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rhknogoさんのWith Ribbonの長文感想

ユーザー
rhknogo
ゲーム
With Ribbon
ブランド
Hulotte
得点
94
参照数
273

一言コメント

タイムリープというSF要素はあるけれど、本作は親と子の思い出がいっぱい詰まった、とっても温かい家族ゲーでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

未来から来た娘と一緒にパートナーを探す、というまさに発想の勝利で、未来の娘の応援を受けながら恋をしていく、という構図がとても温かいものに感じられました。各ヒロインのルートでははるかの母親が見つかるだけでなく、ヒロインが一皮剥けたり、主人公に将来の夢が生まれたり、2人はそれぞれ人として成長するのですが、その成長を遂げられたのも、はるかが現在の時間にやってきて共に毎日を過ごすことができたおかげ。はるかを産む前から家族でたくさん思い出を作っている様子には、将来は絶対に幸せな家庭になるんだろうな、ということが感じられ、終始微笑ましい気持ちで読み進めていました。タイムリープ、という題材ですが、そこまで深く掘り下げられてはおらず、あくまで物語が動き出す切っ掛けとしてその設定が使われています。こういった、SF要素はあるけれどあくまでメインで描かれるのは人と人との絆、という物語が個人的には好きだったのもポイントでした。
キャラ、シナリオ、絵など、すべてにおいて高水準の作品でした。一風変わった設定ながらも、家族の愛情が丁寧に描かれた、素晴らしい家族ゲーでした。

以下、ルートごとの感想

〇澄香ルート
個人的に一番良かったルート。自分自身の出した結果には絶対に後悔したくないという強い信念を持つ澄香には、「結果がすべて」というポリシーがありました。それだけ真剣だからこそ、ルートの終盤で、陸上で良い結果を残すために時間を戻すという選択をしなかった。このルートでは、澄香の考えがタイムリープで過去に戻ることに積極的な考えを持つはるかたちとは対比されて描かれており、そういったところに澄香というヒロインの芯の強さを感じられてとても良かったです。また、ラストのはるかとの別れも、このルートが一番良かったです。澄香は、現在の時間で出会えたはるかとは母娘である前に友達だったと言い、はるかに対する別れの言葉も、「元気で産まれてきてね」という非常に前向きなものでした。他のヒロインのルートでは、哀しい娘との別れ、という側面がありましたが、澄香ルートはあくまで「いつかまた会える友達との一時的なお別れ」という描写がされており、爽やかで好きな締めくくりでした。

〇華澄ルート
お姉ちゃんはサブヒロインであることに攻略後に気付くという罠・・・はさておき。こちらでは時間を戻して澄香の大会の応援に行くため、陸上での惨敗と翔太郎たちに裏切られたショックを受ける澄香の姿を回避できるため、少し気が楽になりました(笑)。澄香の大会当日に親から電話が掛かってくるシーンは、やっぱり家族っていいものだと思わず泣いてしまいました。シナリオは澄香が母親になる可能性の未来から分岐するようなかたちでした。サブヒロインであるため、ボリュームはそこまでありませんでしたが、澄香と結ばれる可能性を潰したと謝る母娘2人を翔太郎が抱き締めるシーンはウルっときました。

〇ゆみみルート
このルートでは、キスをしなきゃ、という義務感でループするだけでなく、ヒロインのことを何とかしてあげたいという気持ちが主人公から一番感じられたのは良かったです。また、2日前に戻る直前にはるかから「誰が好き?」と聞かれるのではなく、最初からゆみみに気が向いてること、ラストで将来の夢をはっきりと宣言していることからも、このルートでの翔太郎は一番しっかりしていて、見ていて気持ちが良かったです。

〇沙蘭ルート
外見的にはるかに一番似ているのは沙蘭だよな…とプレイ中はずっと考えていました。関係的に、攻略難度が一番高いといえる沙蘭でしたが、だからこそ、翔太郎とはるかがあーでもないこーでもないと頑張って沙蘭にアタックするところは、父娘の懸命さが伝わってきて微笑ましかったです。沙蘭は澄香と同じように、タイムリープで人の心を動かそうとする翔太郎たちをズルいと言いますが、一方で沙蘭自身もそのタイムリープの力を使って過去の自分自身を𠮟咤します。「人の心を翻弄はしたが、苦しめるようなことはしなかった」と翔太郎の行動を受け容れるところからも、澄香とはまた違ったポリシーを、沙蘭というキャラに感じることができました。ちなみに、シナリオの目玉であるユウというキャラの存在についてですが、なぜ時間旅行をしていたのか、なぜ学園に馴染めていたのか、などが説明不足だったことが少し残念でした。

〇陽奈ルート
他ヒロインでは最低3週はループする必要がありましたが、陽奈は2週目で結ばれるあたりに、なんとも「らしさ」を感じました。個人的に、陽奈の娘のはるかが朗らかで元気がいいので一番好きでした。一応メインヒロインではあったのでしょうが、シナリオ的には他ヒロインと比べると大きな起伏はなく、結ばれるべき相手との繋がりの強さを再確認した、といった内容でした。欲を言えば、久遠の謎についてこのルートでもっと掘り下げて欲しかったと思います。陽奈のポンコツ人間ぶりには、他ヒロインのルートプレイ中も含めて将来を心配していましたが(笑)、はるかとの別れの際に出てくる「もっと早くしっかりすればよかった」という陽奈のセリフには、母親としての自覚を持った姿が感じられて思わず泣いてしまいました。