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ritz_fawcettさんの乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-の長文感想

ユーザー
ritz_fawcett
ゲーム
乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-
ブランド
Navel
得点
94
参照数
384

一言コメント

東ノ助さんの描くキャラクター心理は格別ですね。特に語り手による他者の心境推測はこの業界でズバ抜けて秀でていると思います。寝食を忘れて熱中できる作品は久しぶりでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

推奨攻略順にりそなを最後にしたほうが良いとあったので、
メリル→エッテ→ディートリンデ→衣遠&駿河→りそな の順でプレイ。

ただいつも思うのだけれど、一番良いルートや一番好きなキャラを最初にクリアするのが最も作品を楽しめるような気がしている。共通からの流れでそのままスムーズに個別に入っていけるから。
最後にやったりそなルートは4本のENDを見た後だったし、既読スキップを使いながらだったので一体今どういう流れだったっけ?とちょっと混乱した。
既読文章を流さず読めばいいと言われればそれまでなのだけど、短期間に同じ文章を二度読むのは苦痛だし、何より一度目よりも鮮度が落ちるので感動が薄れてしまう。





以下ネタバレあり。


■共通~メリルルート

ここまでが一番面白かった。メリルと懇ろになる過程も、その出生の秘密が明かされる所も、何より日常の何でもないシーンがとてもよかった。
こっちは朝日に自己投影してて、もし女装がバレたら「神に背く行為です!」と糾弾されるかも?とドキドキしながらプレイしてるのに「じゃあ私は朝日さんと結婚出来るんですね」とあっけらかんと言われたところは笑った。

Hシーンは薄めなのはわかってる(というかそれが好ましい)のだけれど、このルートでキスってあったかな?そもそも恋人同士がするようなデートや手繋ぎやキスといったのがほとんど皆無だったような気がする。隣人愛から始まる愛ってことでそういう過程をすっ飛ばしたって理解でいいのかもしれないが、メリル好きの自分としてはもっとメリルとふわっふわな会話を楽しみたかった…。

終盤、大蔵朝日を仮の頭首にして云々…という急転直下のオチははっきり言って納得いかなかったが、
大蔵家のお家騒動はりそなルートで詳しくやるんだろうなあと思い、不満の声を呑み込んだ。

そういえばエッテが一番輝いてたのはこのルートだったね。赤のドレスは作品を通じて一番美しかったよ。




■エッテルート

エッテほとんど話に絡まない。『その後の周辺』でエッテが救済されたという話だけは耳に挟んでて、何の事だろ?と思ったらこういうことかあ…。
でも嫌いじゃないんだよなこのルート。欧州人らしくサバサバしてるエッテとドロドロの恋愛劇なんて見たくなかったし、好きと決めたら一直線なとこがエッテらしくてよかった。

問題に直面したら二階から飛び降りて自傷すれば解決だ!ってなっちゃう日本人とは違いますね。


■ディートリンデ&衣遠駿河ルート

ほとんどBAD扱いなので割愛。日本語喋れたのかよヴァリー!?が一番の驚きポイント。



■りそなルート

んーーー、家督争いを壮大な問題にしてる割に、その解決とその後の展開があまりにあっさりすぎたかも。
陰湿で凄惨な一大財閥のお家騒動が、実は身内全員根は良い人で万事がハッピー、意地悪してたクラスメイトも反省して問題は無事解決、全てが恙なく大団円、というのは期待してた展開とは異なった。キャラクターが自然に振る舞った結果にそうなる分には全く構わないけれど、大団円に持っていくためにキャラを動かす展開は好みではない。
リリアの設定も少々無理がある、あそこまで底意地の悪い性格で取り巻きにもその本性を見せていたのなら、友人のエッテやユーシェがその本質に気付けないというのはおかしい。物語を盛り上げるための装置として作られた敵という感があって、ある意味気の毒な存在。
リリアの立ち位置を“幼少期のトラウマで異国民に差別心を持ってはいるものの心根には優しい部分を持っており自分でもその両義性に悩む存在”辺りにしておけばここまでの違和感はなかったと思う。あの豹変はちょっとやりすぎかな…。お兄様との和解とかホロリとくる場面もあったのだけど、総じて話の本筋には納得行かなかった。

このルートの見せ場は深夜のルナ様登場シーン。やっぱりルナ様がメインヒロインだった、お慕いしておりますお優しいルナ様。あそこでプレイ中断してもう一度つり乙ルナルートやろうかと思った。

りそなルートがネガティブな感想になってしまったのは、りそなと恋人になる展開を求めてなかったという理由も大きい。公園で走り回って「お兄ちゃん!」って呼んでるりそなは最高にかわいかったけど、恋人としてより、ずっと仲の良い兄妹でいてほしかったのが本音。




■総評

着る服ひとつで世界は変わる、着たい服を着て、したいことをするのが人生だよ、というメッセージは伝わってきた。それを表現するのに近親愛、倒錯愛を持ちだすとは良い意味でぶっ飛んでる。けどそういうのを一切不快に思わせず描きあげるのが上手いなーと感じた。俺つばの頃からブランドの方向性として読後に嫌な気分を残さないような作り方にしてるんだろうなとは思う。

何より日常シーンが楽しくて、個人的には共通ルートだけなら満点に近い出来だった。つり乙共々、数年後にまたプレイしたいなと思える内容だった。


後日譚のその後の周辺はやるつもりだけど、つり乙2はどうしようか迷い中。つり乙・乙女理論から評価がやや落ちてるのが気になるところ。




※追記※
シリーズ全てプレイした後、再プレイして大分印象変わったんですが、一周目に感じたことも残しておきたいんで修正せずにおきます。乙女理論、本当に名作でした。