画龍点晴を欠く。少年少女の挫折と再生を描いた、名作となり得たはずの作品。
淡く澄んだノスタルジーの中に、鋼のような意志を秘めたテキスト、
小ネタをふんだんに織り交ぜる練りに練られたシナリオ、
素晴らしく耳が良いであろうコンポーザーによるBGM、
存在感に溢れ、繊細な表情を描き出す絵、
場面展開のリズムの良さ。
こうして列挙していくと隙の無い傑作だと思う。
しかし下記の致命的な欠点がある。
・帆月のミスキャスト
・男性キャラ・サブキャラに声が無い
帆月は個人差があると思うのでともかく、
これほどのシナリオを書いたのであれば徳之進や克也、etc…に
ボイスを付けるのが自然であるはずなのに。
これは残念でならない。
さらにOPが無い、あまりにも簡素なパッケージ…
ここら辺に予算不足であることが垣間見えてしまい、正直痛々しい。
シナリオについて、難解というか、一番の疑問は主人公の設定だと思う。
生霊である敬介が転校生として御室学園に入学し
失意にある新聞部の仲間たちを再生させることで、成仏する。
で合ってると思うが
「失踪後の圭一」を明確に描写しないこと(それ自体は必要であると思う)
を徹底しているためやや分かり辛い。
さらに下記の構成の中で①が分岐していないというか、
涼ルートにおける未来であるため、さらに分かり辛い。
①敬介=悲劇の現在
②圭一=過去の記憶
③悲劇を脱した現在=敬介が皆の記憶から消える
圭一は全てのルートで「失踪」しており救いもへったくれも無いが、
涼ルートでは山県さんの代わりとして帰還している…かもしれない
という含みを持たせているのが、矛盾を覚悟の妥協点なんだろう。
あとは②圭一編開始時に①を夢としていたり
澄子が「けいいち」と呼ぶシーンなど、
シナリオに含みを持たせる遊び?と思われる点がいくつかあったり。
ここは調整不足と言われても仕方がない部分だと思う。
1ヵ月延期して、体験版も無かったし。
作品としては、タイトルロゴのようにひび割れてしまっている部分もあるが
それでも内容自体は素晴らしく、楽しめた。
完全版前提だったら悲しいけどな。