ErogameScape -エロゲー批評空間-

rotten_skyさんのBLACK SHEEP TOWNの長文感想

ユーザー
rotten_sky
ゲーム
BLACK SHEEP TOWN
ブランド
BA-KU
得点
99
参照数
243

一言コメント

街を舞台にした群像劇で年代記に近いかもしれない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・冒頭に登場した物乞いの少女は、存在するだろう元締めの下心のみで書かれた「神はすべてを愛している」という札を置き残し、男に買われ道を去った。打算で育まれた純真な理想が捨て置かれ、結局は現実に食い荒らされる。同じような事例をいくつも思い浮かばせることができ、とても示唆的で僕の好きな挿話だ。
思えばY地区の旧世代にあたるクリスや路地は生命そのものに意味はなく何を為したかによってその価値が決まると言い、一方新世代の亮や道夫は命それ自体に価値があると言っていた。これも打算、もしくはリアリズム的な思考の大人と彼らに育まれた理想主義者の子供たち、という風にも考えられる。そして冒頭の挿話の通り亮はYSを継ぐと、命に価値があるからこそ効率的にと言って多くの血を流させ、道夫もまた解放軍の隊長として屍の山を作り上げた。彼らの夢想が、現実の状況によってスポイルされた瞬間だった。道夫がフェルナンデス襲撃の前に(フェルナンデス襲撃後、病院襲撃前かもしれない)他者理解と命の価値を語った直後に銃とサイキックで人を殺す姿は気味悪さを超えて滑稽だった。また、大人世代にラディカルな理想主義を掲げるものはいないとはいえ、馬明も、亮死後のトミーも、ローズクラブのアダムも、(八龍会や一部の患者にとっては)病院さえも持っていた理念と現実の乖離に、彼らは苦しんでいたりしてなかったりしたかもしれない。
ちょっとニュアンスは変わってしまうが、プレイヤーの灰上姉妹に対する印象の変化も同じようなものだと思った。灰上姉妹は意図的に悪く描かれ、終盤で初めて彼女達の行動の「筋が通っている」様が示される。プレーヤーが彼女に初めて抱いたイメージを視野狭窄的に持ち続けたら彼女たちの人物像を理解できないだろう。もっと言うと、馬世傑がYSを抜けた理由は明かされないが、これのために世傑を理解できなくなっている人を多数見かけた。しかし誰かの行動の意図が最後まで分からないのは現実では普通のことで、これによって敵意や悪意を持つのは悲しいことだ。
本作はマルチサイトを通して様々な人物の生き様を見ることができるが、現実にはそうはいかない。僕たちは病院襲撃を笑うことはできない。不理解ために理想が不寛容に変わることなんて常日頃から起こっているからだ。このために人を想う想像力が大切だと言う人がいるけど、全ての人に想像力が備わっているはずだ、備わっていてほしいという理想が透けて見える。