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rhknogoさんの和香様の座する世界の長文感想

ユーザー
rhknogo
ゲーム
和香様の座する世界
ブランド
みなとカーニバル
得点
85
参照数
973

一言コメント

記紀神話を下地としたストーリーながらも、ぬらりひょん編あたりまではみなと作品らしい賑やかで楽しいノリが世界観とマッチしてて完璧だった。謎が明らかになっていく終盤からは、話のスケールが壮大になりすぎて、置いてけぼりにされてしまいそうになった印象があるものの、ラストの締め方はとても綺麗だったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

企画・タカヒロなだけあり、年上お姉さんキャラにお仕えする、という、君あるのようなコンセプトは本作でも健在で、和香様や琉々葉様のようなキャラとの同居生活はとても微笑ましい。

神話的なエピソードが非常に多いので、それに対する興味の有無でも本作への評価はだいぶ変わると感じる。
九尾狐~ぬらりひょん編あたりまでは神話要素はあまりない。この辺は、基本的に神としての絶大な力を持つ和香様や琉々葉様が妖怪退治をする話であり、奇人変人、色んなキャラが入り乱れるような展開が多い。わちゃわちゃとした賑やかさは、辻堂さんなどのようなみなと作品らしい楽しさが感じられる。
一方で、琉々葉様が高天原に攻め入ろうとするあたりから、神話にまつわる展開が増えてくる。最初の方で、和香様たちが天津神と国津神の対立を強調させておきながら結局なあなあになっていた話が、この辺から本格的に動き出す。したがって、中盤までにあったお祭り騒ぎのような妖怪バトルは鳴りを潜めて、ここからはスケールの大きい神様同士の衝突になっていく。このあたりの終盤にかけた作風の変化が、概ねみなとらしい面白さが薄れていくという意味で、本作の評価の分かれ目だと思う。なんというか終盤のインフレ具合はすさまじい、マジ恋の比ではない。世界創生した神様との対話とかだし…。

そもそも、和香様達が封印から目覚めた時、現世はもちろん、常世にも神がほとんどいなくなっていたのは、天照大御神(=日傘女)が意図的な神話の改変を行い、国津神をはじめとする他の神々の影響力を弱めることが原因である…と説明されるが、黒幕はそのさらに上位の天之御中主神までに辿り着く。ストーリーの構造上、天津神サイドが和香様たちと敵対する立ち位置になるので、葦原中国平定や天孫降臨にまつわる逸話が、天津神による一方的な支配、というニュアンスを本作では感じられる。この解釈が果たして神話の性質からみて妥当なのかどうか当方は詳しくないのでわからないが、物語的な解釈としては面白く、興味深かった。
また、ふることぶみで見られるラストの締めくくり方について考えると、これはまさに遼河(厳密にはその息子)が鵜葺草葺不合命、和香様が玉依毘売命、にキャスティングされた神武天皇生誕の神話の再演である。和香様の正体は不完全なものとされる水蛭子。それが本作では玉依毘売命となり、現人神・神武天皇を生むことになる。「和香様の座する世界」とは、人間のいる現代社会である。人と神が共存する現世で生きていくという本作のテーマに、神話的な解釈がピッタリと重なるような結末は、綺麗な終わり方であると感じるし、さすが田中ロミオというライターの技量が魅せる技なのかなと感じた。
こういう路線も、新鮮で面白い。