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rinjunさんの春季限定ポコ・ア・ポコ!の長文感想

ユーザー
rinjun
ゲーム
春季限定ポコ・ア・ポコ!
ブランド
ALcotハニカム
得点
75
参照数
217

一言コメント

想像よりシリアス成分多めな話でしたが、それなりに楽しめました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

好きな声優の一人である桐谷華さんの出演作品が、雑誌の付録として収録されるという話を某所で見かけて購入。タイトルの響きとストーリー紹介から、明るい青春部活モノを想像していましたが、期待に反してシリアス成分多めの真面目な作品でした。

あらすじとしては、『バイトに明け暮れて音楽活動を疎かにした主人公・野々宮彼方が、特待生資格の剥奪を理由に音楽活動を再開する』といったもの。このあらすじが勘違いの原因となったのですが、音楽は問題を解決するための手段に過ぎず、本当のテーマは辛い現実との向き合い方、であったように感じました。

以下、各ルートの感想です。

【桜】
抑揚のない話し方と突拍子もない言動をする不思議ちゃん。話題の起点となることも多いムードメーカーな一面もありますが、個別ルートの内容は一番シリアス。というか重い。バイト先でのトラブル、練習の妨害工作、春花の死の原因等、様々な出来事が桜の精神をズタボロにし、震える手を縛り付けてでも練習を続けたのに怪我を理由に演奏を中止させられる。その後の性的な快楽に逃げようとする桜の姿は、痛々しくて見ていられませんでした。最後は一応ハッピーエンドで終わりますが、正直ここまで悲惨な目にあわせる必要があったのか疑問です。

【藍】
重度なブラコンの義妹。「ブラコン舐めんな!」は名言。このルートで面白いと思ったのは実妹を出したこと。義妹が出るエロゲ、実妹が出るエロゲは数知れず存在しますが、義妹と結ばれた後に実妹を出して一波乱、というのは珍しいパターンで新鮮でした。また、彼方も兄として格好良かったのが好印象でした。どちらかの妹を選ぶのではなく、血の繋がっていない藍を支えつつ、ほぼ初対面の遥のために特待生資格を犠牲にしても頑張る。本当に良いお兄ちゃんでした。「シスコン舐めんな!」と言うだけあります。
あと、妹の話だけなく、失踪した両親の話もありましたが、けっこう重要な内容なのにさらっと流されていて描写不足に感じました。その点はもっと掘り下げてほしかったです。

【夏海】
普段は彼方に対して攻撃的でありながら、彼方に握られた手でオナニーしたり、可愛いと言われて大声で喜んだりするツンデレ。しかし、彼方の想い人は夏海の姉の春花であり、春花は一年前に亡くなっているため、複雑な関係になってしまっていた。その問題に向き合うのがこのルートです。
最初は二人とも春花の死を受け止めきれず、夏海は春花のフリをしてメールを送ったり、彼方は夏海に春花の代役を頼んだりする。心情的に仕方なかったのかも知れませんが、春花の代わりと言われて「(T_T)」の顔文字を使った夏海を想うと辛いものがありました。
次に、前に進むために春花の死を受け入れる。夏海は春花のコピーをやめて自分の演奏をし、彼方も新しい演奏に挑戦するが、心に迷いがあるのか以前の演奏より完成度が低くなってしまう。その理由は後で判明しますが、この辺りの描写は上手いと思いました。
そして、最後は自分の気持ちと向き合う。亡くなったからといって無かったことにせず、春花のことを好きだった気持ちは忘れずに、夏海の存在を認めて愛する。死と向き合うとはどういうことか、重たいテーマでありながら丁寧に描ききっており、ラストの展開は涙腺に来るものがありました。


【総評】
主人公やヒロインが問題と向き合って成長していくさまが丁寧に描かれており、良い作品でした。ただ、ミドルプライス作品なので、ボリュームやおかずとしての実用性は期待しない方が良いです。