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ritz_fawcettさんのハロー・レディ! -Superior Entelecheia-の長文感想

ユーザー
ritz_fawcett
ゲーム
ハロー・レディ! -Superior Entelecheia-
ブランド
暁WORKS
得点
75
参照数
581

一言コメント

ただの娯楽小説として読むかテーマに着目するかで印象が変わります。後者だと心に響くものが無い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


※シリーズ通じて初見プレイです
※ネガ寄り感想なんで閲覧注意





本作は、意志決定の重要性を説いた物語。

意志を持とうが持つまいが、人の生き死には理不尽に決まる。それでも人生の最期に後悔しない生き方が出来るのは、自らの意志で道を選んだ人間のみだというメッセージを、復讐劇を舞台に盛り込んだストーリー。


テーマ自体はありふれたものですが、その表現が直截的すぎるのが目につきました。
主人公の成田真理は意志を持って生きよとヒロインに説いて回りますが、敵役である時乃や黒船もまた同様に意志の力が人間を高みに辿り着かせるとはっきり主張します。テーマに対して反対意見を持つものがいないため、端から結論が出ている事を延々と繰り返すのみで、読み手への問いかけが皆無です。

たとえば、「命を助けることの正しさ」を説こうとすれば、苦痛を伴う延命処置の是非や医療経済的な問題について等、様々な角度から問題を論じることで深みが増します。

この作品で言えば「確固たる意志に基づいた復讐は容認されるか?」(言い換えれば、意志があれば何をしても良いのか?)という問いを深掘りすることでテーマについてもっと思考する余地が生まれたと思うのですが、これについても全員がYESの立場であり異を唱える者がいないために、書き手の主張に一面的な押し付けがましさを感じさせます。ありていに言えば主人公全肯定物語です。


あるいは、主人公が7年前の欠落からどのようにして現在の頑強な意志を抱くに至ったかの過程を描けば違ったものになったでしょう。意志を持って生きるという意味を、主人公が悩んで悩んで見出したのならば説得力もあります。しかし、作中における成田真理の過去の描写は圧倒的に不足しています。つまり成田の人生経験に依拠する高説には言葉の重みが欠けている。ゆえに彼が説く“意志”にも設定上の重みしか感じられない。


以上が本作のテーマが心に響かなかった理由です。



娯楽の観点からですとまた違った感想になります。


序盤~コレオグラフでの爆破事故まではとても面白かったです。
美鳥&朔とのバトルでようやくヒロイン達の能力や戦い方を知ることが出来ましたが、あそこでもっと能力者の異彩、クラウンの凄さをお披露目してほしかったところです。事件への突入が早すぎますよね。ヒロインらの個性が復讐劇という大きな流れの中に埋没してしまった感があるのはもったいなく思います。

美鳥の退場は…うん、寮で一人だけ私服の立ち絵がないから何となく察してました…大人の事情で消されてしまったんでしょう。美鳥好きだったから悲しいですね。

珠緒~空子ルートの途中までは芯の通った復讐劇で楽しめました。しかし珠緒ルートの黒船はなぜ大義の銃弾一発で瀕死になってしまったのかは気になります。他ルートでは銃火器なんてものともしない怪物なんですけど。

そこからは復讐劇と異能バトルどっちつかずの話が続いたのであまり熱中出来なかったんですが、朔ルートの終盤は異能バトルに振り切った熱い展開で、諸々の謎解きについても筋の通った内容で満足しました。

復讐者の末路はロクな事にならないというステレオタイプなオチにせず、読後に爽やかな印象を残してくれたのは良かったです。


バトルシーンについては全体的に物足りないですね。こういう異能バトル物を面白くするには、

・能力を事前に読み手に開示すること
・能力に制約を設けること

この2点が必須だと思ってます。これらが無ければ戦いに読み合いは発生せず、異能の大小で勝負が決まってしまう大味な展開にしかなりません。なので強い相手に勝つには本作のように後出しで最強能力を持っていました、とするしかないんですよね。クライマックスシーンであればノリと勢いで押し切るそういった展開も充分アリだと思いますが。


追加ルートでは菱吾ルートが好きでした。
意志を持たない道具であった菱吾が、意志を持って道具となろうとするお話。テーマ性も込みで最も綺麗にまとまったストーリーだったと思います。



以上、長々と書きましたが総括しますと、非凡な作品であるとは言い難いがエンタメ小説としては充分及第点は付けられる、です。

文学的教養があり迂遠な言い回しを好むライターが、テーマについてはどうしてこうも簡明に読み手に押し付けてきたのかはわかりません。作品のテーマとはもっと作品を通じて自然に感じ取らせるべき物だと思います。
それでも全体として綺麗にまとまったように映るのはひとえにライターの基礎筆力の高さでしょう。

『るいは智を呼ぶ』が好きな作品だったので同ライターの本作をプレイしましたが、るい智ほどの楽しさが得られなかったのは残念でした。