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resolvedさんのはっぴぃ☆マーガレット!の長文感想

ユーザー
resolved
ゲーム
はっぴぃ☆マーガレット!
ブランド
CROSS NET
得点
100
参照数
841

一言コメント

いなほ!いなほ!いなほ!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私たちはどのような作品を良いものと見做すべきでしょうか?

私は本作に100点をつけることに全く躊躇しなかったのです。確かに淡麗な水の如し清酒を浴びせ続けるテキストの流れに身を任せることはできます。
思えばC's時代の伽遠蒔絵さんのファンでした。『地っ球の平和をま~もるためっ!!』の頃は次回をずっと待っていたものです。パロネタの使い方について大幅に先行していたのではないでしょうか。

しかし今回に私が思ったところによれば、その良いところは、本作でも当然のように用いられたパロネタではなく、まさに「読んでいる」ことを意識させずに「読ませている」ところではないでしょうか。
クラ☆クラやのーぶる☆わーくすのようなベタさがありません。

彼のテキストからはテキスト性を全く感じさせない。担当部分は朧気にしか分からないものです。これは彼のブログで公開されているSSからも分かると思います。
どうも初めてエロゲーに触れてから3本くらいで食傷して以来ずっと惰性で来た私にとって、これは逆説的ながらも衝撃的でした。

だから具体的に「どれが優れている」とか「どの部分が優れている」とかではないのです。決してない。実際には「どこも優れていない」ことが優れていたのです。

FVPによって優れた演出技法も可能になっているのかもしれない。どれだけのスクリプタを必要にしているのかは知らないけれど。
拡大と縮小によって場面と登場人物をグルグルと回していきます。故にヒロインの登場回数は全般に分散的であり、その会話内容にも徹底的な配慮があります。
最も重大なことは別に何かの『ポイント』を具体的に積み上げていくところではありません。
キャラクターを好きにさせること、というのは多分そうではない。何かのイベントによってキャラクターを好きになるのではない。選択肢でそのことにハッと気付かせてくれます

CGは2012年現在の基準で見ても全く遜色ない。
ここのかさんの原画作は(伽遠蒔絵さんの方も最近見ない……残念)ひっそりと待っていたりする。いつか見られれば幸いというものでしょう。
美しく彩られたCGはこの後の2作品である星メモやいろセカと比較しても、それほど劣っているものではないでしょう。
もちろん年代によって進歩していくものだったり、見る目の方も変化していくものです。だけれど、上回っているわけでもないのだけれど、今作の控え目なアプローチは演出と相俟って相当に美しいものです。

さて、ここまで書いてきたそれは、それを100点とするのに十分でしょうか?
実際には書いていることは本当にそう思っているし、どれも完全には不正ではないと思うし、それが全くのウソだと思われることもない。

―――それでも

最後までやれば分かるように本作のプロットは特段として優れているわけではないし、テキスト自身も別に意識しなければ、あるいは実際には大したものではないかもしれません。
FVPの演出技法は確かに優れていると思いますし、CGの美しさも同様ですけれども、2012年現在からみれば、この水準を上回っているゲームはそれほど多くないにしてもいくらか存在します。

それもまた疑いようのないような事実です。

―――しかし

別に具体的に「どうだから」好きになるのではありません。私は「好き」になったから「どうにかしている」のだと気付きます。
いなほ以上のヒロインが出てくることは最早ありえないだろうなあと確信しています。

もちろん私達は具体的に上で挙げたようなことをもって品評することはできるし、私も普段は全くそうしています。
私が想像するのはコマネチに10点満点をつけた時の審査員の気持ちでしょう……!
彼らは間違いなく「盲目」であったのです。そして私も盲目であると思います。「恋は盲目」とはよく言ったもの!

だから私は具体的に優れているから100点をつけるのではないのだと思います。
上で私は、いなほが好きになったから褒めているのだと思います。別にウソを書いている自覚があるというわけではありません。
本作では好きになった後に全てがあるのだと思います。私に、そうであることを確信させてくれた、本当に好きで好きで仕方ないような、最初で最後の作品になりそうです。