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rhapsodyさんのBackStageの長文感想

ユーザー
rhapsody
ゲーム
BackStage
ブランド
TJR(THE JOLLY ROGER)
得点
85
参照数
1125

一言コメント

ライターの成長がありありと感じられる作品。過去作は全く参考にならないほどの高水準な出来ばえは、こちらとしては嬉しい誤算だった。全キャラクリアを目指したのはG線以来だ。

長文感想

絵が萌えっぽい絵なので誤解していたが、内容は非常に硬派一本道でわかりやすい話だった。
主人公自身が硬派で一本芯の通ったやつなので、俳優という厳しい世界を題材にしていることが、硬派な主人公とマッチしてより魅力的な主人公に映る。

持論として、こういった特殊な世界を描く作品はつまらないものが多いと俺は思っている。
原因としては、ライターの実力不足や冗長な説明文、ライターの専門知識の欠如など色々な要因はあると思うが、結果としてライターのただのイメージでしかないスカスカな内容でご都合主義な展開があったり何も伝わるものがなかったりと、散々な作品が多いと今までプレイしてきて感じられたからだ。しかし、本作はそういったオレのイメージを覆してくれた。

そう思えるのは、話の展開云々というより「演劇」という題材を物語と上手く調和出来ている点とキャラ同士の会話のテンポの良さがなにより秀逸だからだ。特殊な背景(他作品の例では、軍事ものだったり吸血鬼がいたり魔法が存在したり)を選ぶ必要性を全く感じないチグハグな作品の多い昨今、これは「演劇」が物語の根幹をなしており、物語の展開もキャラ同士の会話も非常に面白い。残念なのは、演目がどのルートでも同じことである。代わり映えしないラストあたりの展開はどれも似たりよったりなので少し飽きが来てしまった。ルート毎に演目を変えるなりなんなりして変化をつけてみたらもっと良かったのではないだろうか。

荒削りな部分も含まれているものの、芸能の世界に縁のない普通の人間からしてみればブラックボックス的な要素の多い「演劇」という題目を選び、ここまで高い次元に昇華させたことは賞賛の一言である。自然と物語に入り込むことが出来たのは、ひとえにライターの実力だろう。必要な説明と不必要なそれを明確に取捨し、端的に説明することに成功しているように思えたし、上手く設定や知識を物語に溶け込ませながら、センスの良い会話を随所に盛り込ませて話のテンポを良くさせていたのはお見事。

「テンポの良さ」は飽きやすい自分にとって本当に大事な要素である。これは常々思っていることだが、ゲームの文章と小説の文章は別物であるということを分かっていないライターが多すぎる。「小説」では文字が全てであり、他には何もないわけだから、多少冗長な説明文を入れるのは構わない。というか、そうせざるを得ない部分があるのだろう。

しかし、常に立ち絵やCG絵が存在し、場合によっては声が挿入される「ゲーム」では、状況描写を出来る限り省略したほうがテンポよく進むことが多い。状況描写を詳しく説明する文章を挿入する事は、それはそれで良いこともあるのだろうが、絵や声などの演出で既に見せられて知っていることを再度説明されているようで鈍重な感があるし、何よりただの説明文を読んでいて面白いはずがない。声で聞き分けが出来るのに、「誰々が、どんなしゃべり方で、誰に向けて言ったことを、オレは聞いた」なんて描写は声優がいるならいらないわけだ。
ほとんど描写を省いて会話文中心で構成されている「つよきす」なんかはテンポが非常に良いし、何よりライターのセンスが秀逸だったが、「つよきす2」ではその省かれている描写をわざわざ(何故ライターで食っていけるのか不思議なくらいセンスの悪い文章を)挿入し直していたので読んでいてイライラしっぱなしだった。わざわざ無駄な文章入れて冗長にしてどうする!と憤慨したものだ。逆に「暁の護衛」は状況描写を省きすぎて何がなんだかわからん事もあったが、テンポの良さは格別だった。本作はその中間あたりと言えるのではないだろうか。テンポがよくキャラの立ったセリフ回しは読んでいて心地がよかった。


また、主人公が男らしく好感の持てるヤツだったのが、さらに安心して見ていられる好個な点だった。演技、人間関係、生き方等の“壁“を用意し、時には立ち止まり、時には道を外れそうになりながらも、自分と仲間を信じて突き進んで行く主人公は素直に好感が持てたし、魅せ方も上手かった。劇団の中でも中心的な存在でいることを良く表せていたし、何故モテるのかが分かりやすいのでヒロインとくっついてもなんら違和感がなかった。(個人的にはこういう主人公はもっと増えてほしい。)

そんな誰の目にも魅力的に映るだろう主人公が、ヒロインを引っ張っていきながらも自らも成長していく過程は、突出したドラマ性はないが、物語としての起承転結をしっかりと踏めていたと感じた。文句なく良作である。このライターの次回作を楽しみに待ちたい。







蛇足だが、Hシーンで笑わされたのは久しぶりだったw
エロゲをオカズとして見ない人のためにもこういうのは増えてほしいと思う

今までHシーンで笑ったゲーム
・それ散る(星崎希望)
・デモンベイン(アル)
・つよきす(カニ)
・これ(安美)