コメディ経由、感動行き。声優部を取り巻く夢と可能性の物語。良作だがあと一歩爆発力に欠けると思っていたら最後の最後で泣かされた。アペイリアのギミックとロジック以外の部分が楽しめた人はぜひどうぞ。
主人公のパートボイスが良い味を出していて、共通は今までプレイした作品でも1,2を争うぐらい笑いました。
範野氏は若者言葉やネットスラングにも精通してるわ、SFやロケットも生み出すわ、その引き出しの多さに驚かされます。ドS、引っ込み思案、アガリ症のむっつり、おっとりお嬢様とキャラの書き分けも巧みだから、個別で似たようなストーリーが続いてもマンネリに感じませんでした。
共通で笑わせて個別ではネタを控えめにシリアスに持って行くのはアペイリアでもそうでしたし、ライターのそういう色なんでしょうね。ただ一つ気になるのは、前作同様、主人公が個別に入ると途端に振る舞いがイケメンになるところ。女子と積極的に手を繋いだり、告白されても大して動揺せず即セックスに持ち込むとか、声豚のくせに三次元の扱いに慣れすぎでしょう。もっとキョドってもいいんですよ?
今作はヒロインの名字が「マヌカ」「百花」「リンデン」と珍しい物だったのでピンと来ましたが、蜂蜜の名前から付けられているんですよね。野原はちみつは聞いたことないけど野生のはちみつって意味でしょうか。
ちなみにマヌカハニーの効用といえば『咳に効く』ことで有名ですが、ゆうルートにおいて、“マヌカのことば”一つで咳が止まる所は洒落が効いてましたねえ。声優の声にはヒーリング効果があるってことと掛けて名字に蜂蜜を用いたんでしょうね。
ここからは内容の話ですが、一番感動したのは詞葉ルート、個別で良かったのは奏ルートでした。
部活も大事だけど、声優になる夢をもう一度掴みたいと願った詞葉が最終オーディションで見せた演技は、桜川未央さんの声も含めて非常に胸を打つ物がありました。ただライバルの詰草愛ちゃんの演技は、その凄さを私には「声」で感じることが出来なかったかなーと。この辺りの演出だったり、全体的に低予算が窺える作りだったりってのはマイナスポイントになってしまいましたね。
また、最後の卒業公演も詞葉の演技シーンと同じぐらい好きです。未来を先取りした学校からの卒業と、アマチュア声優活動からの卒業とのダブルミーニング。詞葉の夢を応援するだけじゃなく、自分達も必ずそこに行くから待っててと後押ししてくれる3人の姿を見て、真の仲間ってこういうもんだよなあと思わず涙してしまいました。
それと、詞葉が再び夢に向かって動く切っ掛けになった、奏ルートの主演賞後のスピーチも良かったです。あそこは普通の作品だとエピローグで歩けるようになったシーンまであってもおかしくないんですが、奏に限らずどのルートも一貫して、それぞれが「夢への一歩」を踏み出した所で終わりになっています。声優業界の厳しい現実を見せることは無く、さりとて都合の良い未来を作ったりもせず、あくまで可能性の物語として閉じられています。
夢を見たっていいじゃない、それが若者の特権だもの。と言わんばかりの夢と希望に満ちた眩しい作品でした。