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ritz_fawcettさんの月に寄りそう乙女の作法2の長文感想

ユーザー
ritz_fawcett
ゲーム
月に寄りそう乙女の作法2
ブランド
Navel
得点
90
参照数
467

一言コメント

作中で長い月日が流れた前作のキャラの名前が出てくると懐かしさを覚える反面、朝日やりそな達の壮大な物語は彼らの人生のほんの一部分を切り取ったに過ぎなかったんだなと妙にうら悲しさを覚える。そんな感傷はさておき、今作は続編としても単体としても優れた出来。特に共通ルートは全ての作品の中でもトップレベルで楽しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

攻略順 エスト→パル子→朔莉→ルミネ
面白かった順 朔莉 エスト ルミネ パル子


今作の内容を一言で表すなら「恵まれた甘ったれが偉大な両親から精神的自立を果たす物語」


その中でも朔莉ルートがめっちゃよかった、もうめっちゃ好き。つり乙の世界観的には前作ルナ様√を追想させるエストルートが一番だけど、恋愛物としてみたら朔莉√が断トツだった。周囲に迎合しない一匹狼スタイル、あのすまし顔から放たれる毒舌、白髪に反応して変態行為に走る姿、全てが魅力的な朔莉さん。でもそれらは女優として生き残るため、貞操を守り抜くための仮面であり、素の彼女はおっとりと方言を操るどこにでもいるありふれた女の子に過ぎなかった。ストーカー染みた朝の挨拶が全て才華への献身だったと判明した時は、彼女の一途な想いに胸が熱くなった。朔莉√だけでなく、他三人の√においても才華に無償の好意を捧げ続ける朔莉さんは本当に魅力的だった。そして幼い頃の初恋が成就するってシチュエーションも好き。欲を言えばフィリコレの舞台シーンは声付きで演技を魅せて欲しかったかな。ラストの、ルナの影を追うのを止めて朔莉という光を選んだっていう締め方も4ルートの中で一番綺麗だと感じた。

初恋って意味ではルミネルートも同様に良かったけど、あっちはルミねえの若干めんどくさい性格と、ランウェイすらまともに歩けない才華くんの王者の資質(笑)がやや足を引っ張った。あとHシーンの多さが個人的にはネックで、終盤に3回もHシーンを挿入するせいでシナリオの締めの満足感がやや物足らなかった。
というか前作から思ってるけどこのライターさんわざと終わり際をあっさりさせてるよね。Navelブランドの方針として、読後に毒気を残さないというのがあるような気はしてるけれど。凄く力のあるライターさんだから個別でも重々しい話を書こうと思えばいくらでも書けるだろうし、一度制約無しにこのライターさんの家族を作ることを目的とした物以外のシナリオを読んでみたいなと思った。


それから、カトリーヌが『乙女理論』の修道院にいたあのカトリーヌって判明して、メリルと電話するシーンは涙腺が緩んだ。
ゲームでは個別ルートを○○ENDなんて呼び方をするけれど、決してそこで人生は終わりじゃなくて、正史として朝日と結ばれなかったヒロインやサブキャラ達にもそれぞれの生き方があって、それがこの先もずっと続いていくんだなって思わせてくれた。


事前の期待に違わず、一行一行が味わい深く読み応えのあるテキストで、またメインキャラだけじゃなくアトレやジャス子、九千代といったサブキャラにもそれぞれ個性があり、どこを切り取っても楽しいと感じられる作品だった。乙女理論同様、また何度でも繰り返してプレイしたい。



http://sirotamablog.jugem.jp/?eid=700#sequel

こちら東ノ助さんが書かれたリリア、りそな、ジャス子の公式SSになりますので、興味がある方は一読してみて下さい。

>「私は昔の……旧い知りあいと話していました。私にとって、とても大切な人。友人と呼べるような関係ではないけれど、私が最も影響を受けた人の名前を挙げるなら、誰よりも真っ先に思いうかぶ、感謝すべき人です」


リリアがりそなのことをこう呼べる日が来るなんてね…。