としては「妄執と狂気に至る愛」、確かに感じました。
今だから言えます。真のヒロインはやはり上月由良だと。
ところで、そろそろ入れ替わる双子出すのやめませんか。嫌いじゃないですけど、最近多い気がします。入れ替わるって誰もが予想する時点で、この設定は「負け」だと思うのですが…。